世間に転がる意味不明:問題を混ぜるな(最低賃金、価格転嫁、下請法違反は土俵が違う)


■経営者の責任、企業の責任

最低賃金の議論をすると必ず俎上に上がるのが、「中小企業では余裕がない」「価格転嫁ができない」などの話題である。

「中小企業で余裕がない」という話は、単純に経営が下手だと云うことである。経営者が無能な責任をどうして従業員が負わなければならないのか。

行き過ぎた「価格転嫁ができない」状態はすでに違法性が高くなっている。企業間同士の法令遵守の話は従業員には関係が無い。

労務コストを確保するのは経営の責任であり、それを他者に押しつける感覚はついて行けない。

こうしたリスクを他者に押しつけるというビジネスモデルで急成長したのがウーバーイーツであり、個人事業主を隠れ蓑に云いように使い回していたのがアマゾンやヤマトであろう。

これは、下請けに対して価格転嫁をしないという事で成り立っている業界なども含まれる。
業界の問題は業界で解決しなければならない。
しかし、それを怠っているように見受けられる記事もある。

○日産だけではない?下請けは「生かさぬよう殺さぬよう」 自動車業界で放置されてきた「買いたたき」
2024年3月5日

 経済ジャーナリストの井上久男氏は「下請けへの値引き要請は自動車業界の一部では慣例になっていた可能性がある」とみる。

これまでトヨタ自動車は年2回、下請けの部品メーカーと値引きにつながる価格の見直し交渉を行ってきた。
また、マツダは下請け3社から手数料名目で約5100万円を不当に徴収したとして、2021年に公取委から下請法違反で是正勧告を受けた。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/313063

○下請けハラスメントは経営リスク 供給網揺るがす
2024年3月31日

「大企業が上、中小企業が下」という日本の商取引慣行が経済の足かせとなっている。中小への賃上げ波及に欠かせない価格転嫁を阻害してきただけでなく、様々な不当要求の温床になっている。取引先を含む供給網全体で経済安全保障や脱炭素に取り組む現代のビジネスモデルになじまない「下請けハラスメント」は経営リスクになる。

中小企業庁が2023年10〜12月に実施した中小企業3万6千社へのアンケート調査が問題の根深さを浮き彫りにした。大企業が価格交渉を申し入れたかや、コスト上昇分を転嫁できたかを聞いた。

中小10社以上から「主要な取引先」として挙がった大企業220社の状況を点数化した。A〜Dの4段階で判定し社名を公表した。交渉と転嫁のいずれもA評価を得たのは2%、5社だけだった。ケーブルテレビ最大手のJCOMは価格交渉でD評価がついた。ともにC評価の企業は33社に達した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA148Y20U4A310C2000000/

■忘れて欲しくない個別記事

では、実際どんな事件・記事があったのだろうか。
まずは忘れないように列記する。

○コストコが食料品納入業者への支払いを一方的減額…被害23社で3550万円、公取委が勧告
2024/03/12

プライベートブランド(PB)の食料品を製造する下請け業者に支払うべき代金を一方的に引き下げたなどとして、公正取引委員会は12日、米国発祥の会員制スーパー・コストコを運営する「コストコホールセールジャパン」(千葉県)に下請法違反(減額の禁止など)で再発防止を求める勧告を行った。不利益を被った業者は23社で被害相当額は計約3550万円。同社は先月、全額を各業者に支払った。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20240312-OYT1T50108/

○ニデック子会社が「下請けいじめ」、発注せずに金型の無償保管と棚卸し作業を強要
2024.03.27

 ニデックの子会社が「下請けいじめ」──。公正取引委員会は2024年3月25日、下請法の規定に違反する行為があったとしてニデックテクノモータ(京都市)に対して勧告を行ったと発表した。金型の無償保管などを行わせていた。

遅くとも2022年5月1日以降、発注時期を明確に示さずに、計600個の金型などを無償で保管させていた。その上、それらの金型などに対し、現状確認などを目的とした棚卸し作業を年間2回行わせていた。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/24/00452/

○東武トップツアーズなど3業者を観光庁が処分 「下限割れ」で手配
2024年3月26日

 観光庁によると、「東武トップツアーズ」(東京)の広島支店と「オリオンツアー」(東京)の本社営業所は、貸し切りバス事業者が届け出ている運賃・料金の下限を下回る運賃でバスを手配して旅行を実施した。「キャラバンツアー」(愛知)の東京支店では発着地がいずれも営業区域外の貸し切りバスを手配して旅行を実施した

https://www.asahi.com/articles/ASS3V32NCS3VUTIL02GM.html

これらの記事はエピソードでしか無く、社会に蔓延しているという事ではない。
此処で重要なのは、社会からの関心が一定程度引きつけているということであり、これが政治的に利用されかねないという所にある。

■行政の介入

今年の春頃には盛んに関連するニュースが流れた。

○下請けに「代金減額」、日産へ注がれる厳しい視線
経済好循環を阻む「甘えの構造」に公取がメス
2024/03/17

前週の3月7日、公取が日産に対して下請け業者への納入代金を一方的に減額したとして下請法(下請代金支払遅延等防止法)違反を認定し、再発防止などを求める勧告を行った。

日産はアルミホイールを製造するなど36の下請事業者に対して、発注時に決めた金額から「割戻金」の名目で減額していた。こうした行為は下請事業者との合意があっても違法となる。

公取の片桐一幸取引部長は「適正な価格転嫁が強く求められる中、下請法違反がサプライチェーンの頂点に立つ企業で行われていたことは非常に遺憾だ」と強く非難した。

https://toyokeizai.net/articles/-/741477

○ダイハツ・京セラなど10社公表 下請けの価格転嫁応じず―公取委
2024年03月15日

公正取引委員会は15日、下請け企業との間で人件費や原材料費などコスト上昇分の価格転嫁について協議せず、取引価格を据え置いたとして、ダイハツ工業や京セラなど10社の社名を公表した。中小企業が賃上げ原資を確保できる環境を整備するため、10社には下請け企業との価格交渉を促し改善を求める。

公取委は、コスト上昇分を取引価格に反映させず据え置く行為は、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」などに当たる可能性があると指摘している。企業取引課は「公表によって価格転嫁をより一層後押しする」と説明している。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031500936

■ミスリードさせる報道

下請法などに関わる事柄は法令違反であり、公正取引委員会が問題視するのはあくまでも法令遵守である。

しかし、これを「賃上げ」に結びつける報道がある。

○電機業界団体に価格転嫁要請 賃上げ、中小企業波及へ―斎藤経産相
2024年03月27日

斎藤氏は、中小企業庁の調査で業界の価格転嫁率が53.4%にとどまったと指摘。中小企業に負担がしわ寄せされて適切な利益や必要な人材を確保できない場合、「サプライチェーン(供給網)全体の脆弱(ぜいじゃく)化につながり、発注者自身にも悪影響が及ぶ」と懸念を示した。これに対し小島氏は「適切に価格転嫁が進むよう努めていく」と応じた。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024032700416

これは危険であろう。
なぜか、適正な価格転嫁は取引の正常化を促す話であり、賃上げは利益の配分の話である。
配分できる利益を獲得できないのは経営の話であり、労働分配率は経営指標のひとつである。

賃上げの話は、労働分配率を指標として設定もせず、利益や業績だけに目を向け「もうからないなぁ」となげく経営者の無能さと結びつけなければならない。
下記も問題を混ぜている論である。

○商品コストの“価格転嫁”追いつかず 実態明らかに
2024年3月22日

大企業を中心に好調な賃上げが続く一方、賃上げなどで上がった商品のコストを価格に転嫁する動きが追いついていない実態が明らかになりました。

コストが100円上昇した場合、40.6円分しか価格に上乗せできていない計算になり、去年7月の前回調査より3円分、下がっています。好調な賃上げの一方、コストを価格に転嫁できていない実態が浮き彫りになりました。

https://news.ntv.co.jp/category/economy/5969ec50d05544438e93755fb17cdeea

価格転嫁と賃上げは同じ土俵の問題ではない。
何度も繰り返す。
問題を混ぜるな。

2024/08/01