社内にある障害者やジェンダーに対する偏見に対応するのは経営者の責任であり人事部門が関わるべき領域である。
人事部門の守備範囲の拡張や個別対応力の向上も課題である。
■確実に積み上がる判例や事実
○生殖機能なくす要件は「違憲」 申立人“今回の結果がよい方向に結びつくきっかけになると嬉しく思います”
2023年10月25日
最高裁大法廷は25日、戸籍上の性別を変更するには生殖機能をなくす手術が必要とされている法律の要件は、憲法に違反している=「違憲」との判断を初めて示しました。
この申し立ては、戸籍上は男性で女性として生活している性同一性障害の申立人が、法律で性別変更の要件に、実質的に生殖能力をなくす手術を求めていることは憲法に違反するとして、手術を受けずに性別変更を認めるよう求めているものです。
https://news.ntv.co.jp/category/society/19821c93e75041c9ab91595c6f2e8c2b
もちろんこれだけで関連法規が整備されるわけではない。しかし、ジェンダーに対して平等に向き合うことを求める社会の流れは確実に醸成されるだろう。
そのときは企業もこれに向き合わなければならない。
こうした従来の社員とは異なる人々の参画は時代の趨勢である。
障害者雇用も同様である。
○半数以上の企業が達成していない「障害者雇用」 意識すべきは「当たり前」のこと
2020年度末までに法定雇用率はさらなる引き上げ
2019年11月28日
厚生労働省発表の「平成30年 障害者雇用状況の集計結果」によると、18年時点で法定雇用率を達成している企業の割合は45.9%にとどまっている。半数以上の企業が達成していないのが現実だ。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1911/28/news029.html
「まだ半数」と見るか「すでに半数」と見るかは難しいところではあるが、この趨勢はそのまま続くであろう。
性的マイノリティ、障害者が一緒に働くということに対して人事部が果たす役割を強化することも選択肢に入れる必要がある。
■多様性社会に対して行なうべきこと
(1)ハードウエアの整備
一般に障害者雇用というと四肢に障害がある人を思い起こす。そのため「バリアフリー」が設備の改修の対象となる。しかし、障害者と云っても多様である。視覚障害、聴覚障害、ろうあ者などもいるだろう。彼らに対するコミュニケーション支援システムを整備することが望ましい。今は技術的にできなくとも、ウエアラブルコンピューターとAIを駆使して先進的なツールが整備されることが望ましい。
当然、トイレなどの整備も必要である。
ジェンダー対策として配慮すべきこととしては更衣室なども配慮の対象となる。
まだ先例が少ないので試行錯誤が伴うが必要である。
こうした利用者の声を集めるのも人事部門の役割である。
(2)働き方の改革
今ある仕事を、障害者にそのまま適用する発想では不十分である。彼らの個性に合わせた業務プロセスの開発が必要である。障害者であるから、健常者と同じ働き方を強いるのは間違っている。彼らならではの業務プロセスを開発しなければならない。
例えば、座っていてもできる仕事(企画、調査、開発)などの比重の拡大、視覚障害などだからこそできる感応検査、障害者向けの製品開発など。
また、自宅からの通勤が難しければリモートワークやサポート業務の改革などもあり得る。
ジェンダーへの配慮も同じである。身体的に女性である人に男性と同じ業務を求めてはならない。力仕事にも限界があるだろう。身体的に男性であっても心が女性であったとしても、無理矢理性別に応じた仕事の割り振りは間違っている。
むしろ,男性・女性に関係なく肉体的・心理的な負荷が生じないような仕事の進め方が必要である。
(3)啓蒙と発信
かれらを「気味が悪い」と発言する人々をゼロにしなければならない。
性的マイノリティや障害者に対して、社員の理解がないと「セクハラ」「パワハラ」になりかねない。起きてからでは遅すぎる。コンプライアンス問題と同様に重視し、継続的な啓蒙活動を実施しなければならない。同時に、社外、特に社会に対して自社の取り組みを発信すべきである。ブランド戦略の一環になる。
■複合的な問題
人に関わる問題は、単に採用からはじまる雇用の管理だけではない。法令への対応、業務プロセスの開発、ブランド戦略なども関係してくる。守備範囲を広げるとともに、自部門の対応力も上げなければならない。
学習する組織として人事部門を位置づけなければならない。
(2023/12/27)