戦略人事:人事施策を誤れば組織能力を毀損する(ビッグモーターのリストラを考える)


■なにげなニュース

○ビッグモーターの保険代理店登録取り消し 背景に兼重宏一前副社長による保険部門の「大リストラ」
2023.11.24

コロナ禍以降、宏一前副社長の指示で「コストに見合った収益を生まない事業や取り組み」の徹底的な排除が行われていったという。このような実態が保険業法294条3第1項(体制整備義務)に違反する、と認定された。

具体的には20年6月に「苦情対応コールセンター事業」が廃止された。また、同7月には保険部による各店舗への指導・教育などの取り組みを中止した。その人員を、各店舗の営業支援などに振り分けた結果、23人体制だった保険部は12人になった。さらに、同10月に保険部長が辞任した際、経営陣は後任者を配置しなかったという。21年2月には、各店舗内で保険募集の管理指導を行う保険推進委員も廃止したため、保険募集人への組織的な教育・管理・指導が行われない状況となった。

https://www.netdenjd.com/articles/-/293926

不採算部門の見直しが悪いとは云わない。しかし、ヒューマンパワーを縮小すれば組織能力が下がる。これを見越した対策を取らねば致命的になりかねない。

一般論で云えば、組織能力を維持したままで直接のヒューマンパワーの削減をするのであれば代替手段を執らなければならない。一つにはアウトソースなどもあり得るだろう。

■算数の問題

「コストに見合った収益」という考え方は悪くはない。しかし、当たり前の話であるが、収益を生み出す状況は
収益 = f(資源)
で表現され、資源の量とコストは一定の関数関係にあるから、単純にコストを下げると言うことは資源も少なくさせると云うことである。何らかの施策を行なわなければf()という関数系も変わらないので、同様に収益も下がる。収益が下がればコストを見直すと云うことであれば、さらに収益も下がる。悪循環である。

すべきことは、収益を生み出せるビジネスモデルの再構築、すなわち
収益 = g(資源) > f(資源)
という関数系を見つけることである。

仮に、ビッグモーターの社長が「半分の人数でも同じ収益を上げられる」と思っていたとしたら算数ができない経営者である。

■人事部門の責任

戦略人事というフレームの中で、人事部門は単に人に関する諸施策の運用部隊ではなく、「諸施策の構築に関しても関与すべきである」と言う経営側の要請に応えるという自覚があるのであれば、安易な人員削減にはストップをかけるべきである。

それは、解雇という問題だけではない。部門間異動、職種転換なども含めて考えるべきである。これらを情緒的に考えてはならない。事業プロセスをシステム思考的に捉えて考えるべきである。

勘と経験と度胸は最後の手段である。

(2023/12/17)