世間に転がる意味不明:見捨てられる公共事業(入札の功罪)


世間に転がる意味不明:見捨てられる公共事業(入札の功罪)

「相手の足下を見ていれば相手もこちらの足下を見てくるのさ」

■気になったニュース群

大学が建築土木の系列であったこともあり、こうしたニュースには「おっ」と反応してしまう。

○資材や人件費の高騰が要因か…県立中央図書館の建設工事が“入札不調” 関連工事の入札を中止する事態に
2024年11月13日

静岡県がJR東静岡駅南口に建設を計画する新たな県立中央図書館の建設工事について、県は10月18日に入札を公告し、同月21日から受付を始めましたが、期限となる11月12日午後3時までに1件の申請もなく、入札不調となったと発表しました。

背景には資材や人件費の高騰があるとみられています。

https://www.sut-tv.com/news/indiv/29896/

もっとも背景はそう簡単ではないなと感じており、その解説めいたものは下記で確認できる。

○静岡県立中央図書館の移転 入札参加企業ゼロ 建設会社が明かす入札しない2つのワケ
2024/11/14

静岡市にある県立大学に隣接する県立中央図書館は老朽化が深刻で、静岡県は東静岡駅南口の県有地に移転する方針を2017年に決定した。昨年7月には基本設計を公表。当初は2027年度の開館を目指していたが工期延長によって2028年度の夏に変更した。総事業費も資材費や人件費の高騰を受け、180億円から298億円に修正した。

新しい図書館は城郭をイメージした鉄骨9階建てで、現在の2倍以上となる200万冊の書籍を収蔵する計画となっている。県は10月18日に建築工事の入札を告示し、3日後の21日から11月12日まで参加を募った。しかし、入札に参加した企業は1社もなかったという。

静岡県立中央図書館の移転 入札参加企業ゼロ 建設会社が明かす入札しない2つのワケ

もっとも、これだけがすべてではなく、いろいろなものがからんでくるが、一番の背景は「入札」という制度にあると思っている。

■入札制度の特徴

・公共性と税金
公共機関が行なう工事は、社会インフラの整備であり財源は税金である。従って、適正価格(あるいは必要な金額)以上のお金(無駄金)は出せない。そのため、候補となる企業に要件を提示し、その中で最低価格を探索せざるを得ない。

・利益の抑制
特に建築土木については、人工単価が「標準単価」として設定されているので、仮に企業側が技術者を優遇していたとしても、それを配慮して一人当たり単価を出せない。基本は実費であり、管理費をそれに上乗せするとしても、それが受注を左右するなら必要以上に利益を積み上げられない。

・営業コスト、見積コスト
少し前までは公共機関側にも技官がおり、工事の見積を行なう力量のある人員をそろえられていた。これが、政策上の問題もあるだろうが十分に用意できない。従って、工事に当たっての見積などを業者に依頼することもあり、これを優遇するスペックを提示するという不正が起きかねない。しかし、企業側からすれば、見積コストも営業コストも加算できないので、その分が持ち出しになる。

・支払い
当然、発注時、途中検査時などでの支払いはあるものの、支払いは工事終了後である。財務的に基盤がない企業は受注できない。勢い、淘汰が発生する。徐々に業界は衰退する。

しかし、こうした大規模工事や公共機関の事業を行なっていると言うことはある種のステータスであり、関係構築の一環として採算を度外視して受注に走る企業もある。かつての富士通の「一円入札」などはその典型であろう。

■入札と談合

元々の入札は「誰が行なってもできる」ことが前提であり、だからこそ「標準単価」が存在する。しかし、現実問題、大規模工事は「財務能力」を含めてゼネコンのような大規模事業者しかできなくなる。また、特殊な技術が必要になれば、その企業は外せないか、技術の権利関係の問題で持ち回りのようなことも発生しうる。

下記の談合事件は考えさせられる。二つの記事を合わせて読んだ方が良い。

○JR東海とコンサル5社、橋の点検めぐり談合疑い 公取委が立ち入り
2024年10月22日

関係者によると、談合の疑いがあるのは東海・中部地方の自治体や国土交通省中部地方整備局、中日本高速道路(ネクスコ中日本、名古屋市)が発注する跨線橋の点検業務の入札。対象の跨線橋には、車両用の道路橋と歩行者用の人道橋などがある。2012年に中央道笹子トンネル(ネクスコ中日本管理)で9人が死亡した事故を受けた道路法改正で、14年から道路橋を含む橋やトンネルを5年に1度点検することが義務づけられた。

https://www.asahi.com/articles/ASSBP3328SBPUTIL01CM.html

○リニア談合で排除措置命令受けた鹿島と大成建設が控訴 地裁判決を不服
2024/7/9

大成側は「難易度が極めて高い工事で現実的に受注可能なのは1社に限られていた」とし、不当な取引制限は成立しないと主張。鹿島側も「未曽有の大工事」で、事前準備のないゼネコンの施工は不可能だったなどと訴えていた。

https://www.sankei.com/article/20240709-GKIFS3GRSFIYLAQ3OTJ3CH7SRY/

この二つの事件は直接には関係ない。
しかし、土木工事の高度化・複雑化・難度化は、企業に技術の向上を求める一方、投資に関しての予算措置は行政はしない。こうしたゆがみが顕在化しているのではないかと考えるべきである。

■儲からない入札の向かう先

こうした、技術への先行投資もできない、営業コストも回収できないとしたら、企業は儲けの確実な案件を選ぶことは必須である。
また、地方の中堅の建設土木の企業では、うまみがなければ名誉のためだけで受注はできない。「やってられない」という声が聞こえてこないか振り返ってほしい。

○建設費さらに4億円増…建設資材や人件費高騰のあおりで松江市役所新庁舎建設費が総事業費164億円に
2024年11月19日

松江市は19日、建設中の市役所新庁舎の建設費について、4億2000万円増える見通しを明らかにしました。円安による建設資材の価格上昇や人件費の高騰が理由で、これにより事業費の総額は約163億8500万円となる見通しです。事業費の増額は、試算段階から数えると4回目です。市は、11月26日開会の11月定例市議会に増額分の一部を盛り込んだ補正予算案を提出する予定です。

https://www.fnn.jp/articles/TSK/789697

○事業費110億円増 入札不調受け 新県立体育館
2024年11月20日

新県立体育館整備・運営事業で入札が取りやめになったのを受け、秋田県は事業費を約110億円増やして約364億円に見直し、増額分を12月一般会計補正予算案に盛り込んだ。19日、県政協議会で県議会各会派に説明した。

この事業は、施設整備から完成後の管理維持までを含めて事業者と契約するPFI方式を採用。入札は、4企業グループが参加の意向を示し、1日に行う予定だったが、すべてのグループが辞退したため、取りやめとなった。

https://www.asahi.com/articles/ASSCM416VSCMUBUB005M.html

行政機関は、地元の産業振興のために+αの予算を追加で用意し、地元の企業の得手不得手、困り事(財務状況)をコミュニケーションで聞き取り、受難に考えるべきである。談合は移管という杓子定規は辞めてはどうか。

その警鐘はならされていると思う。

○大型箱モノ事業、全国で宙に…100億円を積み増しても「応札ゼロ」 新体育館だけじゃない「アレもコレも足りない」現実
2024/11/26

人件費や建築資材の高騰が続き、鹿児島県の新総合体育館をはじめ公共施設事業の入札不調が全国の自治体で相次いでいる。コストがどこまで上昇するか見通せない中、各自治体は事業費の増額や規模縮小などの判断を迫られている。

https://373news.com/_news/storyid/205071/

取るに足らない記事だと捨てて欲しくない。

2024/11/21

【その他の追加記事】

○新静岡県立中央図書館建設事業 建設工事入札が不調に終わり現図書館の限界が見える中計画が遅れる恐れも
2024年11月25日

新県立中央図書館に暗雲が立ち込めています。建設工事の入札に参加する業者がおらず、静岡県は再度入札を実施する方針ですが、計画に遅れが出る可能性も出ています。

新静岡県立中央図書館建設事業 建設工事入札が不調に終わり現図書館の限界が見える中計画が遅れる恐れも

○新病院の建設が中止…吉川美南駅東口に計画 建設費高騰で事業者辞退 土地区画整理事業の一環、吉川市は同じ土地で事業者を再募集する方針
2024/11/23

埼玉県吉川市は22日までに、JR吉川美南駅東口の土地区画整理事業の一環で進めていた新総合病院の整備計画が中止になったと発表した。交渉を進めていた事業者が、建設費や医療機器の高騰などを理由に辞退を市に申し出た。市は今後、同じ土地で事業者を再募集する方針。

https://nordot.app/1232908341284520127