ISO9001と経営:7.3認識(経営者が自らのコンプライアンス意識を変えない限り不正はなくならない)
ISO9001:2015という規格にもっと関心を持ってもらいたい。
■昨年来から続く下請法違反
代表的な記事を引用する。
○無償の金型保管は下請法違反 公取委、住友重機械ハイマテックスに勧告
2024.11.25
無償での金型保管が下請法違反と認定された事例はほかにもあります。下請け事業者16社に対し、長期間部品の発注をしていないのに金型を無償で保管させ、さらに金型の棚卸し作業を行わせた行為が下請法違反にあたるとして、公正取引委員会は2023年11月、サンケン電気(埼玉県新座市)に対し、勧告しました。
サンデン(群馬県伊勢崎市)についても、下請け事業者61社に対し、長期間部品の発注をしていないのに金型4220型を無償で保管させた行為が下請法違反にあたるとして、公正取引委員会は2024年2月に勧告しています。
トヨタ自動車の子会社「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」に対しても、金型保管費用の未払いや不当な返品が下請法違反にあたるとして、公正取引委員会は2024年7月に勧告を出しました。
https://smbiz.asahi.com/article/15522108
○ 日産系の部品製造会社、下請け5社に金型を無償で長期保管させる…公取委が再発防止を勧告へ
2025/02/13
勧告を受けるのは、日産の完全子会社「愛知機械工業」(名古屋市)。日産の副社長が会長を務めるグループの主要企業で、自動車用のエンジンやトランスミッション(変速機)の製造や開発を行い、製品を日産などに納入している。
関係者によると、愛知機械工業は、遅くとも2023年夏から昨年末までに新たな発注の見込みがないのに、エンジンなどの部品を作るために使う自社所有の約400の金型などを下請け業者5社に無償で保管させていた。期間は最長で10年以上の社もあったとみられ、愛知機械工業側は公取委の調査後、下請け業者側に保管代として計約2000万円を返金したという。
日産を巡っては、昨年3月、下請け業者への納入代金を一方的に引き下げたとして、同法違反(減額の禁止)が認定された。違法な減額分の計約30億円を返金し、取引先が匿名で通報できる窓口の設置などの再発防止策を公表していた。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250213-OYT1T50013/
○ 荏原製作所に下請法違反で勧告…発注のないポンプ製造用「型」を無償で長期間保管させる
2025/02/20
ポンプの製造に必要な木型などを下請け業者に無償で長期間保管させたとして、公正取引委員会は20日、東証プライム上場の産業機械メーカー「荏原製作所」(東京)に対し、下請法違反(利益提供要請の禁止)で再発防止を求める勧告を出した。下請け業者は176社に上り、同社が今後保管代の支払いを進める。
発表によると、同社は遅くとも2023年2月以降、新たな発注がないのに、自社で販売する産業用ポンプを作るために使う木型や金型など計8900個を、下請け業者176社に無償で長期間保管させていた。最長で約20年保管していた社もあった。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20250220-OYT1T50116/
いずれも長期にわたる下請法違反であり、かつては商慣習として認められていたとしても近年の社会常識の変化に基づく下請法改正では法令違反となることに気がつかないか無視した結果であると思われる。
また、こうした下請法違反が昨年から報道されているにもかかわらず自己点検もしないで放置されていることも明らかである。
一般的に言われることだが、簡単に儲けを増やすのであれば出て行くお金を減らすことも選択肢であり、その最も有効な手段は「法律を守らないこと」である。本来支払わなければならないお金を払わないのであるから、「不当な」利益を獲得しやすい。
■無責任な経営者
およそ経営者は、長らくその会社で勤めていた人間がなる。外部から招聘されたなどの一部例外もあるが、おおよそ会社のことを知っている人間がこれを担う。従って、こうした商慣習があることを知らないというのは通らない。
不正などがあったときに経営者がそれを知らないとしたら「無能」であるし、知っていて不正を放置していたとしたら「不実」である。経営をする資格はない。
自分が引き起こすことへの責任を自覚すべきである。
ISO9001:2015という規格では「7.3 認識」という項番がある。これは、社員が認識することを確実にする責任は組織にあるとしているが、経営者自身も組織で働く一員である以上、この対象となりうる。経営者が認識に対して責任を持つと言う意味では、基の原文を少し経営者に対してと言う視点で読み替えてみよう。
7.3 認識
組織は,経営者が、次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。
a) 起業理念、経営理念、経営方針
社会に対するレーゾンデートルを意識すること。当然法令遵守は必須。
b) 関連する経営目標
起業理念を達成するための目標であり、「儲けること」は目標ではない
c) パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,経営マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
命令すればその通りに動くわけではない。儲けてこいといって儲かるならあなたはいらない
d) 法令遵守などの社会正義を達成できないことの意味
社会から「不要」と指摘されれば会社の存続はできない
さて、これに対して胸をはって「できている」と答えられる経営者はどのぐらいいるのだろう。
フジテレビ社長だった港浩一氏の会見では、とても合格点は上げられない。
2025/02/22