「最新 人事考課制度 労政時報 別冊」
-人が育つ評価システムと目標管理制度の実務研究-
《所感》
2006年の資料なのでかなり旧い。
この時点では2000年頃から目標管理制度が普及してからまだ10年にも満たないのでいろいろな課題が残されていることが分かる。
この資料は「解説編」「事例編」「実態調査編」に分かれており、企業がまだ制度の浸透がうまくいっていない異コトをうかがわせる結果になっている。
「実態調査編」で指摘されて言う下記などはそれとうかがわせる。
●運用上の問題
期初:目標設定
多部門との連携の不備。目標設定基準が不明確なことにより個人目標にばらつきがある。また、目標設定時の面談では管理者のマネジメント能力が低く、認識のすりあわせが不十分。
期中:目標遂行過程
部下任せの放任管理で、管理者としてアドバイスやフォローがない。
期末:達成度評価
処遇反映に力点が置かれ、人材育成や動機付けの機能が弱い。
これと呼応するように「解説編」では下記の指摘・意見があり、建前としてはよく分かる記述である。
●目標管理制度による査定がうまくいかない理由は、被評価者に対して期待する役割や職務(Input)を明示しないまま、成果やプロセスといった目標(Output)を求めたり、さらには会社が提示すべきOutputを被評価者に自分で設定させたりするからだ。
●成果主義における査定は、目標管理制度が敵していると思われているようであるが、それは思い込みであり、誤解である。目標管理制度はそもそも評価制度ではなくマネジメントツール(だからこそ目標を自分で設定すると言うことが成り立つ)であり、査定に使うには相応の困難を伴うのは当然である。
●職務や役割をベースにパフォーマンスにより処遇を決定する処遇体形において、能力評価を処遇の査定に使うことに合理的な理由はない。
なぜ建前というのかと言えば、相変わらず目標管理制度を査定と報酬に連動させている企業が多いコトや、管理職(マネージャー)が日常管理に使っていないこと、期首に設定した目標管理シートは期末まで見向きされないことが経験的に知っているからだ、
おそらくは2006年当時の課題は今でも解決していない。
これはどんな問題を引き起こすだろうか。
《正規社員と非正規社員 そして静かなる退職》
1990年以降、バブル崩壊を受けて正社員の非正規が進められたことは周知のことである。
非正規社員の増加は近年のデータを見ても明らかである。
2022年平均の雇用者数の内訳:
正規の職員・従業員数: 3,597万人(前年比1万人増加)
非正規の職員・従業員数: 2,101万人(前年比26万人増加)
2023年平均の雇用者数の内訳:
正規の職員・従業員数: 3,606万人(前年比18万人増加)
非正規の職員・従業員数: 2,124万人(前年比23万人増加)
日本の企業における正社員の割合は約63%、非正規社員の割合は約37%となっており、企業の3人に一人は非正規社員である。良く問題視されるのは、同じ仕事をしているのにもかかわらず賃金格差である。
(参考)
月額賃金の比較
正社員・正職員: 平均月額賃金は32万8,000円
非正規社員: 平均月額賃金は22万1,300円
こうした中で、正規社員にだけ問題を放置したままでの目標管理制度を導入し査定することは、良い方に向かえば良いが「静かな退職」を選んだ層には効果はなく、会社全体のモチベーションアップにはつながらない。
《ジョブ型雇用と目標管理制度》
2024年以降、各企業はこぞってジョブ型雇用という言葉に飛びついている。この言葉に飛びつけばすぐにでも組織能力が上がるかという錯覚を持っているのではないかと危惧される。
とはいえ、目標管理制度を業績評価と連動させ、査定中心という運用をしているのであれば親和性は高いかもしれない。しかし、結局のところ課題は同じである。
・職務内容の明確化 → 業務範囲を曖昧にしないジョブディスクリプションの策定が必要
・適切な報酬水準の設定 → 市場価値に基づいた給与設計と、社内の公平性の確保が重要
・成果評価の難しさ → 客観的で納得感のある評価指標(KPI・OKR)の導入が求められる
・キャリアパスの不透明さ → 異動や成長機会を提供しないと、転職リスクが高まる
・企業文化との適合 → 協力関係の維持とチームワークのバランスをどう取るかが課題
こうした課題は2006年頃と何も変っていない。
このままでも通用しそうな内容ではある。