「申し訳ない 御社をつぶしたのは私です。 コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする」 カレン・フェラン 2014年
■■■ 雑感
本の書籍名は中々エキセントリックである。中身は至って真面目な内容で、誤解を承知でポイントを述べれば、
① ツールはどこまで行ってもツールである。それ以上でもそれ以下でもない。
② ツールをどう使うかはクライアント(つまりあなた)次第であり、責任はすべてクライアント(あなた)にある。
③ コンサルのいうがままに経営の意思決定をしてはいけない。
④ 経営をしっかり舵取りをしたいのなら社員tの対話を重視しなさい
⑤ 経営は結局は人である。
と言ったところだろうか。
コンサルタントが万能ではなく、むしろ頭でっかちであり、もっともらしい理論などを持ち出すが、他の企業や過去の事例でうまくいったことをパターン化したところで旨く行くわけでもなく、場合に寄っては致命的になることを示唆している。
また、ろくでもない経営者は都合の良いようにコンサルタントの名前やツールを利用して不全となることは、「武蔵野」の小山昇と、ビッグモーター、知床遊覧船事件でも明らかであろう。
■■■ 教訓
この書籍には、そうした事態にならないための教訓めいたことが数多く記載されている。
少し長いが、引用してゆこう。
各章だてごとに心に残った文章を記載してゆく。
注:●は本文より引用
《Introduction》
導入部分である。
印象的なのは以下の二つの文節であろうか。
●ともかく大事なのは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる。
(所感)
モデルや理論は参考にしても良いが、解決する当事者たちが自分事として素直に意見を述べ合うことしか解決には至らないと言うことだろう。
モデルではこうだ、理論ではこうだが役に立たないことは数々の事例が示している。
●1度や2度うまくいっただけで、誰もが従うべき「ベストプラクティス」として打ち出しでも、実際にはある特定の状況でうまくいくに過ぎない。
(所感)
ベンチマークという言葉とともにベストプラクティスという言葉がもてはやされることがある。しかし、「経営は森羅万象」と言われるように、100の企業があれば100の経営がある。成功した事例は、その企業固有のものであり、他社が真似したところで成功の約束があるわけではない。
《第1章 「戦略計画」は何の役にも立たない》
この章では「戦略」を取り上げている。
コンサルタントが好きな言葉に「御社の経営戦略を明らかにすれば成功間違いなし」のようなうたい文句がある。コンサルタントごときに自社の戦略を作らせてはいけない。そもそも戦略は方針であって成功のための設計図ではない。
●ここで戦略策定の典型的なプロセスをみてみよう。
①将来を予測する
②予測に基づき、大胆なストレッチ目標を設定する
③周囲の人々を説得する。その目標には特に関係の無い、単なる月給取りである一般の従業員らも、同じ目標へ向かって努力するように。
④目標達成に向けて邁進する
⑤成功を祝う!
もう泣き笑いしそうだ。これは戦略に関する考え方の寄せ集めに過ぎない
(所感)
正直、戦略策定のプロセスにもなっていない。「将来を予測する」などができるわけはない。未来など誰にも分からない。一般的には、自社の事業の方向性を議論し、それの阻害要因を含めた現状を分析し、その上でのリスクを含めた意思決定が常套手段であろう。複雑な要素の絡み合いと曖昧な情報しかない。曖昧×曖昧=とっても曖昧、と言う構図を忘れてはならない。
●戦略の策定において重要なのは知力を磨くことであって、考えるのを辞めることではない。
●自分たちで学び発見するプロセスこそ価値がある。守るべき計画を立てることがゴールではなく、自社の持つ能力を生かし、めまぐるしく変化する世の中に対して的確に対応する知恵を身につけることを目標にすべきだ。
(所感)
戦略を立てること自体が目標では無いと言いきる。
大切なのは、考える力を身につけると言うことである。
どのような戦略であろうと、計画通りに行かないことなどいくらでもある。場に応じた行動をとれるかどうかは結局その人なりの知力でしか対応でき無い。
●自社の企業としての価値や能力、成功したプロジェクトや失敗したプロジェクトの様々な事例、顧客が望んでいること、新しいテクノロジーなど、あらゆる情報を全社で共有することが、正しい意思決定には不可欠だ。大きなチャンスを見逃さないためには、従業員も十分な情報を知っておく必要がある。
(所感)
組織が人で構成されている事を前提とした言葉であろう。Introductionで「ともかく大事なのは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる。」とあるように、情報の不均衡は機能不全を引き起こしかねないことを忘れないことである。
《第2章 「最適化プロセス」は机上の空論》
ここでも「ともかく大事なのは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる。」を指摘している。コンサルタントが提示する見た目もすっきりしたツール類などを過度に信頼するなと言うことに尽きる。下記の記述は参考になるだろう。
●単純な「話し合い」が効果を発揮する
「ブラウンペーパー」という名称は、現行の主要業務プロセスのフローチャートを大型の茶色い紙に描くからである。そして、その業務プロセスの前関係者を集め、ブラウンペーパーのチャートを見ながら、現行の業務プロセスについて気づいた点を付箋でに書いて貼り付けてもらい、何がうまくいっていないのかを細かくみてゆく。・・・“ふれあいとローテク”のメソッドと呼んだものだ。
(中略)
このように関係者を一堂に集め、なぜ現行のやり方で業務を行なっているのか、それによって関係者にどのような影響が出ているのかを話し合い、多部門の人が抱えている問題をみんなで理解するという方法には計り知れない価値があった。セッションが終わる頃には、ミンアイゼンより視野が広がり、人間的な思いやりを持ってプロセス全体を見つめられるようになっていた。●頑迷なコンサルの「ツール」信仰
この(コンサルタントファームの)マネージャーはまだ現場の視察すらしておらず、作業員の話も聞いていない。なのに、他の工場でうまくいったから、今回も同じ方法で成功すると決めてかかっている。
・・・
私が入社した頃が素晴らしかったのは、方法論は人々が連携して働くようにするための道具に過ぎなかったことだ。それなのに、いつの間にか人々が連携して働くことより、方法論の方が重要視されるようになってしまったことのだ。●ツールが機能しない決定的な理由
じつは、ビジネスの問題の多くも、人間のミスによって起きている場合が多い。数多くの生産機械で起きる問題でさえ、機械オペレータの操作ミスやメンテナンス不良など、たいていは人間のミスが原因である。人間がつくった環境では、人間が原因を作っていない問題を探す方が難しいくらいだ。(※フィッシュボーンチャートでの原因分析の不全を指摘しながら)●人間は道具を使うのが好きだ
だからこそ文明を築くことができた。危険なのは、ツールそのものを解決策と勘違いし、ツールさえあれば関係者が連携しなくてもうまくいくと思ってしまうことだ。
(所感)
道具はどこまで行っても道具である。
《第3章 「数値目標」が組織を振り回す》
この章及び次の章では、いわゆる目標管理制度についての話が続く。
ドラッガーの言うように、目標を定めた活動をすることは高い質の活動に必須であるとは言え、実際に企業が導入したものは全く別物の制度である。特に、業績と紐付けた数値目標の制度は弊害しかもたらさない。
●「数値目標」 きっとどのコンサルタントも重要な持ち駒にしている。
・数値で測定できないものは管理できない
・指標スコアカードは自動車のダッシュボードのようなものだ。経営幹部は大きなメーターによって進捗状況をモニタリングできる。問題発生時は小さな赤いランプが点灯して警告してくれる。
(所感)
コンサルタントにとっては都合の良いツールであろう。なぜならば、面と向かって反対する理由が思いつかないからである。しかも、関連したコンサルティング(制度設計、評価者研修など)はいくらでもある。
●業績考課管理
次にIT化が進んだのは、従業員の業績考課管理だった。これはSMART目標(具体的で、測定可能で、達成可能で、成果に基づいた、期限の明確な目標)やダッシュボードで上下の変動を示す指標のおかげで、業務管理システムの自動kが進んだのだ。●見落としてしまうもの
このような測定システムから私が学んだことの一つは、目標を決めて設定し、それについて報酬や罰則を設けると、必ずと言って良いほどその目標は達成されることだ。しかし、残念ながらそのせいで、測定できない大事な目標が犠牲になってしまうことが多い。
※社員の幸福などは測りようはない、「社員の物心両面での支援」ができているかなどは簡単に測れない●不正の温床
問題は、システムで組織を指揮管理しようとしても、組織は人間でできていると言うことだ。
ある年、その地域担当マネージャーは、婚dこそは来年度の売上げ目標を達成できるように、申し訳ないが必要数よりもかなり多めに発注して欲しい、と取引先の販売代理店に頼みこんだ。売れな無かった分は後で返品してもらってかまわないから、と約束した。
※これと同じような話は、実際に聞いたことがある。記憶では「ユニチャーム」での事例だった気がする。また、ビッグモーターもこうした事と類似した案件と考えても問いだろう。●その目標が「判断力を奪う
・我々コンサルタントが、このカスケード型業績評価指標に対する認識を誤ったのは、そもそも「人々はどのように、なぜ働くのか」をちゃんと理解していなかったからだ。
・我々は、目標の評価基準に基づいて報酬や罰則を設定してしまうと、社員は会社の利益を犠牲にしてでも自己の利益を追求しようとすると言うことを分かっていなかった。
・我々のもう一つの勘違いは、それもおそらく傲慢さのせいだろうが、従業員はおとなしく目標に従い、罰を受けても制度に逸脱した行動をとることは無いと思っていたことだ。
・だから、営業職員が顧客に対して無理矢理商品を売りつけたり、バスの運転手がバス停を無視して通り過ぎたりしたことは、企業の幹部職員にショックを与えた。
※かつての福知山線の電車事故、近年の不正の数々は根っこは一緒●正しい使い方
・クライアントの社内の関係者全員を集めて優先事項を決定し、妥協点を探る。
・評価指標についてしっかりわきまえておくべき事は、指標は手段であって目的ではないこと
・評価基準は管理職層が参考にすべきものであり、管理の方法になってはならない●数値で設定される評価基準に振り回されないようにする最も単純な方法は、インセンティブ報酬やその他のすべての賞罰から指標を切り離すことだ。そうすれば目標は測定可能なものである必要は無いし、企業は単に評価基準を満たすための短期的な目標ではなく、本当に望む目標を追求することができる。
・従業員は評価基準に合わせようとする。
・評価基準を操作してしまうことすらある
・指標スコアカードは自動車のダッシュボードと同じ。ダッシュボードだけをみて道路をみなければ、衝突してしまう。
(所感)
最も問題なのは、「労多くして益無し」と言ったところだろうか。
業績が上がるわけでもないし、生産性も上がるわけではない。すくなくとも目標管理制度とは何も関係はない。こうした事の反証がちりばめられた章である。
《第4章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち》
前章の補足的な議論 省略
《第5章 「マネジメントモデル」なんていらない》
一転して、この章は著者の会社でのマネジメントについての記述である。
多くはマネージャーとしてのマネジメントとはどう考えるのかの記述となっている。
しかし、同時に、一般的な企業の中でもマネージャーが配慮すべき事とも重なる。
●どうやったら良い仕事ができるか、部下と一緒に話し合うことこそ価値がある
①気にかけていることを態度で示す
私が彼らのことを知ろうとするのは、その人のことを知りたいからであって、管理するための「テクニック」ではない。
②伝わるように伝える
自分が頭の中で考えていることなど、他の誰にも分からない。
③臨機応変に、柔軟に、素早く対応する
同じやり方で何度試してもうまくいかなったにもかかわらず、きっといつか魔法のように成功するはずだ、な度と期待してはいけない。
④先手を打つ
何をいつまで荷にやるべきかをしっかり決め、その情報をチーム全員で共有する。関係者に会い、相手側の要望に対して事らが行なうべき事を明らかにする。その上でチームの最終ワークプランを立てる。当たり前のことをする。
《第6章 「人材開発プログラム」には絶対参加するな》
気になった箇所を引用する。
●職務内容を定め、細かい要件を規定してから、それにあう社員を探すのは、職務内容を社員に合わせる場合に比べて貼るかに生産性は低い。・・・職務記述書も廃止するべきである。
(所感)
2024年頃からジョブ型雇用が話題になってきている。従来の「年功序列型」の賃金制度、雇用制度が維持できなくなってきていることや、現実問題としての人手不足問題への対応に関しての文脈の中で登場する。いわゆるパートナーシップ型と対比されるジョブ型であるが、人事制度としてみると、職能資格制度から職務型の人事制度への移行が課題となる。こうした中で、コンサルタントなどの職務給の提案をしてくるのだろうが、この本の著者は「辞めなさい」という。
現在仕事をしている社員は適性があるから今の仕事をしているのである。その人に合った仕事を探すべきであり、仕事にあわせて人を配置するのは本末転倒だと思う。
《第7章 「リーダーシップ開発」で食べているひとたち》
この章は教育・研修の功罪であろう。
●コンピテンシー開発は、たとえ良いアイデアに思えても大規模に行なった場合には社員の標準化にしかならない。・・・すべての社員に同じスキルを同じ方法で教えると言うことは、皆に同じように考え、同じように行動させることにほかならない。
●社員が自分にとって興味のあるテーマを追求し、奇想天外でわくわくするようなアイデアを学べるようにしなければ、将来は今と全く別のコンピテンシーが必要になることなどどうやって気づけるだろう。多様な考え方が生まれ、新しいアイデアが次々に取り入れられ、個人の情熱を追求できる環境があってはじめてイノベーションが可能となる。
●社員自身が興味のある研修や歓喜を自由に見つけて参加できるようにし、誰も聞いたことすらないようなことも学べるようにする。そして、新しいことやわくわくするような面白いことを学んだら、それを社内で共有するのだ。
(所感)
多くの企業において、研修と言えば「階層型研修」であり、年齢や職責などの変遷に応じて行なわれる。能力向上の研修なども、会社側が必要だと思う内容の研修である。社員が選択すると言っても、社員が本当に望んだか六諭ラムが用意されることはほとんど無い。
また、研修自体も個人毎にカスタマイズされたものではなく画一化されたものである。
たしかに「金太郎飴」のような社員を作る構造だと理解できる。
《第8章 「ベストプラクティス」は“奇跡”のダイエット食品》
Introductionの「1度や2度うまくいっただけで、誰もが従うべき「ベストプラクティス」として打ち出しでも、実際にはある特定の状況でうまくいくに過ぎない。」に対応する章であろう。内容は引用しない。各自で読んでほしい。
気をつけるべきは「ベストプラクティス」などと言う言葉が誰かの口から出たら「うさんくさい」と思うことだろう。誰にでも適用できるダイエット方法などはない。
■最後に
表題に反して、中身は非常に真面目であり、経験談のせいであろうか、納得感も高く感じる。
断捨離の対象の本として読み始めたのだが、どこかで引用したい文言が多い。
もう少し本棚に置いておこう。
2025/05/28