■化膿するまで気がつかない
おそらくは地球温暖化問題は手遅れだろう。正確な言い方を言えば、望ましい地球の状況にする手段があっても、すぐに効果は現われず、これに我慢できない人間は途中で諦めてしまう。結果として今起きていることを止める手立てはない。
非難しているのではない。あまりに巨大な対象に対しては今動いている方向を簡単に変えることはできないし、巨大な故にどこかに問題があっても気がつかないと言うことを指摘したい。
人間の体でも、徐々にメタボになってもすぐに元に戻せないし、どこかに軽い傷があっても化膿するまでは気がつかない。
企業体も同じではないかと感じた記事を見た。
○ 川崎重工、特別調査委員会を設置 船舶用エンジン不正で 2024年8月30日
同社は21日、船舶用エンジンの検査でデータを書き換える不正があったと発表。窒素酸化物(NOx)規制対象のエンジン674台を社内調査したところ、商船向けエンジン673台でデータの改ざんが見つかった。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC307YT0Q4A830C2000000/
○ 川重架空取引、17億円 特定秘密の不適切運用も追加発覚 2024年12月25日
川崎重工業による海上自衛隊の潜水艦乗組員らへの金品提供問題を巡り、同社による架空取引が2018〜23年度の6年間でおよそ17億円に上っていたことが25日、わかった。元検事らが独立した立場で調べる「特別防衛監察」の中間報告に盛り込み、近く公表する。
潜水艦の建造や修理をする神戸工場の造船所で、潜水艦の修理を担当する修繕部が複数の下請け会社との間で架空取引を繰り返していた。支払った代金を裏金としてプールしていたとみられる。17億円のうち、どの程度が自衛官のために使われたかは分かっていない。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2534R0V21C24A2000000/
こうした不正行為を当事者が知らないわけがない。
しかしこうした不正が明るみに出なければ、企業全体としては「ちょっとかゆい・痛い」程度で何も感じないかもしれない。
しかしこれを放置すれば致命的になりかねない。
■先義後利を無視したツケ
経営哲学に「先義後利」がある。私の好きな言葉であり、「義のない事業は犯罪である。」と考えている。
なぜか。
経営が義を唱えなければ、金儲けのために何をしても良いと言う毒が体全体を侵食し取り返しのつかない事態になることは歴史を見れば多くの事例が見つかるだろう。
○ パナソニック「40年超」続いた品質不正の全実態 約5200製品が該当、海外工場へ不正を”輸出” 2024/12/19
不正が行われた製品数は約5200品番。今年7月に公表していた153品番から、33倍超へと膨らんだ。パナインダの国内外55拠点のうち、40拠点で何らかの不正行為が発覚。最も古いもので、1980年代から40年以上にわたって隠蔽されてきた。
パナインダが製造しているのは、家電やスマートフォン、PC、自動車など幅広い製品に使われている電子部品だ。影響は同社から電子部品や材料を購入した顧客4000社以上に広がっており、調査は今も続いている。
https://toyokeizai.net/articles/-/847221?display=b
こうした長年の不正は同社だけではない。近年の大企業で起こしている記録改竄を伴う多くの品質不正は組織の長年の文化の延長線上にあることを疑うものではない。
■巨大戦艦は針路を曲げられない
こうした組織文化は、それが組織規模が大きくなければガバナンスシステムの変更(意思決定メカニズムの変更や組織内コミュニケーションの強化、情報共有の促進など)で対応可能であろうが、それが大規模組織であるとそうは行かない。
巨大組織は、その巨大さ故の傲慢さが身を滅ぼしかねないことには気がつかない。その一例がニッサンであろう。関連記事を見てみる。
ニッサンの経営悪化と、これを救済するホンダとの統合が進んでたが頓挫したようだ。
○ ホンダ・日産、世界3位の夢 不信の連鎖で打ち切り 2025年2月9日
日産自動車はホンダに経営統合を打ち切る方針を伝えました。持ち株会社による統合比率などの条件で調整が難航し、ホンダによる日産の子会社化案が決定的な溝となりました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07DEF0X00C25A2000000/
本当の理由は分からない。一部の報道などを見ると、”ホンダからの「子会社化」提案に反発 幹部「到底受け入れられない」”という話や、ホンダ側の複数ビジネスの中での「クルマ」事業のキャスティングボードを握れない組織上の問題があるとの報道がある。
元々の発端は、ニッサンの経営不振にあると言う、ニッサンの経営不振は各所で報じられており、概ね以下のように指摘される。
・利益の少ない軽自動車の販売
・過剰な設備や人員による収益力の悪化
・商品力・ブランド力の欠如
・新型キックスなどの新車への好評にもかかわらず、主力製品でハイブリッド車がない
・新型コロナウイルス感染症の世界規模での流行による生産・販売停止
しかし、これは単に表面だけを見過ぎている気がする。
個人的な感想を言えば、そもそも収益を上げられるような組織ではなかったと危惧する。
それは、ニッサンが繰り返し行なってきた不正の歴史があるからだ。
・完成車検査における不正
ブレーキ液の残量警告灯の機能を確認する試験が未実施
車外騒音や最大安定傾斜角度の確認が一部の車両で行われていない
測定値や試験条件の数値書き換え
・下請け企業への納入代金の引き下げ
日産自動車は、タイヤホイールなどを製造する下請けの部品メーカー数十社に対し、事前に取り決めた納入代金から一方的に数%を差し引いて支払っていた
少し検索すると上記の様な情報が検出される。
「貧すれば鈍す」という言葉がある。
元々、先義後利をする実力がない企業が、自分たちは「強者」だと勘違いしてガバナンスをしていれば、環境変化に対応できるわけもなく、その巨大さ故に進路変更もできない。
タイタニックの沈没を想定してしまう。
■100年企業の困難さ
世界に目を向ければ、古くから存在する企業はある。しかし、企業を取り巻く環境は変化しており、GEですら事業再編を繰り返している。日本でも100年企業は多くあるが、その大部分はドメスティックな市場を対象とした小規模企業である。もちろん例外的に、日本の伝統食材(味噌、醤油など)、建設業・エンジニアリング会社などが海外進出を果たし永続的な活動をしている企業もある。
それでも、赤の情報仮説のように「その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない」に示すように、常に変革を余儀なくさせられるはずである。
経営に正解はない以上、何かを犠牲にする事を躊躇することは避けて通れない。
それを怠れば、企業の存続に懸念を生じかねない。
下記の一連の記事の関連性は単なる印象に過ぎないが、そう思われても仕方ないのかと感じてしまう。
○ パナソニック関連9社に営業停止 建設工事資格を不正取得 2025/01/31
パナソニックホールディングス(HD)は31日、建設工事の国家資格などを不正に取得していた問題で、全国各地のグループ会社計9社が国土交通省から最長で22日間の営業停止処分を受けたと発表した。
https://nordot.app/1257959347488310201
○ 当社電子材料製品における第三者認証に関する不正行為および外部調査委員会の設置について 2024年1月12日
パナソニック インダストリー株式会社(本社:大阪府門真市、代表取締役 社長執行役員・CEO:坂本 真治、以下 当社)の電子材料事業部が製造・販売する成形材料、封止材料および電子回路基板材料の52品番において、米国の第三者安全科学機関であるUL Solutions(以下 UL)の認証登録等の際、複数の不正行為を行っていたこと(以下 本件)が判明しました。
https://news.panasonic.com/jp/press/jn240112-1
これを受けての下記の記事は冗談とも思えない、
○パナソニック解散、分社化へ 社名消える可能性 テレビ事業撤退や売却検討も「買ってくれる企業ない」人員削減し収益改善目指す
2025年2月5日
パナソニックホールディングスが、事業改革の1つとして、テレビ事業の撤退や売却を検討していることがわかりました。
パナソニックホールディングスは4日、家電や空調などを手掛けている中核子会社の「パナソニック」を解散し、事業ごとに3つに分社化する方針を明らかにしました。
それぞれに「パナソニック」の名前を残すかは、決まっていないということです。
https://news.ntv.co.jp/n/ytv/category/society/yte632d075006847c19479e5f70210acbd
単純に企業が空中分解するわけではないが、顧客の希望に応じた分相応という考え方がなくひたすら拡大を目指せば、いずれ破綻することになるだろう。
■不正がありうることを前提としたガバナンスの可能性
巨大企業は、その巨大さ故に方向転換が難しい。
多くの不正が噴出した企業が、組織風土の問題とし、責任のとる形としてそれまでの経営を支えてきた人物が昇格するという対策をしたとしてもおそらくは何も解決しない。
巨大な企業が全体最適と部分最適を両立することは難しいだろう。組織のあちこちである不正はフジテレビの対応を見るまでもなく握りつぶされる。いくらガバナンスを強化してもどうしようもない。
したがって、不完全なガバナンスを補うメカニズムが必要になる。
そのヒントが下記に見ることはできないだろうか。
○ 「内部通報件数が多い企業ランキング」TOP100 フジテレビの問題で企業ガバナンスに注目 2025/01/29
今回も内部通報制度の不備が問われることになりそうだ。タレント中居正広氏の女性トラブルはフジテレビだけでなく親会社のフジ・メディア・ホールディングスのガバナンス問題となりつつある。
過去、上場企業のガバナンス関連で問題が起こると「内部通報制度の充実」が改善策として挙げられることが多かった。同社のホームページにあるコンプライアンスの記載には、「グループ内部通報制度の充実化」という文言はあるが、具体的な取り組み内容は見当たらない。過去に問題が起きた企業がそうであったように内部通報制度が適切に機能していなかった可能性がある。
https://toyokeizai.net/articles/-/855028
組織全体の意識改革が必要である。声を上げられるようにする、声を無視して握りつぶさない。なに、簡単なことである。
2025/02/10