戦略人事:希少価値になりつつある人的資源(ストレスチェック)


■離職のリスク

ジョブ型の対比としてメンバーシップ型と言う言葉が使われる。こうした対比は、「機能型組織」と「共同体型組織」の対比で語られる文脈の類似性がある。「機能型組織」というのは行ってみれば、「会社は儲けを生み出さなければならない」という命題の基に動く組織であり、ニデックの永守会長がかつて述べた「稼ぐやつが一番偉い」につながる価値観になる。

これに対し、「共同体型組織」は昭和の時代の組織運営に通じるものがあり「終身雇用」などはその典型であり、社員を守ると言うことが前面に出てきている。

こうした状況を維持できなくなったために、2000年代には目標管理制度を導入し、高齢者(管理職)のリストラ、ジョブ型雇用という流れが生み出されている。

しかし、これは会社と言う組織への帰属意識を薄め、離職のリスクを高め、人材の流動化という流れも生み出しかねない。

日本ではまだ労働市場は依然として流動性が低いものの、転職希望者の増加や労働力不足といった変化が生じているということがデータを見ても分かる。企業が社員はいつまでもいるという前提での人事戦略は見直すべきであろう。

■ストレスチェック

人材の流動化は、出て行く側面を見れば望ましいわけではない。できれば自社にとどまっていて欲しいと願うのは自然のことであろう。しかし、実際は「稼げ、稼げ」のプレッシャーを与え、メンタル面の不調を引き起こすという事例も良く聞く。企業はこれを事前に防ぐことが長期的には有効なはずなのだが、「ない袖は振れない」とばかり真剣に取り組んでこなかったという現実があるのだろう。

これに対してメスを入れるという政府の動きを報じるニュースを見た。

○ ストレスチェック、全企業で義務化へ 従業員50人未満も対象に
2025年3月14日

 年1回のストレスチェックは、2015年から従業員50人以上の事業所を対象に義務づけられた。「時間内に仕事が処理しきれるか」「上司や同僚と気軽に話せるか」といった、業務量、周囲のサポート、心身の自覚症状などに関する質問に答えてもらい、心理的な負担の度合いを測る。

働き手のストレス状態を調べる「ストレスチェック」がすべての企業に義務づけられる。仕事が原因で心の病になる人が増えていることから、実施対象を従業員50人未満の小規模な企業にも広げて職場環境の改善を促す。

https://www.asahi.com/articles/AST3F0VVDT3FULFA00NM.html

こうした記事の解説をとりまとめてみると、

「ストレスチェックの全企業義務化」は、従業員のメンタルヘルスを守るための重要な施策であり、労働安全の強化を目的としており、下記の「背景と目的」「l効果と課題」が指摘されている。(朝日新聞その他から引用)

◆ 背景と目的: これまで従業員50人以上の事業所に義務付けられていたストレスチェックが、全ての企業に拡大される背景には、職場でのストレスやメンタルヘルス不調が増加している現状があります。この施策は、従業員の心理的負担を早期に発見し、適切な対応を促すことで、職場環境の改善と労働者の健康維持を目指しています。

◆ 効果と課題: ストレスチェックの義務化により、企業は従業員のメンタルヘルス状況を把握しやすくなり、早期の対策が可能となります。 しかし、小規模事業所では、実施体制の整備やコスト負担が課題となる可能性があります。 また、チェック結果の適切な管理やプライバシー保護も重要な課題です。

中小企業であっても、ストレスチェックの全企業義務化になれば、労働安全の強化と従業員の健康維持を目的とした施策展開が必要になり適切な対応と環境整備が求められることになるのは時代の趨勢であろうと思われる。

■ジョブ型雇用との親和性

一方で「共同体型組織」から「機能型組織」への転換、すなわち「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に人事制度を変えるというのであれば、能力発揮が期待できない崇はリストラの対象ともなり、前提としてストレスを与えることがリスクとしてある。下記の様な問題提示もされている。(中野が各種資料を整理)

(1)ジョブ型雇用では、ストレスが高くても「配置転換」が難しく、適応できなければ辞職に追い込まれやすい。
(2)ジョブ型雇用と対になるリストラでは、「ストレスを抱えている人」が整理対象にされるリスクがあり、結果的にストレスチェックが従業員保護ではなく、逆に不利益を生む可能性がある。
(3) リストラ後の業務負担増加によるストレス悪化も問題になりやすい。つまり、「ストレスチェックの義務化」と「ジョブ型・リストラの推進」が同時に進むと、企業の対応次第で逆に労働者が不利な状況に追い込まれるリスクがある。

企業は激変する経営環境に対峙するために施策を展開するが、その中核は人材である。その人材は近年は特に希少価値になっている。ジョブ型雇用が人材に焦点を当てている人事施策ではあるものの健全な状態に維持することも必須である。

政府が命令するからではなく自律的な対応が必要となるだろう。

「ばかやろう、やってられるか」と言われないようにしないといけない。

2025/03/22