戦略人事:グローバル人材、リベラルアーツ、地政学(イスラエル問題への関心)
■止らぬ紛争の火種
日本報道は、国内については季節の話題、社会面で取り上げられるような記事が多いが世界に目を向けた報道は少ない。しかし、ウクライナへのロシアの攻撃は止っておらず、一部NHKの報道を見るにつけ終息の期待もできない。
○ ロシア ウクライナに軍事侵攻(4月7日の動き) 2025年4月7日
ウクライナのゼレンスキー大統領は6日、SNSに投稿し、6日までの1週間でロシア軍から1460発以上の誘導爆弾やおよそ670機の無人機、さらに、30発以上のミサイルによる攻撃があったと明らかにしました。
ゼレンスキー大統領が公開した映像では、東部ドニプロペトロウシク州のクリビーリフで、建物から煙があがっている様子のほか、東部ハルキウ州で、火が出た車の消火活動が行われている様子や、不安そうな表情をした地元の人の姿が確認できます。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250407/k10014753431000.html
こうした紛争は世界各地で起きており経済的な混乱は継続している。経済面で言えば、シリアでの紛争も終息しているとは言えず、混乱はミャンマーーなどにも見て取れる。中東の紛争の中心はイスラエルとパレスチナ問題であろう。一時は停戦の話があったものの、その話は影を潜めている。
○ イスラエルがガザ攻撃、6人死亡 新区域「モラグ回廊」で活動開始 2025/04/06
パレスチナ通信は5日、イスラエルの無人機がパレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスを攻撃し、6人が死亡したと報じた。イスラエル軍はガザ南部を分断する新たな軍事区域、モラグ回廊で活動を始めた。最南部ラファでハマス側の拠点の発見や破壊を進める。
ガザ保健当局によると、2023年10月の戦闘開始以降、ガザ側の死者数は5万670人に迫っている。
https://nordot.app/1281367136617955676
こうした紛争解決に意欲的であったトランプは「停戦させる」と言った言葉の空虚感がただよう。
○ ロシア、ウクライナ停戦めぐり「アメリカとの協力継続」を主張 トランプ氏の「プーチン氏に立腹」発言受け
2025年4月1日
ロシアは3月31日、同国がウクライナとの停戦交渉をめぐり、今も「アメリカと協力している」と主張した。ドナルド・トランプ米大統領は前日にテレビ放送されたインタビューで、ウラジーミル・プーチン大統領に対して「とても腹を立てた」、「むかついた」と述べていた。
https://www.bbc.com/japanese/articles/c2kvdn1n2k3o
子供じみた言動に期待はできない。
■地政学的リスク
イスラエルのガザ侵攻がエスカレートすると、特に中東地域の近隣国(エジプト、ヨルダン、トルコ、イラン)にとって大きな影響を及ぼす可能性がある。それぞれの国は人道的な危機や国内の政治的な影響、さらには地域的な緊張の高まりに直面することになり、経済的、社会的、外交的な困難を抱えることが予想される。
こうした地域紛争は世界経済にも大きな影響を与えかねない。
実際、イスラエルのガザへの侵攻の激化は、世界経済に不安定さ、特にサプライチェーンへの不安定さを起こしかねないと思っている。最近の話題で言えば、紅海でのイランの動きにより喜望峰周りを余儀なくさせられた事案を思い出す。
○ 紅海情勢悪化による物流への影響 2024年9月27日
中東・アフリカ地域には、アジアと欧州を結ぶ紅海やスエズ運河、石油海上輸送のチョークポイントであるホルムズ海峡といった、世界の物流の要衝が存在している。2023年10月に発生したハマスとイスラエルの武力衝突に端を発し、同年11月以降、イエメンの武装組織フーシ派は、紅海周辺を運航する船舶への攻撃を繰り返している。これを受け、船会社は、紅海・スエズ運河航路を回避し、南アフリカ共和国の喜望峰へ迂回する動きが拡大した。これにより、輸送日数の増加、海上運賃・保険料の上昇など、国際物流が混乱している。
本特集では、中東・北アフリカの日本企業や現地企業や物流関係者へのインタビューなどをもとに、地政学的な影響を踏まえた物流状況などについて解説する。なお、本稿では、世界の物流・サプライチェーンに影響を与えている紅海周辺における2023年11月以降の情勢変化について総括する(2024年9月17日現在)。
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2024/0903/392c24adf9ffa3df.html
これ以外にも下記が指摘されている。
①エネルギー価格の上昇:
中東での緊張は原油・天然ガスの供給不安につながりやすく、特にホルムズ海峡(世界の原油輸送の約2割)に緊張が及ぶと、世界経済にインフレ圧力が再燃する可能性がある。
② 国際物流の高コスト化
紅海の混乱で航路が喜望峰経由になると、アジア・欧州間の輸送日数が約10〜14日増加し、運賃や燃料コストが上昇。また貨物遅延による「納期リスク」も増し、Just-in-Time型のサプライチェーンへの再考を迫られる。
③ インフレ圧力・利上げ持続への影響
原油価格上昇→燃料・輸送コスト増→製品価格上昇→消費抑制。各国中央銀行がインフレ抑制のための利上げを継続、もしくは利下げ開始の延期。
④ 株式・為替・債券市場のボラティリティ上昇
特にリスク回避の流れでドル高・円高になる場面も(ただしエネルギー高で円安要因と相殺も)
■グローバル人材への要求の変化
トランプの相互関税でも、その問題点として「一国で完成品を作れない」と言うことがある。必ず「調達」の問題、これに絡めて「貿易」や相手国との付き合いなど、単純なグローバル化では対応できなくなってきている。
以前、グローバル人材に関しての経営者インタビューを整理したことがある。彼らが異口同音で言うのは、英語がしゃべれることではなく、自分の国の文化について自分の言葉で話ができること、相手と話ができる程度の教養を身につけていることだった。しかし、体系的にたとえば国際政治などを学ぶ場ないことはいわゆるリベラルアーツと言われる分野だけでは対応でき無くなっている。
「グローバル人材」=英語が話せる人材という狭い理解は、もうすでに時代遅れであり、。むしろ、「自分の国の文化や歴史、価値観を言語化できる力」と、「他者と深いレベルで議論できる教養」が本質です。そして、そこに国際政治や経済、安全保障、宗教、地政学といった文脈を理解する視点が不可欠になる。いわゆる従前のリベラルアーツだけでは不十分である。
もともとリベラルアーツは「人間とは何か」「社会とは何か」を根本から問う学問なのだが、現代の国際社会ではそれに加えて
・現実の政治構造(例:G7の役割、中国の一帯一路)
・パワーバランス(例:核保有国の戦略、同盟関係の意味)
・リアルな交渉力(利害調整、価値観のすり合わせ)
が求められる。つまり、実践的・戦略的な思考(戦略リテラシー)がなければ、グローバルでの発言力・説得力は保持できなくなっている。新たなグローバル人材の育成システムが必要になる。
とはいえ、その見通しは明るくない。なぜなら、いわゆる高等教育には地政学を学ぶ枠組みがないからである。かろうじて大学などに「国際政治学」といったそれらしい分野はあるが体系的に学ぶ教育システムはない。
企業としてグローバル人材が必要なのであれば社内に、社会人教育・リスキリングの充実を戦略人事に埋め込む必要がある。
・経営者・ビジネスパーソン向けの「地政学・安全保障・国際政治」の講座
・民間主導の教養教育(例:朝日カルチャー、NewsPicksアカデミアなど)
などの活用も視野に入れることが望ましい。
戦略人事などと言う抽象的な言葉に踊らされているヒマはない。
2025/04/09