戦略人事:賃金政策の影に忘れ去られるトータルリワード(報酬だけに焦点が当たる事への懸念)
■トータルリワード
10年ほど前だろうか、米国でのHRMの研究をしていたときに「トータルリワード」という言葉に出会った。金銭的報酬だけでなく福利厚生や教育投資(教育を受けられる環境)やお互いが褒め合う文化などの居心地の良さ(ハラスメントのない職場)、ワークライフバランスを重視した施策(育児休暇の取りやすさ)、あるいは社内ベンチャー制度のように新たな事へのチャレンジのしやすさなどが含まれる、社員に対して会社がどのように報いているかを考える基軸であったと記憶している。
多くの人は金銭的報酬も重視しており、優秀な人材であっても正当な報酬が得られなければその職場を去ることもあり得るし、正当な報酬があるのであれば優秀な人材を引き寄せることも可能であろう。
ただし、去って行く理由も参画する理由も多種多様であり、お金だけに着目することは危険だろう。なお、賃金は低くても良いと言っているのではないことに注意して欲しい。
■賃金に関する誤謬
2024年の話題としては、いわゆる2024年問題に端を発した人手不足、その対応としての賃金アップ、そしてそれらに隠れたリストラあるいはジョブ型雇用などが人事関連の話題であっただろう。
そこで語られる文脈は「優秀な人材」と「多様化」、そして安定的な人材調達であろう。その流れは2025年になっても変らない。
○ 大成建設/人事制度を見直しスペシャリスト職創設、年収2000万円超も 2025年2月14日
大成建設は多様で安定的な人材確保に向け、2025年度から人事制度を段階的に見直す。4月入社の総合職を対象に初任給を一律2万円引き上げ、大卒30万円、大学院修了32万円とする。7月には新たな役割等級制度も導入。高度な特殊専門能力を持つ技術職向けに「スペシャリスト職」を創設する。通常の昇給制度の運用とは異なり、成果に応じて年齢に関係なく年収2000万円超が見込めるようになる。自律的で多様なキャリアパス実現を後押しする。
しかしこれは変な話である。なぜなら、賃金を高くすれば「多様な人材がそろう」訳でもないし、「離職しないという安定性」も保証されるわけではない。
そんなことはないというなら科学的に検証可能なデータを示して欲しい。ここで言う「科学的」というのは数学的・統計的に有意性を検証できるデータだ。エピソード的なデータでもないし偏った母集団のデータでもない。
賃金だけを切り出して企業に対する訴求力を語っても意味は無い。確かに高い給料は魅力できであろうが、それ以外の要素で人は転職すると言うことは知られているし、実際の転職したにとたちからの話でも、事はそう簡単な話ではないことも知っている。
■会社は簡単に見切られるかもしれない
上記に、代表的なリワードを示したが、それ以外にも自分のキャリアと会社の運営方針のマッチング度合いも関係するのではないかと感じる記事もある。
○ 第一生命、希望退職に1830人応募 想定の1.8倍、社名も変更へ
2025年2月14日
第一生命ホールディングス(HD)は14日、傘下の第一生命保険が募った希望退職に、想定の1.8倍となる1830人から応募があったと発表した。
対象は第一生命の勤続15年以上で50歳以上の社員で、営業職員は含まれない。人材の多様化を目指すとし、今年1月に約1千人の希望退職を募集していた。応募者が想定を超えたことで、費用は約150億円から約290億円に膨らむ。
https://www.asahi.com/articles/AST2G2JQ7T2GULFA009M.html
不要な人材を排除して人材のバランシングをとりたいという思いが透けて見えるが働く人は、「このままこの会社にいても仕方ない」と考えているかもしれない。予想の倍近くも「辞める」事に手を挙げたことは、昨今の労働市場の流動化の高まりを考えても多い気がする。
簡単に会社を見限る比値がいることも忘れてはならない。
優秀な人はあなたの会社には近づかないかもしれない。
○パナソニックIS、25年4月新卒社員の初任給を引き上げ 最大30万円超え 「優秀な人材の獲得へ」
2025年01月23日
パナソックグループ内のDX推進などを手掛けるパナソニック インフォメーションシステムズは1月23日、2025年4月入社の新入社員の初任給を最大8%引き上げると発表した。学部卒の場合、現在の26万5000円から28万5000円(8%増)に、院卒の場合は28万5000円から30万5000円(7%増)に改定する。労働組合との協議を経て、近く決定する。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2501/23/news157.html
建前は分かるが優秀な人材はきっとあなたの会社を選ばないと言うことも考える必要がある。将来を考えるのはあなただけではない。働く人だって考えている。
2025/02/23