■誤解を招く要求事項の図
「0.1一般」には下記の記載がある。
組織は,PDCA サイクルによって,組織のプロセスに適切な資源を与え,マネジメントすることを確実にし,かつ,改善の機会を明確にし,取り組むことを確実にすることができる。
すなわちPDCAのアウトプットは「改善の機会」だという。
実際、「0.3.2 PDCA サイクル」では、
P:計画
D:支援、運用
C:パフォーマンス評価
A:改善
と対比させるきさいになっており、下記の説明が付記されている。
-Plan:システム及びそのプロセスの目標を設定し,顧客要求事項及び組織の方針に沿った結果を出すために必要な資源を用意し,リスク及び機会を特定し,かつ,それらに取り組む。
-Do:計画されたことを実行する。
-Check:方針,目標,要求事項及び計画した活動に照らして,プロセス並びにその結果としての製品及びサービスを監視し,(該当する場合には,必ず)測定し,その結果を報告する。
-Act:必要に応じて,パフォーマンスを改善するための処置をとる。
”PDCA サイクルは,次のように簡潔に説明できる。”とあるように簡潔すぎて実際の活動には適用できない。マネジメントシステムは構造上の類似はあるものの企業ごとに実現方法が異なる。それは「0.1 一般」の最初の以下の文言でも明kであろう。
「品質マネジメントシステムの採用は,パフォーマンス全体を改善し,持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る,組織の戦略上の決定である。」
差別化されない戦略で企業が生き残れるわけもない。したがって、戦略の前提のないPDCAは形式的な活動になり、「改善」につながる訳もない。
なぜならば、達成したい戦略の結果が想定されないPDCAは、活動自体の評価をする基準はなく、いくら改善を考えていてもその正当性は表明できない。
PDCAとは何かを改めて考える必要がある。
1点目は戦略から導き出されると言うこと。
2点目は、未来に対して仮説をしのばせること。
したがって、単にタスク(すべきこと)た時期の決まっているスケジュールをPDCAのPにしても無意味である。
■戦略とPDCA
あらためて、経営とは何かを簡単に見ておこう。
まずは、企業には「起業理念」がある。それは、その起業がなぜ存在するのかという理由であり、多くは社是社訓やミッションという形で表現される。組織というのは、その「起業理念」を実現するために人々が集まり、目的達成の為に活動することである。
目的を達成するためには、まずは中間目標が必要になる。すなわち、組織をどのように運営するのかという全体方針である。これが「経営理念」である。したがって、経営理念には、人々の行動を一方向に向かわせるための「ミッション・ビジョン・バリュー」が表現されていなければならない。
「経営理念」をいくら叫ぼうが「起業理念」(目的)は達成されない。ここで必要な経営資源が計画される。戦略とは、「このような資源をこのように使えばこういう結果がえらるはずだ」という物語である。その物語は、妄想ではダメである。具体的な活動に表現されなければならない。それがPDCAの役割である。
したがって、戦略が求める目的達成の為の活動としての計画がPDCAの中に組み込まれていなければならない。
単にタスク(すべきこと)た時期の決まっているスケジュールをPDCAのPにしても無意味であるとはそういう意味である。
■未来は誰にも分からない
理数系の人種が語ることに「我々は未来について唯一知っていることがある。それは未来は誰にもわからない」ということだ。もちろん、推論することや物理学などに基づく予測は出来る。しかし、それらはあくまでも可能性にしか過ぎない。
戦略を
戦略とは、「このような資源をこのように使えばこういう結果がえらるはずだ」という物語である。
と説明した。そこで描かれる未来は「可能性の一つ」に過ぎない。
戦略実現の文脈の中で語られるPDCAの前提条件として、
P:計画段階では成功したかどうかの基準が設定されること。
D:戦略に基づいた活動が行われること
C:その活動結果の計測結果はPで設定した基準を食えアベルコとが出来ること
A:計画と実際の結果が差異にあった場合には、
①Pの段階の仮説が間違っていないか
②Dの段階で活動の不備がなかったか
③Cの段階で見落とした指標がないか
が適切に行なわれていることが必要である。
すでに決まっている予定は計画とは呼ばない。スケジュールは計画ではない。
なぜならば、それが実施されたとしても結果を左右する活動ではないからだ。
それはどんなに言い訳したとしてもPDCAではない。
■形がい化するPDCA
仮説を含むPDCAは、標準的な活動を行うことで結果を担保するSDCAとは異なる。
それは決められたプロセス通りに行なえば結果は補償されるのでプロセスの監視は必要なく、結果は予測ではなく過去のデータとの対比ですむからだ。
こうしたことはISO9001:2015の審査において、そのマネジメントシステムの形がい化を招く一要因となってる。
箇条「6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定」では
6.2.1 組織は,品質マネジメントシステムに必要な,関連する機能,階層及びプロセスにおいて,品質目標を確立しなければならない。
品質目標は,次の事項を満たさなければならない。
a) 品質方針と整合している。
b) 測定可能である。
c) 適用される要求事項を考慮に入れる。
d) 製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上に関連している。
となっている。しかし、「測定可能である」ことと伴に、「製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上」を計測できなければ意味が無い。また、結果として計測できる事象は要因を特定できなければならない。
「売上げ目標○○円」「工場事故ゼロ」などは、それを達成する施策は多岐にわたり、結果として達成されたとしても達成できなかったとしてもどれが原因かは容易に分かるはずもなく改善にはつながらない。
また、計測できるからと言って「スケジュール」や「予定されている仕事」をいくら記載したとしても、又これは改善にはつながらない。
なぜそうなのかといえば、最初に「製品及びサービスの適合,並びに顧客満足の向上」を何で量るのかという指標性を無視しているからである。
■改善につながらないPDCA
そうした事例として顕著に表われる事例を見ておこう。
○「神奈川版ライドシェア」始動 新しい夜の足へ 三浦で出発式
2024年4月18日
黒岩祐治知事肝いりの「神奈川版ライドシェア」で、実証実験を行う場として三浦市が選ばれた背景には、住民生活や地域経済に影響を与えるほど深刻なタクシー不足がある。
市などによると、市内で運行するタクシーは2018年度に54台あったが、昨年度は44台に減少。しかも、地元2社のうち1社が採算性などを理由に22年夏から午後7時以降の営業を取りやめたため、特に夜は利用するのが難しくなった。
夜間の移動手段の乏しさは、各方面に支障を及ぼした。酒類を提供する飲食店はタクシーを呼べないことが客足に響くことから、改善を求める声を上げていた。救急搬送された患者が治療を終えた後に帰宅できず、病院に宿泊せざるを得なかったケースもあったという。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/321966
ここでのポイントは
①「夜のタクシーの確保がむずかしい」事を解決すること
②データとして「市内で運行するタクシーは2018年度に54台あったが、昨年度は44台に減少」
を挙げている事であろう。
しかし、これは非常におかしい。なぜならば
①何台あれば充足できるかが示されていないので成否の基準が分からない
②客足に響くというがタクシーがあれば売上が上がるという根拠が希薄である
③患者が治療を終えた後に帰宅できず、病院に宿泊せざるを得なかったのであれば病院に宿泊設備を用意すれば良い
といった議論が飛ばされていることあろう。
そのため、結果だけを見て右往左往することになる。
○三浦のライドシェア、利用は20日間で16件…GW中も低調続く、実証実験
2024年5月9日
夜間の移動手段が乏しい三浦市で4月に始まった一般ドライバーが自家用車を使い有償で客を運ぶ「神奈川版ライドシェア(愛称・かなライド@みうら)」の実証実験を巡り、県は9日、運用開始から20日間の利用実績が16件だったと明らかにした。単純計算で1日当たり1件の利用にも届いておらず、低調な状況が続いている。
https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1076625.html
これは何を意味しているのだろうか。明らかに利用者が少ないことが分かる。しかし、一日に1件でもよいというならば成功であろう。しかし、葬でもなさそうである。
○三浦のライドシェア、開始5日間で利用は7件…黒岩知事「非常に少ない」
2024年4月23日
旗振り役の県や実施主体の同市は実証実験で1日5件程度の利用を想定しており、この水準に達しない滑り出しとなった。知事は「始まったばかりで推移を見なければならないが、(5日間で)7件の利用は非常に少ないと思わざるを得ない」と述べた。
https://www.kanaloco.jp/news/government/article-1073065.html
こうした現状は何に由来するのだろう。
分析とは、こうした視点で現状を見ることである。
○神奈川のライドシェア「想像以上に需要少ない」 解禁から1カ月
2024/5/13
タクシー不足を解消するため、一般ドライバーが自家用車に有料で客を乗せる「日本版ライドシェア」が神奈川県内で始まって12日で1カ月となった。解禁時に比べ、参入したタクシー会社は大幅に増えたものの、参入会社の中には「現状では、想像以上に需要が少ない」として先行きを懸念する声が上がっている。
県内では横浜、川崎、横須賀、三浦の4市でタクシー不足の時間帯に限って解禁した。金、土、日曜の午前0~6時、午後4~8時が対象だ。
https://mainichi.jp/articles/20240513/k00/00m/040/263000c
“参入したタクシー会社は大幅に増えたものの、参入会社の中には「現状では、想像以上に需要が少ない」”と言うことから、キャパが少ないわけではない。考えられるのは下記の通り。
・認知度が低い
・利用手順が複雑もしくは使い勝手が悪い
・そもそも需要がない
だろうか。
しかし、こうした分析は推論でしかない。PDCAの最初段階で「成功のための仮説」とそれを裏付けるデータ収集をしていなければ改善などは出来ない。
■おまけ
タクシーが不足しているという客観的データはどこに在るのだろう。
タクシー待ちが発生することは事実であろう。
しかし、どういう基準で”不足”を考えるのだろう。
駅まで、夜の繁華街で、タクシーが捕まらないと嘆くヒトはいるだろう。しかしそんなことは当たり前である。なぜならば、常に空きタクシーがある状態でなければ完全な充足は出来ない。
データが無い中でタクシー不足を議論するのは間違っている。
○東京で深刻「タクシー、全然捕まらない」問題の原因
年末から多発、迎車や配車アプリでも確保困難
2023/01/13
12月という一年で最も売り上げが立ちやすい時期、外国人観光客の戻りなどの要因も重なっていたが、それを抜きにしても慢性的なタクシー不足が発生している。
その理由はどこにあるのか。タクシー関係者の話を拾っていくと、まず見えてきたのは実働台数が大幅に減少しているという点だった。
もともと都内の運転手は、近年では年間1000人超の減少傾向が続いていた。それが2020年には4000人超が減り、2022年に至っては9000人超が職を離れたとされている。2023年を迎えた現在、都内のドライバーは過去最低の登録数となった。つまり、タクシーを稼働したくても、乗務員が足らずに思うような営業ができないという状況に陥っているのだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/645478
状況の一面ではあるが、ドライバーが増えたら解決されるのかといえば、そもそも乗車する人も減っているのであるから片方の数字(ドライバー数)だけを見るのではなく、乗りたいと希望する人々の数(需要)との対比で見る必要がある。空気だけ運んでいるタクシーの数が多い中で運行数だけ増やしても意味は無い。
(2024/05/20)