「人事だから知っているはず」は通用しない

HRM系の仕事をしているせいか、労働基準法については多少なりとも知識がついてきている。そのせいだろうか、時々気になる記事を見かける。
少し前まで気になっていたのが「時間外労働」だ。

よく、会社の自慢話で、「我が社の社員は始業前に掃除をしっかりやる」とか「仕事が終わってから勉強会をしている」などという話を聞くと、「無言の強制性」や「無報酬での常態化した仕事」という観点で見てしまう。

さて、先日気になった記事だが・・・

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1910/16/news012.html
ドトール、休日減らして「有給奨励日」に 有給取得の“水増し”に厚生労働省「望ましくない」

記事自体はすでにご存じいる方もいるだろう。
ドトールの言い分もあるだろうがいろいろ批判されている記事だ。

さて、ここで面白いと思ったのはドトール側と厚生労働省が見ている法律が違うかもしれないということだ。

ドトール側の言い分はおそらく以下の文章に集約される。

「ドトールコーヒーショップ」を運営するドトールコーヒー(東京都渋谷区)は、今年度から本社の年間休日を「119日」に固定した。<中略>労働組合はないため、過半数代表者の同意によって就業規則を変更した。

これは、労働基準法第90条
「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。」

に依拠することだろう。
一方で、厚生省の立場は記の記載が該当するだろう。

使用者と労働者間の契約に関しては、08年に施行された「労働契約法」がある。厚生労働省は、同法の周知のためにリーフレットを作成。文中では、就業規則変更に際して「労働者の受ける不利益の程度」を勘案する必要があると説明している。出勤日を増やして有給休暇を取得させるのは、この「不利益」に該当する恐れがある。

この労働契約法には下記の条文がある。

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

少しわかりにくいが、「労働者」とは「労働者一人ひとり」を指すので個別の合意形成がとれているのかという点と、但し書きにある「労働者の受ける不利益」に合理性があるのかと言うのがポイントになるだろう。

違法ではないが問題ありと厚生労働省が判断していることがうかがえる。
法律は解釈が伴うのでここではあまりこれ以上突っ込まない。

面白いなと思ったのは、ドトールが問題にしているのが「労働基準法」であるのに対し厚生労働省は「労働契約法」を持ち出している点だろう。

「労働契約法」については、先日「労働法入門」を読むまで知らなかった。
労働法と云えば労働基準法しか思いつかなかった。「労働契約法」は平成十九年十二月五日公布と云うことなので、比較的最近の法律になる。

人事の専門家などは当然知っているのだろうが、企業人は皆知っているのだろうか?

先日、ある場面で「コンプライアンスの問題」を話していたときに、ハラスメントでの対応で法的義務の話をしていたら「その会社には法務部もあるし、一部上場している。当然知っているだろうし対策もしているのではないか」という発言があった。すべての会社は行政の発行しているガイドラインを知っているわけでもないし、その通りにやっているわけではない。

「やっているはず」なら世の中で問題になるような事件などは起きない。
「人事だから全部知っているはず」なんて前提でものを見ない方が良い。

もしかしたら「ドトール」は「労働契約法」を知らなかった可能性もある。
マネジメントシステムの改善は、「はず」を見直すことから始まる。

と思うのだが・・・

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