■常に課題が残る報酬制度
かつての企業組織は比較的閉じられた世界で活動をしており、人材採用も学卒一括採用であり、中途の採用や早期退職などはあまり考えられなかった。採用もせいぜい一般職と総合職、営業職と技術職、事務職などの区分があるがそれほど厳密ではなく、入社後の変更はあり得た。
そうしたなかでは「経験により能力が向上する」という思想があり、当然能力の発揮は前提となるものの、「年齢給」「勤続給」毎年昇給する号俸制での給与が中心であった。
節目となったのは、まずは2000年代の目標管理制度の導入であろうか。
それまでの年齢が上がるから給与を上げると云うことでは労務コストの負担に耐えられなくなり、何かの理由で賃金に差を付けるという流れができたのがこの時期だろうか。
しかし、人が人を評価するなどと云うのが簡単にできるはずもなく、評価としての「S・A・B・C・D」というランク付けや、グレードを設定した範囲給を設計しても、全体のバランスを考えた予定調和的な給与体系にならざるを得ず、納得性のある報酬体系を作ることはできなかったと思う。
最近の節目としてあるのは「ジョブ型雇用」であろうか。
しかし、これもグローバル展開をしている企業や急激に事業拡大をしているIT企業などは差別化した人材獲得が求められるための方便にしか過ぎず、「ジョブ」というより「人材そのもの」に対し値付けをする仕組みにしか過ぎない。
社員登用という範疇ではないだろう。
そうでない会社もあるが、名称は「ジョブ型」というが、その内容は従来の「目標管理制度」の焼き直しで、何らかの問題が解決されているとは聞かない。
人事制度が従来と変わることはほとんど無く、自裁に則した課題に対応されることはない。
■思想的な背景の欠落
個人的な意見ではあるが、企業が考える報酬は、「仕事」と「報酬」を結びつけすぎていると感じている。当然、仕事には“難易度”、“希少性”があるので全部を同じにしろと言うことではないが、それを差し引いたものは生活給でかまわないと思っている。
もちろんそれ以外にも賃金には
・その日をきちんと過ごせる金額
・家族がいればそれを養える金額
・明日のための教育への投資
などの保証が必要であり、最低賃金の議論は「出せる金額」であり「必要な金額」でないのが残念である。
こうした「賃金とは何か」という議論が欠落すると、払い方の技術論が先行し、よく分からない属性(例えば人間性、普段の勤務態度、期待値(彼はきっとやってくれる)、経験値(前に似た仕事をしたことがある)を定義しないまま使う羽目になる。
■ダイナミックプライスの報酬制度
ジョブ型人事、ジョブ型雇用であっても同じである。
こうした人事制度の枠組みは本来は個々人に対する評価・報酬のシステムが必要になる。
その際には、ジョブが優先されるので、年齢や人間性、職務態度などは配慮しなくともよいとは言わないが主ではない。主たるものは、結果としての職務遂行能力や期待としての経験の有無だろう。
しかし、これには欠陥がある。
なぜならば、契約行為は仕事が始まる前にするからである。
成功報酬というのがないわけではないが、それは遂行の程度ではなく成否というイチゼロの世界に限る。プロジェクトあるいは事業を一人でこなすので無い限りあり得ないだろう。
そうしたときに、未来の実績に対する期待で契約を結ばざるを得ない。
その時に着目するのは職務(ジョブ)か能力(スキル)かを明らかにしておかなければならない。なぜならば、それは報酬の決定要因が異なるからである。
さもないと、業務の終了時に実績評価をできないからだ。「そんな話は聞いていない」となりかねない。
もう一つの問題は「相場」や「実績」であろう。
どうしても報酬を、その時点での世間相場で決めやすい、
しかし、現在DX人材が不足していると言われる時代では、ジョブの希少性が際立ってくる事もある。そうでない職種であろうと、対応できる人材の過不足、希少性で価値は本来変わるはずである。
こうした、ジョブや職種、スキルなどに応じたオークション的なシステムはできないだろうか。最終的には、労働者は毎年、こうしたダイナミックプライスで報酬を決定し、企業側も戦略的に人的投資を考える責務を負うことで組織能力を上げられるはずである。
のほほんと旧来の賃金制度にあぐらをかいている企業に未来はない。と思う。
2024/08/16