戦略人事:加速するジョブ型雇用と解決されない闇(日立と富士通の動向を考える)
コンプライアンスを無視して良いと言うことはない。
■中小企業の苦境
昨年(2024年)に続き、賃金アップの話題が今年の春闘の焦点であろうし、そうした動きになってる。すでに初任給は30万円がベースラインになりつつあり、同じように非正規社員・パート・アルバイトへの報酬のベースである最低賃金の引き上げも俎上に登っている。
しかし、抗した動きについて行けない中小企業は人員の確保ができないために人手不足倒産などに直面するという記事も見る。下記の記事などを見ると、ますます体力のない中小企業が苦境に陥ることは想像に難くない。
○ 最低賃金引き上げ、15%が休廃業検討 中小企業、政府目標通りなら―日商調査
2025年03月05日
日本商工会議所は5日、最低賃金引き上げに関する中小企業への影響についての調査結果を公表した。最低賃金を2020年代に全国平均で時給1500円に引き上げる新たな政府目標に基づき、25年度に7.3%の引き上げが実施された場合(複数回答)について、「収益悪化で休業・廃業等を検討する」と回答した企業の割合が15.9%を占めた。地方の小規模事業者(政令指定都市以外、従業員20人以下)に限ると、20.1%に上った。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025030501307
■ 年功賃金の限界
一方で、かつて20万円程度の初任給で、その後もろくな昇級を得られなかった層からすれば、仮に初任給に合わせた賃金水準になったとしても、企業の層労務コストの抑制を考えるとよりなだらかな賃金カーブにならざるを得ず、入社時からの失われた報酬機会が取り戻せるわけではない。企業側は従来の年数を経れば賃金が上がるというモデルはもう維持できないだろう。従来の賃金テーブルと紐付けた目標管理制度なども維持できなくなるはずである。
そうだとすれば、毎年格付けをし直すという「洗い替え」の手法を持ち込むしかなく、その言い訳として「ジョブ型人事」に飛びつくことは理解できる。実際に、大手の動きは他の企業の追随を誘うであろう。
○ 日立、26年新卒からジョブ型完全移行 初任給も一律廃止、文理問わない採用も
2025年02月27日
日立製作所は27日、2026年度の新卒採用計画を発表した。応募者自身が選んだ職種を基に、会社とのマッチングを行う「ジョブ型」の選考へと完全移行。初任給も一律でなく、職務の役割や責任に応じた処遇を適用する。一部エンジニア職では文系専攻でも積極採用する体制を取り入れる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025022700801
○ 富士通、新卒一括採用を廃止 職務・専門に応じ通年募集
2025年3月7日
富士通は7日、2025年度から処遇や採用時期が一律の新卒採用を取りやめると発表した。採用計画数も定めない。新卒採用と中途採用を区分せず、通年で職務や専門性に応じて必要な人材を採用する。職務内容に応じて雇用契約を結ぶ「ジョブ型」人事制度を定着させる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07B870X00C25A3000000/
■ジョブ型雇用は万能薬ではない
しかし、ジョブ型雇用は万能ではなく、かえって人事部門の役割の複雑化や現場マネージャーの負荷増大を招く。当然、制度設計は歴史的な浅さもあり、どの企業もノウハウはないので試行錯誤をせざるを得ない。
当面の問題としては「異動」と「格付け」であろう。
もともとこれまでのメンバーシップ型雇用では、職種はあるが専門性を考慮した働き方を前提とした雇用契約を結んでいない。そのため、比較的他部署への異動が可能だったと思う。私自身も、シンクタンク系のコンサルタント業務で入社したはずなのにSEとして働かざるを得ず、一定経験を積んだ後は、管理部門への異動を打診されたことがある。
また、転勤についても明確な雇用契約に入れていないので会社都合で飛ばされることもある。こうした転勤に関しては本人の意向を尊重するといっているが聞き入れてくれることはなく、退職を余儀なくさせられて人物も知っている。
こうした問題はジョブ型雇用ではもっと出てくるであろう。
下記は氷山の一角だと思う。
○「ジョブ型人事を口実にした人事権の濫用」 降格処分や配置転換は不当として、オリンパスと子会社を社員が提訴
2025年03月03日
新人事制度については、労使交渉を重ねた末、労働組合も合意していた。しかし、当初は、新人事制度によって格付けが変更された後にも給与が下がらないことなどが前提となっていたという。だが、前記した通り、A氏を含む多数の社員が「原則として『G9』に移行する」とされていたところ、実際には「原則外」として「G11」に格付けされた。
笹山尚人弁護士は「『前提』を会社が破った」と語る。
昨今では「ジョブ型人事制度」の導入に向け、労働法の改正が検討されている。2023年12月に内閣府が開催した「第4回三位一体労働市場改革分科会」では、KDDI株式会社や富士通株式会社と並んでオリンパスの人事制度も模範例として取り上げられた。
検討案では、各企業でジョブ型人事を導入する際には労使で協議を行うことで条件を定めるものとされている。しかし、笹山弁護士は「実際の企業で行われている協議の内容とは、本件のようなもの。労働者代表を選出したところで、公平に条件が決められるものだろうか」と疑念を呈する。
https://www.ben54.jp/news/2008
こうした問題は「法務」で対応するというのは逃げになる。
なぜなら、こうした事態を引き起こすのは人事部門のコンプライアンス意識の低い行動にあるからだ。
単に言われたことをしていますという人事部門に明日はない。
2025/03/12