戦略人事:安定しない雇用を前提とした戦略(働き方の多様性、スポットワーク)


■プロジェクト単位もしくは案件毎の組織編成

海外の映画などでたまにあるが、ミッション単位で招集し、終わったら解散するというチームマネジメントがある。もっとも集まるのは極端なプロフェッショナル姓が高い人々であり現実的でないからこそ映画になるのだが。

しかし、企業内においても、例えば新規店舗を展開するときに、最初の立ち上げ時、安定時期、撤退時期などのライフサイクルに合わせて、あるいはキャンペーンの展開時に合わせてスタッフィングをすると云うことも考えられる。携帯ショップのキャンペーンの展開時に専門の会社に頼むというのもビジネスの形態として手本がある。

そうでなくとも社内でプロジェクト単位でチームビルディングをすることもあるだろう。
そうしたメンバーすべてがクリエイティブである必要は無くオペレーションに優れた人材も活用する場面が出てくるだろう。

あるいは一時的にマンパワーが必要なタイミングなどもある。

近未来の組織運営では「ダイナミック」な組織デザインを志向することも考えられる。
そのためのいろいろな布石や潮流が見え隠れしている。

■不安定な雇用環境

1990年代のバブル崩壊後、社員の非正規化はとどまるところを知らず、就業人口のおよそ半数がこれに該当するとも云われている。正社員としても終身雇用は期待できるわけでもなく、いともたやすくリストラされるのは日常化している。海外の話だからと云って油断しない方が良い。

○シスコシステムズ、新たに数千人の従業員を削減へ-ロイター
2024年8月10日

 テクノロジー企業の間では、不安定な需要に対応する中、雇用削減の動きが相次いでいる。AIへの投資は一部分野での成長促進につながっているが、伝統的な巨大IT(情報技術)企業はそれほど恩恵を受けていない。インテルは先週、1万5000人を超える人員削減を発表。デル・テクノロジーズもセールスチーム再編の一環として、人員削減を実施している。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-08-09/SHYLWPT0AFB400

また、好業績だからと云って油断もできない。

○優等生・オムロンが苦境、黒字なのに「2000人リストラ」のワケ
2024.8.9

 業績の低迷を受けてオムロンでは、24年2月に国内と海外でそれぞれ約1000人、合計で約2000人の人員削減を行うことを発表した。これは、24年3月末時点での連結従業員数(2万8450人)の約7%に当たる大規模なリストラだ。

https://diamond.jp/articles/-/348430

いわゆる安定したサラリーマンという状態は普通ではなく、企業方一定程度独立した働き方がニューノーマルだと考えた方が良い。少なくとも、終身雇用を前提とした働き方は限られた雇用環境だと思っている。

■多様な働き方と彼らへの支援

単に正規/非正規と云うが、働き方は大きく変わってきている。
嘱託とまでは云わないが、個別のプロジェクトあるいは事業の立ち上げのために期間を限定して社員となる働き方があると聞く。正社員の変形であろうか。
ビジネスパートナーという枠組みでフリーランス/個人事業主と契約するスタイルも徐々に増えてきている。
もっと軽い働き方としてギグワーカーという呼称もある。
従来のパート、アルバイトはある程度の拘束時間が発生することが前提であったが、もっと短時間で働くスポットワーカーという働き方もあり、これに参入する企業も増えつつある。

○令和の働き方「スポットワーク」の期待と注意点
タイミーに続き、メルカリとリクルートも参戦
2024/08/07

7月26日に東証グロース市場に上場したタイミー。スキマバイト(スポットワーク)のマッチングサービスを2018年8月に開始して以来、ユーザーを増やしてきた。
最短1時間からの求人募集が可能で、文字どおり「スキマ時間」を生かした労働形態だ。
人手不足や副業解禁、働き方改革を追い風に、柔軟な働き方ができるスポットワークの需要は増している。

https://toyokeizai.net/articles/-/794333

こうした働き方を支援する枠組みは十分とは言えないが、徐々に動き出している感もある。

○厚労省が目指す「労基法の改正」は、会社と従業員にどれほどの影響を与えるか
2023年12月18日

 例えばリモートワークやフレックス勤務などは、もともとの労働基準法においては想定がなかった。条文は少しずつ改定されているものの、「同じ時間・場所で使用者の指揮命令によって働く」というベースの考え方と現実の働き方がずれており、リモートの場合の労働時間管理、安全衛生や作業環境の整備やそのための費用をどうするかなど、難しい問題は多い。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2312/18/news021.html

■報酬の支払い方

その中で、興味を引く記事があった。

○PayPayで「デジタル給与払い」年内開始 厚労省指定
2024年8月9日

QRコード決済最大手PayPayは9日、厚生労働省から給与をデジタルマネーで払う事業者の指定を受けたと発表した。2024年内に希望するユーザーを対象に給与受け取りのサービス提供を始める予定だ。デジタル給与払いは多様な働き方の後押しにつながる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB095O70Z00C24A8000000/

労働基準法は、給与の支払い方法について通貨(現金)が原則と定めているのだが、外国人労働者など、その日に支払いを受けたいと考える人たちにとって、月例給与は手元に現金が入ってくるまでの生活が困窮するために、何らかの手当を望んでいるという話を聞いている。給与のデジタルマネーでの支払いは数年前から議論されていたが、現実化してきた。

こうした、報酬の支払い方の多様化は働く人々にとっても便利な点があり、例えばスポットワーカーに対しては、時間給精算も可能になる。また、システムさえ作っておけば人事・総務の負荷も軽減できる。

■今までに無い働き方への対応

AIなどのIT技術を駆使することが前提となるだろうが、組織マネジメントを働き方の多様性を前提としたシステム化が未来の働き方の姿として想像できる。

やるべきタスクに応じて人材がアテンドされ、その調達や調整はすべてシステムで行なう。もちろん中核となる人材はパーマネントに働くことが求められるだろうが、オペレーショナルな部分や練度が求められないワークはスポットワーカーでもかまわない。

時間制約がある場合などは正社員/非正規にかかわらず本人の意向が優先される。
会社という場所に来る必要の無いワークはテレワークでもよい。

評価と報酬システムは、今以上に納得性の高いモノでなければならない。
単にジョブ鋳型雇用を入れれば済む話ではない。

それでも、こうした雇用システムができれば、働き方を自分のライフスタイルに合わせることもできる。

企業は今から準備を始めるべきである。

2024/08/13