戦略人事:リストラと人手不足(沈没船から逃げ出すネズミ)


人事部は目の前のことだけを考えていれば良いわけではない。

■なにげなニュース

○大正製薬HDの早期退職、従業員7%の645人が応募…全員が9月末までに退職
2023/11/10

早期退職の対象は大正製薬HDと国内のグループ会社で勤続3年以上、満30歳以上の正社員。応募者には通常の退職金に特別加算金を上乗せして支給し、希望者の再就職も支援した。大正製薬HDが早期退職者を募集するのは18年度以来、2度目だという。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231110-OYT1T50194/

「組織のスリム化と生産性の向上が狙い」だという。
しかし驚いたのは「満30歳以上の正社員」が対象であり、他の記事を見ると、その人数は全体の7%であり、ほとんどが応募したとのことである。

これは何を意味しているのだろうか。

■業績だけがリストラの理由ではない

大正製薬のホームページからIRAQ情報を取得すると、それほど業績が悪化している余蘊は見えない。
https://www.taisho-holdings.co.jp/investors/finance/highlight.html

しかし、経済記事を見るとそうでもないようだ。
問題なのは、投資家の判断基準であるPBR(株価純資産倍率)が低いと云うことは「その会社の事業に成長する余地がもはやない」または「現経営陣には事業を成長させる力がないと」投資家が判断していることを意味していると判断される合理的な理由があるのだろうト推測されることである。

○大正製薬「PBR1倍割れ」、決算好調でも株式市場で評価されない根本的な理由
2023.4.13
https://diamond.jp/articles/-/321107

そうなる理由は色々あるのだろうが、前回のリストラは結局は旨く行かなかったと云うことだろう。なお、前回のリストラについては下記が参考となる。

○大正製薬、業績堅調でも「人員大削減」の波紋
40代以上の3割が応募、中堅社員が一気に去る
2018/09/10
https://toyokeizai.net/articles/-/236810

■人事部の責務

こうしたリストラは、単に不要な人材を処分する以上に「有能な人材の流失」につながり、会社の性能を劣化させる。考えてもみて欲しい。30人ぐらいの中小企業で若手の優秀な人材が抜けたらどうなるか。現場の悲鳴が聞こえてきそうだ。

こうした組織では、優秀な人材が抜けてしまう上に、特定の年代に集中するリスクもある。結果的に年齢ピラミッドがいびつになる上に、若手の育成にも支障が出る。

人事部はその後始末をすることになる。組織構造や事業構造が変わることにより、人手不足が発生する部署が出てくる。その穴埋めの人材の調達や長期視点での育成プログラムの開発、目の前の再就職支援などで忙殺されるだろう。

戦略人事の進まない大きな理由の一つに、リスクに基づいた人材に関する長期計画がないことである。人事部が「起きたことだけ」に対応する限り未来はない。

戦略人事を標榜するのであれば「長期計画」を作ることである。経営層に任せていてはダメだ。

(2023/11/12)