世間に転がる意味不明:地域交通の問題点:LRTはバスの欠点を補えるのか(トラフィックミックスという考え方)


世間に転がる意味不明:地域交通の問題点:LRTはバスの欠点を補えるのか(トラフィックミックスという考え方)

ちょっととりとめのない話になってしまったが、備忘録的なこととして記載。
個別の政策ではなくグランドデザインを考えて欲しいと云うこと。

■ライドシェアだけが選択肢ではない

2024年問題から派生した人手不足問題からタクシー運転手の不足、これの解決策の日本版のライドシェアというゆがんだ制度設計が進められている。こうした問題の根本は、様々な課題を混ぜてしまうところにある。

地域交通の問題で言えば、過疎地、地方都市、観光地、都市部では課題が異なる。
タクシーの問題で言えば、経営上の課題が先に来るはずであり、運転手不足はその付帯条項である。
タクシー運転手の問題で言えば、賃金問題は避けて通れない。
観光地・都市部の交通問題には“渋滞”と言う問題も含まれる。

こうした中であたかもライドシェアが解決策で有効であるとの報道は、「自動車で交通機関を支える」考えに囚われすぎていると思われる。

都市の交通問題は様々な要因がからんでくる。当然、運転手の人手不足問題もからんでくるだろう。しかし、全ての交通手段を「タクシー」に依存することは望ましくない。交通手段としての多様性も担保しておくことは無駄ではない。

勝手に「トラフィックミックス」と呼んでいるのだが、手段として公共交通機関としては
・鉄道
・モノレール
・バス
企業のものとしては
・タクシー
など、これに、レンタカー、カーシェアリング、自転車や送迎バスなどを加え、
自動運転、乗り合いバス方式などの運営形態を配慮して様々な手段で高越問題は解決できると言う考え方がある。

・都市間交通と都市内交通は問題が異なる。
・都市内交通も郊外の交通問題と繁華街での問題は異なる
・都市部と山間部(あるいは過疎地)での問題は異なる
・公共交通機関でもバスと鉄道では問題が異なる
・ルートの一定の交通手段とルートが自由な交通機関では解決方法が異なる

と言うことを配慮すれば答えは一つではない。

■LRTと言う選択肢

鉄道やモノレールの軌道上を運行される交通機関や公共期間としてのバスなどはその性格上
・ルートが固定されている
・時刻表などあらかじめ運行時間が限られている
という制約がある。
そのため、仮に乗客がいなくても運行しなくてはならないと言う制約があるために経営上の負荷がかかるのは否めない。

そのため、特にバスなどは民間に委託していることなどは採算性がとれないと云うことで撤退する、あるいは減便すると云うことで状況はよろしくない。

こうしたことを経済性の観点を優先していると解決の糸口が見えにくくなり、多様な視点が必要になる。上記のトラフィックミックスもそのうちの一つである。

もう一つは、都市計画というグランドデザインである。

地方自治体は都市が栄え、人口が増え税収が増えることが望ましい。そのためには華やかな成功にすがる気持ちもむげにはできない。しかし、こうした計画は思いつきで行なわれるのではなく周到な議論の末に行なわれる。

交通問題を様々な問題の一つだという認識に持ち、「まずは街作りをどうするのか」という観点から、デザインを行ない、その中で交通をどう捉えてゆくのかの議論が有効ではないかと思う事例がある。

その一つが宇都宮のLRTであろう。

宇都宮のLRT計画は、宇都宮駅とホンダの工場を結ぶことを基幹として交通渋滞を緩和することを目標としていたはずである。それは、結果として他のバス交通をスムーズにするとともに運転手の負担軽減などにもつながるはずである。

間接的には、運転手の労働環境の改善や人手不足に対する一定の干渉が期待できる。
すでに目標の乗客数の確保はできており、さらに延伸する議論も出ている。

○LRTを鹿沼まで延伸しよう 市議会有志が推進議連設立 調査研究や要望活動実施へ
2024/03/19

宇都宮市と芳賀町が進める次世代型路面電車(LRT)事業に関し、市議会有志が18日、鹿沼延伸の推進を目的とした「市議会LRT整備推進議員連盟」を設立した。

同議連は市議会6会派の計17人で構成。この日市役所で開いた初会合で、目的を「市における道路交通の補完として、人と環境にやさしい公共交通である次世代型路面電車システムの整備を推進する」とするなどした規約を承認。

https://nordot.app/1142548835749970696

元々は、「コンパクトシティ」を云うコンセプトがあり、当然渋滞問題の解決もあるが駅前開発による地域活性化なども視野に入れた取り組みである。

同じコンパクトシティを目指し「富山モデル」を提唱する富山市の例なども参考になっているだろう。

■追随する他の都市

宇都宮市のLRTはその先端的なデザインもあって、観光資源としての存在感も期待したい。
ヨーロッパの街並みを再現する取り組みもセットにすればもっと人が呼び込めるかもしれない。

LRTの戦略にはこうしたシナリオも必要であり、単に便利だからと云う発想は危険である。
なぜなら、万能であれば全ての地方自治体がもっと取り組んでいるはずである。

だとしても交通問題に悩む各自治体は、こうした先例があれば議論がしやすいのだろう。安易な議論は心配にはなるが、それでも手本があれば議論が進むと思わせる記事がいくつか出ている。

○LRTは走れるか 和歌山市が新年度重点施策に「導入可能性の検討」
2024年2月23日

 市がLRTの導入を模索するのは、地方公共交通機関に対する懸念がある。自動車運転免許を返納した人たちへの対応が求められる一方で、全国的にバスなどの運転手不足も深刻化している。

和歌山市では今月、けやき大通りで自動運転によるバスの実証運行を実施した。群馬大学発のベンチャー企業「日本モビリティ」と共同で、JR和歌山駅から和歌山城公園までの約2キロの区間でバスを時速20~30キロで走らせた。試乗した市民約360人からはおおむね好評だったという。

https://www.asahi.com/articles/ASS2Q7F62S2NPXLB00M.html

上記の「市がLRTの導入を模索するのは、地方公共交通機関に対する懸念がある。自動車運転免許を返納した人たちへの対応が求められる一方で、全国的にバスなどの運転手不足も深刻化している。」と言う視点を忘れないで欲しい。なぜなら施策評価の重要な視点になるからである。

これ以外はダメといっているのではない。
たとえば、「交通渋滞」に焦点を絞った政策展開も評価できる。
沖縄はもともと鉄道がなく、一部にモノレールがあるだけである。
そして那覇市内の交通渋滞も那覇空港の存在もあり課題であることは理解できる。

○宇都宮に続け…那覇にも次世代型路面電車を 市がパブコメ実施へ
2024/3/15

高齢者や障害者が乗降しやすいように車両の床を低くした「LRT」(次世代型路面電車)の導入に向け、那覇市が令和6年度にもパブリックコメント(意見公募)を行う方針であることが15日、同市への取材で分かった。戦後、車社会が進んだ沖縄では交通渋滞が慢性化しており、定時運行を確保でき、自動車より二酸化炭素(CO2)排出量の少ないLRTなどの鉄軌道実現を望む声が高まっている。

https://www.sankei.com/article/20240315-2JTAMBFVYBJBDJS5J2GA2U4YAY/

○那覇市、次世代型路面電車導入へ 久茂地―識名、国場―新都心の2路線 25年度中の整備計画策定目指す
2024年03月16日

 沖縄県那覇市が次世代型路面電車(LRT)導入に向けて、昨年作成した「LRT整備計画素案」を巡り、市や県などの行政機関や交通機関などを交えた那覇市都市交通協議会幹事会は14日、素案に対するパブリックコメントを実施することを確認した。

https://ryukyushimpo.jp/news/politics/entry-2902989.html

したがって、この解決の為に動いており、それの一つがLRTであるという文脈は、たにはやりだからと云う異常に意味がある。そうした意味では評価したい。

○那覇市がLRT整備計画素案公表 早ければ16年後、超急勾配区間も 専門家「沖縄特有」
2024/3/28

「誰もが移動しやすい街をつくるため、LRT導入に向けた取り組みを始めている」。那覇市の知念覚市長は28日の記者会見でこう語った。LRTという新たな公共交通の仕組みでこれまでの自動車依存を見直し、「さらに住みよい街へと発展させていきたい」(知念市長)考えだ。

https://www.sankei.com/article/20240328-DK7INM442NKLZBEA4R5DTLDHLE/

■懸念されることと配慮して欲しいこと

トラフィックミックスを推進するにしても、一定の公共性を配慮することは必要であるが、それを前提にしない方が良い。例えば
・利用者が少ない地域に大規模な設備投資が必要な交通機関は辞める。
これは、地方のローカル線を採算がとれないなら採算がとれる交通手段を考えると云うことである。
・ルートの柔軟性がとれる仕組みを考える
例えば、小回りの利く小型のLRTを開発し、複数ルートから利用者が選択できる仕組みなども考えられる。
・支払い方法を限定する
今後の自動か運転を考えると、支払いは電子的なものに限定し、金額が不足することが明らかな場合には乗車できないような仕組みも考える。誰にでも利便性という考え方は捨てる。
などがある。

平等という呪縛からの脱却が必要である。

もう一点は、何度も言うように問題を混ぜないことである。

タクシー運転手だけが不足しているわけではない。
2024年問題と並行して「運転手不足」は地域の足にも悪影響を及ぼしている。
本来地域の公共交通機関は採算をある程度犠牲にしても維持しなければ社会インフラを維持できない。しかし、その問題は多様であり、個々を混在させてはならない。

エネルギー問題・環境問題・渋滞問題などの解決策としてLRTの有効性が評価されることは良い。しかし、ライドシェアをそこに絡めてくるのであれば、利用者の利便性向上を軸にLRTがどのような役割を担うべきなのかを議論しなければんらない。そうしないと、「LRT」という政策だけが一人歩きする。それは、都市のデザインを無視した利害関係だけの争いになる。

(2024/08/09)