「人に必要とされる会社を作る 万協製薬株式会社 松浦信男」 2012年

「人に必要とされる会社を作る 万協製薬株式会社 松浦信男」 2012年

三重県多気郡多気町にある万協製薬株式会社の経営者松浦信男氏は日本経営品質賞を二度受賞しており、日本経営品質賞に関わるのある人であれば、まずは知らない人はいないだろうと言う人物である。

彼の会社は、テレビ番組にも取り上げられているし、彼自身も露出しているのでインターネットを探れば色々情報が出てくる。

彼の経営手法はかなり独特であり、伝聞などもあるが以下のようなものが挙げられる。
・家にいるより会社にいたほうが楽しい
マンガ喫茶みたいな空間、フィギュア博物館など社員が楽しめる空間を作っている。
・機械の7割は遊ばせておく
突然の受注であってもすぐに生産ができる。
・競合が参入したらその事業は辞める
安売りはしないし、他でできることはしない
・見られて恥ずかしくない会社にする
掃除が行き届き、医療品を扱っているのにふさわしい会社にする
・情報を公開する
・会議には部外者を参加させる
などなど。

こうした企業運営の根底は「復讐」にあると彼は言う。

●そのとき、私は(阪神淡路大震災の)被災地のど真ん中である神戸市長田区にいた。父が創業し、35年間神戸の地で営業を続けていた会社は一瞬にして崩壊、操業不能になる。昨日まで一心同体だと思っていた社員は、みんなで会社を建て直そうという私の呼びかけに耳を貸そうとせず、無情にも去って行った。支援を求めた唯一の取引先からは、慰めの言葉どころか、おたくがなくなっても痛くもかゆくもないからと廃業を薦められる。・・・私も会社も、実は誰からも必要とされていなかった。

こうした経験から下記の様な方針も出ている。

●情に頼ったビジネスはもうやめよう・・・はたして、あなたの会社は、取引先に「あなたの会社でなければ」と言ってもらえる仕組みを準備しているだろうか?それだけの仕事をしているだろうか?

盛んに彼は「復讐」という言葉をこの書籍の中に言う。しかし、それは、誰からも必要とされなかった会社をそのままにしていた自分に対する復讐ではないのだろうか。彼には「恨」や「破壊」はない。創造的ですらある。

人というものを信じている言動すら感じる。
その現れは、そのフィロソフィーにも現われる。

参考:11の思考指針バンキョーフィロソフィー (会社を取り巻く人々のあるべき考え方)
https://www.bankyo.com/about/credo/philosophy.html

彼の足跡をたどるのに良い本である。

(中野のあとがき)
私自身は2000年頃から日本経営品質賞のセルフアセッサーとなり、しばらく前までは審査員としての活動をしていた。その過程で、日本経営品質賞の受賞組織や優れた企業の講演や企業見学なども行なっており、その縁で入手した本の一つである。
経営をどのように舵取りをしようかと迷っている経営者には一読して欲しい。
すべてをまねることはしなくとも良い。経営には独自の文化観や価値観がある。それを損なわない答えは経営者自身しか見つけられない。それでもヒントになりうる良い本だと思う。

2025/05/06