「誰も断らない ~こちら神奈川県座間市生活援護課 篠原匡」 2022年
本屋を覗いていたときに、なんとなく手に取り気になったので購入した一冊になる。
自分の母親が施設に入居していたが、その施設の方と話をしていたときに「入居者には生活保護の方が多くなってきた」という話を聞いた。もちろん費用面の問題もあるが、高齢となった生活保護の方は「身元保証人」となる親族がほとんどおらず、彼らへの医療行為の意思決定が微妙になると言うことが悩みであったらしい。
最近では行政が排除しているのだろうか、「ホームレス」問う存在はあまりこの辺では見かけなくなっている。しかし、景気が爆発的に良くなっているわけでもなく、IT社会に置いてけぼりにされている人々は確実にいる。彼ら弱者に対しては行政は冷たいのではと感じていたこともあり、この本に興味を引かれた。
●あらゆる制度がそうだが、制度はその制度ができた瞬間に、条件に当てはまらない人が生まれてしまう。
この本は、いわゆる社会的弱者に対し、上記の様な問題意識を持って、様々な機関が連携して支援する体制をつくってゆく物語である。
●日産に限らず、企業の事業再編や生産拠点の閉鎖に伴って、少なくない人がリストラの憂き目に遭った。そして正社員という“既得権”を温存するため、企業は新卒採用を抑制し、派遣など非正規社員への置き換えを進めた。
「非正規の根雪」というパラグラフで記述される一節である。
この本が記述された2022年に景気に関する指標としてのDI指数を見てもリーマンショックの影響はまだ色濃く残っており、その後の世界経済の不安定さは日本経済などにも暗い影を落としていることがうかがえる。2024年以降は人手不足が顕在化して欠く企業が積極的に採用活動を行っているとは言え一方でリストラを積極的に行なうという二面性を持っている。
いわゆる社会的弱者は減っていないだろう。
しかし、こうした「社会的弱者」という考え方自体に警鐘もならす。
●人間には、それぞれ得意なことと不思議なことがある。何でも器用にできる人もいれば一つのことに注力するのが得意な人もいる。今の世の中は生産性や創造性という言葉で人の能力に優劣が付けられているが、それぞれの場所でできることに全力を尽くせばそれでいいはずだ。
示唆にとんだ良書だと思う。ただし、ノウハウ本ではない。何を感じるかは読者次第だし、ここでのやり方をすべての自治体ができるわけでもない。それでも当事者にはチャレンジしてもらいたい。