ISO9001と経営:2024年の現場事故を振り返る(安全より利益を優先する人々への懸念)
他人事ではなく自分事として考えて欲しい
■命を落とす事故
2024年の諸々の記事の中で、土木・建築、運送、製造業などの多くの現場で人が命を落とす事故を数多く目にすることが多かった。
これは2023年以降であっても変らないようだ。
○労働災害 死傷者数、20年で最多
2023年11月22日
▽…労働者が就業に関連する作業や業務などが原因でけがや病気、死亡することを指す。日本では労働安全衛生法で規定されており、事業主には労働災害(労災)の防止や発生した際の労働者への補償、また労働基準監督署への報告義務がある。
▽…足元の日本の労働災害による死傷者数は過去20年間で最大とじわり増えているが、世界でみると労働者10万人あたりの死亡者発生率は日本が1.54人と韓国や米国などに比べ低水準だ。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO76321630S3A121C2EA2000/
「人は死んだら生き返らない」、「欠損した四肢は元に戻らない」と言うことは当たり前の話であり、人を使役するという立場の人間はこれを尊重しなければならない。
これをないがしろにしかねない事件が多い。
○ “危険な移動”常態化か ビル建設現場で作業員転落・意識不明の事故 労基署が工事請負業者らを書類送検 熊本
2025年3月14日
この事故で、会社と担当者は足場の周辺に50センチほどの隙間があったにもかかわらず、安全な通路を設置していなかった疑いが持たれています。
熊本労基署は、安全な通路を通らない移動が常態化していたと見ていて、会社と担当者は労基署の調べに対し容疑を認めているということです。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rkk/1784381?display=1
しかしこの傾向は一過性のものではなく常態化している恐れもある。
○ 建設現場の6割に違反 墜落防止未実施目立つ 東京労働局・年末指導結果
2025.02.10
東京労働局(富田望局長)は、昨年12月2~27日に都内の建設工事現場に対して実施した指導の結果をまとめた。指導した562現場中、353現場で労働安全衛生法違反が見つかっている(違反率62.8%)。
指導現場の多くは建築工事現場で、主な違反事項には元請事業者の安全衛生管理275現場(77.9%)、墜落・転落防止措置210現場(59.5%)などがあった。墜落・転落では、高所作業のための作業床や足場の手すり・さん、開口部の手すりなどが設置されていない箇所があった。353現場のうち49現場(13.9%)には作業停止、立入禁止などの行政処分を実施している。
https://www.rodo.co.jp/news/191263/
■ISO9001:2015という規格
規格の第5項は「リーサーシップ」であり、その要求事項は以下の通りである。
トップマネジメントは,次に示す事項によって,品質マネジメントシステムに関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムの有効性に説明責任(accountability)を負う。
b) 品質マネジメントシステムに関する品質方針及び品質目標を確立し,それらが組織の状況及び戦略的な方向性と両立することを確実にする。
c) 組織の事業プロセスへの品質マネジメントシステム要求事項の統合を確実にする。
d) プロセスアプローチ及びリスクに基づく考え方の利用を促進する。
e) 品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする。
f) 有効な品質マネジメント及び品質マネジメントシステム要求事項への適合の重要性を伝達する。
g) 品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする。
h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ,指揮し,支援する。
i) 改善を促進する。
j) その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップを実証するよう,管理層の役割を支援する。
それは人々を導けるような人格者となり尊敬されるようになれと言っているのではなく、実績によって責任を果たせと言っているのである。
その内容は
・事業を進めるに当たっての経営資本を整備せよ(箇条7.1 資源)
・人々の能力開発をせよ(箇条7.2 力量)
・人々が自立して働けるように意思疎通を確実にしろ(箇条7.3 認識 、7.4 コミュニケーション)
・一人一人の活動にばらつきが起きないように標準化を進めよ(7.5文書化した情報)
よなり
当然。その上で、これらが確実に行なわれることを担保しろ(箇条6,そして箇条8,9,10)
しかし、近年での現場の事故などを見るとそれが機能不全に陥っているように見える。
さて、では実際にどのような安全を軽視した事故が起きているのだろう。以下の整理してみよう。
■事故の類型化をしてみる
事例集になるので長いよ。
(1)むき出しの機械に接近するリスク
あたりまえであるが、動いている機械に近づくのはアブナイ。
ISOの審査員がネクタイをしたまま旋盤に近づくなどと言うことは自殺行為だ。
手袋やタオルもアブナイ。
○ 安全装置使用せず再度送検 東大阪労基署
2025.01.28
東大阪労働基準監督署(的場由美署長)は、プレス機械の安全装置を使用せずに労働者に作業を行わせたとして、金属製品製造業の中辻金型工業.㈱(大阪府東大阪市)と同社代表取締役を、労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反などの疑いで大阪地検に書類送検した。
同社は令和5年12月、機械が自動停止するなどの安全装置を使用しないまま労働者にプレス加工作業をさせた疑い。労働者が機械に左手を巻き込まれ、指を骨折する労働災害が起きている。
https://www.rodo.co.jp/news/190080/
○ 機械に頭を挟まれ死亡 紙器加工業者を送検 名古屋東労基署
2025.02.11
愛知・名古屋東労働基準監督署は、荷崩れした製品の回収作業中に機械の運転を停止しなかったとして、印刷および紙器加工業の笹徳印刷㈱(愛知県豊明市)と同社グラビア工場のグループマネージャーを労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の疑いで名古屋地検に書類送検した。49歳の男性労働者が機械に頭を挟まれ、死亡する労働災害が発生している。
同社は、搬送機の電源を切らずに作業を行わせた疑いがある。
https://www.rodo.co.jp/column/190836/
○ 機械に頭を挟まれる…自動車部品の製造工場で19歳の男性従業員が頭蓋骨を損傷し意識不明の重体 1人で清掃作業中
2025/03/13
挟まれたのは従業員の19歳の男性で、生産ラインの機械とその上部にあるダクトとのすき間に頭を挟まれ、頭蓋骨を損傷していて意識不明の重体です。
当時、男性は1人で自動車部品の緩衝材の生産ラインの機械を清掃していたということです。
清掃作業は通常、機械を止めて行っていたということですが、事故が起きた時、機械が動いたままで、警察は業務上過失致傷の疑いもあるとみて調べています。
https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20250313_39315
○ 作業員の服が機械に巻き込まれる 姫路の工場、69歳代男性が死亡
2025/2/20
20日午後5時ごろ、兵庫県姫路市の機械製造業の工場で男性作業員(26)から「同僚が機械に巻き込まれた」と119番があった。県警飾磨署によると、同社社員の男性(69)が病院に搬送されたが、約1時間20分後に死亡が確認された。
https://www.kobe-np.co.jp/news/backnumber2/202502/0018673893.shtml
(2)運転操作のリスク
車にしろ何にしろ、運転すること自体がリスクを含む。
力量があったとしても安全を担保するわけではない。
○ クレーンが持ち上げた車下敷きに… 解体作業中 男性作業員が死亡【長野・飯田市】
2025/02/21
21日午後、飯田市の解体業者の敷地内で、車両の解体作業をしていた60歳の男性作業員が、車の下敷きとなり死亡しました。
事故があったのは、飯田市松尾明にある解体業「伊壺解体屋」の敷地内です。
事故当時、男性はクレーンに乗った別の作業員と一緒に作業に当たっていて、男性はクレーンが持ち上げた車両の下敷きになったということです。
警察は、クレーンの操作に誤りが無かったかなど事故の原因について調べています。
https://nordot.app/1265623656097268294
○ 人気洋菓子チェーン店の製造工場で死亡労災事故 フォークリフトの車体に体が挟まれ男性従業員(26)が死亡 山形・寒河江市
2025年2月24日
寒河江市の菓子工場で24日午前、従業員の26歳の男性がフォークリフトの支柱と車体の間に挟まれ、死亡しました。警察が事故の原因を詳しく調べています。
事故当時、川又さんは同僚の男性と2人で雪でスタックしたフォークリフトの脱出作業を行っていて、川又さんが運転席に座っていた所、前方からマストが倒れ、挟まれたということです。
https://news.ntv.co.jp/n/ybc/category/society/yb5ab7b70fcaa5492fb60fd9b15cc6b3f2
○ 「フォークリフトの下敷きになっている」と通報 40代男性が心肺停止で搬送されるも死亡 米袋を運搬中にバランスを崩したか 2025年3月7日
当時、倉庫では男性がひとりで米袋をトラックから下ろす作業をしていました。現場の状況から、荷物を乗せたフォークリフトがバランスを崩し、運転席から落ちて下敷きになった可能性があるということです。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1771668?display=1
(3)建物は常に危険が一杯
高所からの落下のリスクは常につきまとう。
それだけではなく、老朽化に伴う崩落リスク、設計ミスによる崩壊リスクもある。
○ 【速報】東京・港区 24階建ての解体中のビル 20代の男性作業員が落下し死亡
2025/01/22
22日午前11時ごろ、港区芝の解体中の25階建てのビルで20代の男性作業員が落下しました。
東京消防庁によりますと、男性は何らかの理由でビルの高層階部分から落下したとみられ、ビルの3階部分にあるエレベーターシャフトの中で倒れているのが見つかりました。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000399467.html
○ 「足場が崩れ作業員5人が転落した」26歳と49歳の2人が死亡 約20mの高さから転落か 高速道路の橋梁補修工事で足場が崩落 警察は業務上過失致死の疑いも視野
2025年1月28日
NEXCO西日本によりますと、この工事は中国自動車道のリニューアル工事の一環で、橋梁の床版を取り替えるため、吊り足場の設置作業中だったということです。現場で作業していたのは9人で、このうち5人が転落しました。作業員たちは、フルハーネスをしていたこということですが、どのように取り付けていたかなどを確認してしているということです。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rcc/1691859?display=1
○千葉・中央区 ビル解体現場で天井崩落 複数の男性作業員が下敷き
[2025/01/09
9日午前10時ごろ、中央区富士見にある解体中の11階建てビルで「2階の天井が抜けて1階に落下した。2人の逃げ遅れがいる模様」と119番通報がありました。
警察によりますと、3階部分が抜け落ち2階も重みに耐えきれず、1階にいた作業員らが下敷きになったとみられるということです。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000396433.html
(4)言ったはずのすれ違い
建築土木などはその推進が下請けの多重構造になりやすい。どこかで意思疎通が図れなければ後々大きな問題になりかねない。
まる投げ体質も気をつけなければならない要素であろう。
○ 「下請けに全て任せて…」施工管理が不十分 中国道の工事中の足場崩落2人死亡事2025.03.04
中国自動車道の工事中に足場が崩れ2人が死亡した事故で施工管理が十分でなかったことが明らかになりました。
ネクスコ西日本 小山基史改築課長
「作業自体全体的に1次下請け2次下請けにすべてを任せていて管理等々ができていない」この事故は1月27日広島県廿日市市吉和で中国自動車道の工事中に組んでいた足場が崩落し作業員2人が死亡したものです。
ネクスコ西日本によりますと吊り足場を支えるため橋桁に打ち込んでいたアンカーの位置が低かったことに加え打ち込みが既定の基準より浅かったことが新たに判明しました。
○ 中国道の足場崩落でアンカー埋め込み不足も判明、危険を周知徹底せずミス重ねる
2025.03.14
検討会では受注者などにヒアリングを実施。受注者が下請け企業に対して、計画通り施工しない場合の危険性について周知を徹底していなかったことが要因だと推定した。
作業手順や基準値は一般的に、各作業段階の前に受注者が説明会などを開いて下請け企業に知らせる。この事故現場では、受注者がアンカーの設置位置や削孔長などについて施工図を手渡し口頭で指示したが、下請け企業は計画通りに施工しなかったという。
足場崩落の原因の1つに、桁の張り出し部のチェーンを未設置の状態で足場の施工を進めていたことがある。施工計画書などでの施工手順が明確でなかったことに加え、未設置で施工を進めることの危険性を周知できていなかったことが要因だとした。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/02191/
■納期より「安全第一」
こうした事故は回避可能なはずである。簡単に言えば「丁寧」に仕事をすれば良い。
なぜできないのかと言えば、納期やコストを優先して「安全」を後回しにするからだ。
よく工場には「安全第一」と書かれる。
経営者の方(あるいは工場長)に「納期より”安全第一”」と書きませんかという提案をする。だいたいが笑い飛ばされる。
「だから事故が減らないんだよ。」と言われないようにして欲しい。
2025/03/27