賃金シミュレーション・Type-B-1(モデル検証用)のもう少し詳しい仕様を整理しました。

■現行の人事データの整理

全体仕様の下記に該当する

(1)社員がどんな働き方をしているのかを明らかにする
現在の人事制度でどのような構造で社員がそのキャリアパスを描いているのかを明らかにする。主に年齢別の分析になるが、資格等級や役職の分布、学歴や職種などによる階層別集計などが考えられる。

上記に対応して、最初に人事データの準備が必要になる。
通常は、現行の人事データについての実績値をもらうことになる。

この段階では、新人事制度で新たに必要となる項目(例:移行後の呼称の「新グレード」など)は考慮しない。

また、賃金のもらい方についての分析はこの段階では行わない。
どのような賃金の支払い方になっているかは、「賃金分析ツール」で検証すること。

人事データの属性としては下記を取り扱う。

・性別(男性:女性)
・年齢
・勤続年数
・学歴
・採用区分(新卒:中途)
・職種
・資格等級
・役職
・身分(正社員、嘱託、契約社員、その他)

年齢別、あるいは勤続別の属性別人数を集計することが基本となる。

前提条件として、キャリアの蓄積は年齢と比例するという考え方をとっている。
従って、年齢ごとの資格等級や役職の分布を見れば、およそのキャリア年齢を把握することができる。

この段階では、年齢ごとのキャリア形成が職種や学歴などでどのようなレンジで行われるのかを把握する。

■採用計画の設定と要員構成の変化

(2)20年後までの要員のシミュレーションを行う
いくつかの考え方がある。
・高齢者の一定快走の平均値を出してこれを補充するという考え方
・戦略的に新卒採用を計画して補充するという考え方
いずれにしろ将来の要員構成を(少なくとも)人数把握だけはしておくことは重要だろう

に対応した検討を行う。

そのために処理は以下の通りになる。

① 採用計画を決定する
採用計画については、シミュレーションを行う30年間について各年度ごとの採用人数になる。
退職者を補充するという意味で配下の考え方がある。
・特定の年齢の社員数を補填する。
60歳定年では59歳の社員数がこれの対象となる。
65歳までの雇用延長を認めている場合には64歳が対象となるかもしれないが,人数が少ないのがい一般的なので適当ではない
・一定の年齢幅の人数の平均値を均等に補充する
例えば、50歳代の人数の平均値を計算して補充するやり方がある。
極端な人数の増減を吸収するための方法になる。
・企業規模を想定して決定する方法
企業戦略として社員数の規模を想定する場合がある。年度ごとの上限を決め、そこの不足分を補うという考え方。
・戦略的に人数を設定する場合
年度ごとの採用人数を最初から決定するパターン

退職率に関してはシミュレーション上は配慮しない。
一般的に、七五三と言われるように3年内離職率が一定水準あることは承知しているが、もし3年内離職率がある程度想定できるなら、それを考慮し採用人数を設定すること。
例えば、3割の離職率が想定できる中で10人を確保したければ、シミュレーション上は10人として、実際の採用は13人とすること。

この段階では、将来の要員計画を前提とした採用人数を確定すること。

■ルートモデルの設定

下記に対応する

(3)キャリアパスのルートモデルを作成する
現状の社員構成に従って、大まかな分類が可能なキャリアモデルを考える。
現行の社員はいずれかのキャリアモデルに該当することになる。
キャリアモデルとしては、学歴(大卒、高卒)、職種で分類して数種類に集約することが望ましい。
昇進の早い・遅い等で分類することが望ましいが、この段階では割り切って数種類で考えた方が良い。
年齢の他に勤続年数、資格等級、ライフステージ(家族構成、扶養家族の有無)なども想定することが良い。
作成したキャリアモデルは、実在者へのマッピングも行う。

ルートモデルとは現状もしくは本来の人事制度を反映させたキャリアモデルと言える。
新人事制度の検証の比較に使用する。

現状を反映させた物にするか、あるべき論でゆくかは、新人事制度の検証プロセスの考え方なのでどちらが良いとは一概には言えない。
経験的には、新人事制度のキャリアパスを前提にして現状を見たときに、どうあるべきかを想定した方が、後のシミュレーションがスムーズにゆくことがわかっている。

ルートモデルの形状は、縦軸に年齢、横方向はタイプ別に、賃金の決定要素としての資格等級や役職などのパスが記載される。

機能・手順と配慮すべき事項は下記の通りになる。

○管理項目
年齢の他に勤続年数(モデルによっては入社年齢が異なるから)、資格等級、役職が考えられる。
属性としては性別や学歴などもあるが給与の決定には直接関連させるべきではないので不要になる。
この段階で、シミュレーション用データのひな形を生成させることになる。

○ライフステージ
扶養手当などもシミュレーション対象とするならば、扶養家族などのライフステージの設定をすることを求める。
ただし、設定は年齢ごとの家族数、もしくは手当そのものとする。

○モデルの区分数
ルートモデルは、昇格・昇給の早さ、職種、一般職/総合職の区分などを想定した標準モデルをつくることになる。
この段階では、モデル数を多くして精緻化する必要は無い。
下記のモデルの一致に関する情報を元に検討を繰り返す。
ただし、モデルごとに特徴がでることが必要で、どのモデルでも年齢ごとの資格等級や役職が同じであるならモデルをつくる必要が無いので注意が必要だ。

●実在者データとの対比
標準的には、年齢を優先し、一定の範囲内(例えば2年以内)で、資格等級、役職が一致するかを元にどの区分に合致するかを検証する。
一般的に若年層では差が出ないために、どのモデルで一致してしまうことが多い。
一方で、一定の年齢以上(例えば40歳以上)ではいずれかのモデルで合致しておく必要がある。
さもなくば、モデルを分ける必然性がなくなるからだ。

●実在者へのモデルのマッピング
上記のデータを元に、モデルごとの配分比率を設定し、合致しなかった人を乱数で割り当てる。
これは後段のシミュレーションを実施するための処置のためである。

さて、上記で○と●の記号を付けた段落があるのだが、実は●で表記した部分は汎用的なプログラムは作れない。必ず個別企業ごとのカスタマイズが必要になる部分なので相談が必要なことを示している。

■新旧のモデルを定義する

これ以降は一定のテンプレートを用意するものの、カスタマイズを原則とすることを念頭においていてほしい。

このブロックは以下に対応する

(4)新人事制度とルートモデルを対比させる
ルートモデルにあわせて新人事制度の資格等級などの対比をさせる。
働き方や役割が変わることは、それまでのキャリアをリセットすることで有り、本来は現状の処遇をスライドさせることではない。しかし、個人ごとに格付けをし直すことは最終的には行うとしてもこの時点では現実的でない。
また、新人事制度はこの段階では確定していないことが多い。
いくつかの候補としてのモデルをルートモデルで対比させることが必要になる。

この段階では下記の作業を行う。

○ルートモデルと新人事制度での対比を行う

○分析する賃金項目を設定する

○ルートモデルと対応する新人事制度での対比を行う

○これに応じた賃金表を作成する

このブロックでのアウトプットはモデルごとに取得する報酬水準になる。
この段階では新しい人事制度はまだ確定しておらず試行錯誤が求められるだろう。
このブロックと次のブロックは繰り返しの試行になる。

■シミュレーションの実施

このブロックの作業は下記に対応する。

(5)総額人件費などの受け取る報酬金額の変化を確認する
新しい人事制度に移行した場合に、会社としての全体の労務コストがどう変わるのかを、現状、1年後、20年後の比較で検証する。

主な作業手順は以下の通り。

○シミュレーション用シートの作成
新旧それぞれにあわせて個人別データを展開したシミュレーション用のシートを生成する
その際に、新卒採用計画を反映させてデータの自動生成も行う

○30年間を対象としたシミュレーションを実施する

○特定賃金項目に対して集計を行い、新旧の比較を行う。
比較のために下記の集計を基本とする。
・年齢ごとの平均値を算出し比較する
・シミュレーション開始からの特定の年数での比較を行う

このブロックのアウトプットは、30年間のシミュレーションを実施したときに、一定期間後の年齢別の報酬総額が大きく変わるのかどうかを把握するものである。

集計とグラフは年齢別賃金カーブの新旧比較を行うことになる。

このブロックは新人事制度がマクロ的に見たときに報酬体系に大きな変動を起こすかどうかを見るものである。

意図した賃金カーブを得られない場合には、新旧のモデル設定に問題があるかもしれない。
場合によっては、新たな職能制度、あるいは職務給への移行に無理があるのかもしれない。

施策などを見直すことで、何度かシミュレーションを繰り返すことになる。
このシステムでは、繰り返し行うことで新人事制度に対応したキャリアモデルを設計することになる。

このシステムの次の段階では、作成したモデルに対し、現行社員の当てはまり度を検証し、賃金シミュレーションに備えることになる。

これについては又後日。

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