戦略人事:憂鬱な突然の退職届(防ぎえぬ離職のリスク)
企業側が終身雇用を反故にする前に社員は逃げ出している。
■頭痛のタネになる突然の離職
2025年早々に「転職」に関するニュースを見た。もっとも表面的なテーマは「退職」ではあるのだが、実態は転職だろう。
時代を反映しているニュースであり、40年前にはない現象だ。
○退職代行「モームリ」、6日の依頼件数が“過去最多”230件に Xでは「年末年始の休みで気持ちが切れる」との声も
2025年01月06日
退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス(東京都港区)は1月6日、同日の依頼件数が過去最多の230件に達したと、公式X(@momuri0201)に投稿した。これまで1日の最多件数は180件であり、午前7時24分の投稿時点で記録を50件更新した。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2501/06/news085.html
離職の理由は一般的には
・給与が低い
・人間関係が良くない
・残業が多い
・ワークライフバランスを整えたい
・スキルアップしたい
・キャリアチェンジしたい
・企業ビジョンや経営方針に共感できる会社に行きたい
・将来性のある会社に行きたい
・家庭の事情
など様々が言われるが、実際は分からない。複合的なものもあるだろうし衝動的なことやなんとなくのこともあると思う。
こうした本人が出社をせずに一方的に退職を告げるというのは、それをされた側はこたえるだろう。
業務は刹那的に行なっている面があったとしても現有戦力を有効に使うように計画しているだろうし、日本の多くの職場は人に仕事が紐付いており、その人の抜けた穴は容易に埋められないのが現状であろう。上司としては「なんで見抜けなかったのだ」「なんで慰留できなかったんだ」と責め立てられるだろうし、会社としては、その人材の補充が容易でなければ、何らかの業績への影響も出かねない。
できれば「突然の離職」は避けたい。
■予期できない離職
こうした離職の未然防止のためのサービスも今風のサービスなのだろう。
○エン・ジャパン、AIが離職リスクを判定 入社1年目向け
2024年5月20日
毎月実施するアンケートの結果と合わせて社員のメンタルの状況を「晴れ・曇り・雨」で判定し、人事担当者に取るべき対応を具体的にアドバイスする。メンタルの状況が芳しくない社員への集中的なケアにつなげる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC15EFZ0V10C24A5000000/
しかし、経験的に言えば、会社の愚痴を言っている間は離職は念頭にはなく、なんとなくでも転職を意識したら、同僚にも悟られないようにするし上司にも相談などはしない。転職先が決まってから告知するというのがほとんどである。また、転職理由などは告げることはしない。なぜならば「それならば」と慰留されるのが落ちだからである。私の知人などは「両親の世話があるので故郷に帰る」といって他社に転職した猛者もいる。
上記の様なアンケートは有効かもしれないが、すでに辞めると決心した人がそれと分かるような回答をするとは思えないし、寧ろ平穏を装うだろう。それでも予備軍が分かることは有益かもしれない。
それでも「離職」は予期できないだろうし、いったん心を決めた人間を翻意させることは難しい。企業ができることは
①人材の流動化を前提とした業務プロセスの構築
誰かがいなくなると回らなくなるような仕事の設計はしない
②人材の流動化を前提とした採用戦略の構築
通年採用を常態化させたり、多少過剰でも人材を確保する、あるいは予備軍を確保して置くなどが考えられる。
③不満を感じ取れる風土を作る
離職者は何らかのストレスがあると思われる。そのストレスが会社にあるのだとすれば、解決できるかどうかはともかく真摯に向き合うべきであり、そうした文化を構築しなければならない
■監視ではなく対話を
監視ではなく対話をしているのだろうか。
アンケートなどは「監視」でしかない。彼らの本音を聞く機会を作っているだろうか。
かつての昭和の時代には、そこかしこにたばこを吸える空間があり、非公式な情報交換の場であった。そこでは役職に関係なく「本音」が飛び交う場であっただろう。
いまは、そうした場がない以上作るしかない。昼食時には食道になるその場は、それ以外では自由に喫茶タイムにすることができ、就業時間外は「カフェ」や「バー」になる。そんな空間を設計している企業もある。
産業医に権限を与え、学校の保健室のような機能を持たせている事例も聞く。
大切なことは、そうした不満があると分かったら、「会社としてはこういう風に考えています」と告知することである。
「うちの会社は何を言ってもダメだよ」と思われたら離職は防げない。
2025/01/12