戦略人事:時代遅れのジョブ型雇用(デジャブー感の強い人事制度)


戦略人事:時代遅れのジョブ型雇用(デジャブー感の強い人事制度)

■革袋とワイン

「新しい酒は新しい皮袋に盛れ」という表現がある。

「新約聖書―マタイ伝・九」の一節から。文語訳では「新しき葡ぶ萄どう酒しゅをふるき革かわ囊ぶくろに入るることは為せじ(新しい葡萄酒を古い皮袋に入れることはしない)」とあります。続く部分の口語訳は、「もしそうしたら、袋が張り裂けて、酒が流れ出てしまうだけでなく、袋もだめになるだろう。新しい葡萄酒は新しい革袋に入れてこそ、両方が無事に保たれるのだ」
https://kotobank.jp/word/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E9%85%92%E3%81%AF%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E7%9A%AE%E8%A2%8B%E3%81%AB%E7%9B%9B%E3%82%8C-2236023

企業の取り巻く環境は想定されるよりも早く変化し、その様はVUCAの時代と言われている。AIと高度通信技術は多くの産業で活用され、それまでのオペレーショナルな仕事は自動化・ロボット化の普及で様変わりしている。

従って、企業はそれまでの枠組みと異なる人的資源で対応せざるを得なくなり、人事制度の改変に乗り出していると考えられる。それは旧来の事業を支えてきた人たちとは異なる人材の獲得をし、彼らが能力を発揮してもらうための枠組みを新たに作ることを要請されていると云うことである。

古い人事制度に新しい人々を当てはめてはならない。

■2024年問題の切実な要請

一方で、2024年問題により労働環境への影響がクローズアップされた。2024年問題は残業時間の規制の問題であり、何年も前から問題視されていた。もっとも問題の捉え方が間違っており、規定労働時間が決まっているなら、時間内に仕事が終わるようにするか効率的なヒトの運用をするかマンパワーを増やすしかない。人手不足は単なる企業側の怠惰の結果である。

しかし現実的に人手不足が社会問題化すれば、より高い賃金の仕事に人が流れると云うことが加速され、人手でなんとかなる仕事はあぶれた人材(主に高齢者や旧来のホワイトカラー)で賄われることになる。これは人材の二層化をもたらす。

これを一律の人事制度で賄うことはどうしても無理が生じる。

■ジョブ型雇用の実態

人手不足と組織能力向上の要請の中で企業が飛びついたのが「ジョブ型」であろう。

ジョブ型雇用、ジョブ型人事制度などが話題になり数年たっている。各社の取り組みなども行なわれているであろうが、これを整理した資料が公開された。

○ジョブ型人事指針 令和6年8月28日 内閣官房
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/jobgatajinji.pdf

豊富な事例集となるので参考にして欲しい。
解説めいた記事もあり下記も参考となる。

○ジョブ型人事指針を読む-先行20社の事例より:ジョブ型人事の基本と目的
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79813?site=nli
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79819?site=nli

ここでは、その内容については言及しない。
しかし、この記事の中で目を引く記載がある。

「20年以上前に成果主義が流行した際、メディアやコンサルタントが強く推奨したこともあり、多くの企業が導入したが、その首尾については賛否が分かれる。成果主義の導入によって短期的な成果が評価され、長期的な成長が軽視されるという弊害があったといわれる。ジョブ型人事に関しても、単に「流行しているから」「他社がやっているから」といった理由だけで導入を決定するのではなく、自社にとって本当に必要なのかどうかを十分に検討すべきである。」

目標管理制度は、新しい革袋だったかもしれないが人材を偏し治させることは無く(すなわちワインは同じで)、「新しい革袋に古いワインを」入れただけである。ジョブ型雇用と称する人事制度は、「新しいワインを古い革袋」に入れる愚を起こす恐れがある。

今までの人事制度の焼き直しでは旨く行かない。

■革新的とは思えない

悪口を言うつもりはない。しかし、ニュースで時々取り上げられる人事制度がどこかで見たことがあると感じるのは私だけであろうか。

○ヤマハ発動機、年功序列を廃止 2025年1月から新しい人事制度を導入
2024年09月26日

一般職の新しい人事制度では年功序列を廃止し、期待される行動や発揮したパフォーマンスに合った報酬体系に変更する。総合職、業務職、製造職に分かれていた等級体系を統合し、昇格の申請要件から在級年数を廃止。飛び級制度も導入する。

エキスパート職の新しい人事制度では、働き方の選択肢を複数用意。個人の働き方の実態に応じて役割を付与し、それに見合った報酬とする。現役同等の活躍を条件に定年前の報酬水準を維持する働き方や短日勤務など、個人が働き方を選択できる環境を提供する。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2409/26/news118.html

○ヤマハ発動機、一般職、エキスパート職に新しい人事制度を導入。社員のキャリアの幅を広げ、自発的チャレンジと成果創出を後押し。
2024/09/26

・従来のC職(総合職)・G職(業務職)・P職(製造職)の3つの職類を1つに統合し、Y1からY4の4段階の共通の等級体系に変更。これにより、自律的なキャリア形成を促進する。

https://motor-fan.jp/mf/article/264350/

魔法のような人事制度などはあり得ないかもしれない。
極端な変更は既存社員がいるからできないかもしれない。

それでも「どこかで見た」感のある人事制度で革新は生まれない。

2024/10/05