書評:「若者はなぜ3年で辞めるのか?」、「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」
①「若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来」 城繁幸 2006年
②「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか アウトサイダーの時代」 城繁幸 2008年
■はじめに
これらの書籍には、「若者が3年で辞める」と言うことの検証をしているのではない。ここで扱われているのはマイノリティ(若いと言うだけで低賃金で使われる人々、フリーターやリストラされた中高年、女性や障害者など)の搾取の上に成り立つ「年功賃金」や「昭和的価値観」へのアンチテーゼである。
書かれた時期は2006年、2008年であるが現在(2025年6月)の企業の働く人への対応の仕方、すなわち、中高年へのリストラ、一方で若者からはそっぽを向かれるという自体を予言しているのではないかと思わせる。
まずは下記の記事を念頭に置きながら、本に書かれていることを追いかけてみよう。
(1)マツダが希望退職者500人募集、米関税などで事業環境が不透明に
2025年4月22日
発表によると、勤続年数が5年以上かつ50-61歳で、工場での自動車製造に関与しない間接部門の従業員が対象となり、再就職の支援や割増退職金の支給などを行う。「従業員の自律的なキャリア形成を支援する」のが狙いで今年から来年にかけて最大4回に分けて実施するとしている。マツダのウェブサイトによると、同社は3月末時点で4万8685人の連結従業員を抱える。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-22/SV3PUUT0AFB400
※業績の悪化の責任を経営者はとらない。高賃金の中高年(50歳以上)を排除することで、これを調整弁としている。(マツダだけを非難しているわけではない)
(2)新卒採用選考6月1日解禁、既に就活終了5割 初任給上げも学生冷静
2025年6月1日
2026年春に卒業する大学生・大学院生を対象とした採用選考が1日解禁された。人手不足で採用難の企業は、政府が定めた就職活動のルールを守らずに採用活動を前倒して進めており、既に5割の学生が内定を得て就活を終えているとの調査もある。各社は入社先に選ばれようと相次いで初任給を引き上げており、アピール合戦の様相だ。
「内定を取った会社の中から選んでいこうという感じになった」。成蹊大4年の男子大学生。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC145W70U5A510C2000000/
※就職できるからOKと言う時代ではない。学生からも選択される時代である。
(3)「話が違う!」と即退職する新卒入社社員…身勝手対応に法的問題は?企業の対策は?
2025年06月11日
入社後すぐに退社する新入社員。どんな理由が多いのか。退職代行のモームリを管理するアルバトロス社が、2024年度新卒者1814人の退職代行利用者の調査を行い、その結果を公開している。
それによると4月(15.4%)、5月(14.1%)の利用者だけで全体の29.5%となっている。退職した新入社員の約3割が入社から2か月以内に決断したことになる。
また、時期別の退職代行の利用の経緯・退職理由も調査されている。4月~6月では、「入社前の契約内容・労働条件と勤務実態の乖離(かいり)」が最も多く、47%を占める。
https://www.ben54.jp/news/2350
※学生には「考えること」を求めている。考える学生は企業ののウソなど見破っている。3年内離職どころか3日ヶ月内離職になりつつある。
■「若者はなぜ3年で辞めるのか?」
この本の主旨は「若者から搾取することは辞めろ」と言うことであろう。
印象に残った言葉を◆で引用し、※でコメントする。
◆「はじめに」から
上昇し続ける新卒離職率、ニートやフリーターの急増、そして一向に改善しない年金未納率などは、これら若者の閉塞感が具体化したものだ。・・・個人がその閉塞感を突き詰めるのは現実問題として中々難しいだろう。・・・本書の目的は、彼らに「閉塞感の正体」を指し示すことだ。
※「閉塞感の正体」は結論を言えば 年功型賃金である。年寄りを食わすために若者が犠牲になっている現実の打破をしなければ何も解決しない。と言うことが本書を通しての論旨であろう。
◆成果主義について
成果主義の本質は何だろう。当然、「働いた分の報酬はタイムリーにキャッシュで支払う」と言うことになる。そういう世界においては“勤続年数”や“年齢”な度というプロフィールは意味が無い。・・・ここで重要なのは、そういった新制度が、あくまでも「従来の年功序列制度のレールの上で実行される」という点だ。
※2024年の人事に関する話題として「ジョブ型雇用」という言葉があった。従前の「パートナーシップ型」に対峙する言葉であり、年齢から能力、職能から職務という概念の変化を求めているが、おそらくは定着しないだろう。年功の要素を残した「日本型ジョブ型雇用」になるのは目に見えている。
◆捨てられる人々
「自分たちは、会社に配属された部署で指示されたとおりに事をやってきた。その結果、気がついたら、社内では必要のない技術者になっていた。いったいどう責任をとってくれるのか」
※一つの会社にとどまり、技術やノウハウをためても「その会社でしか使えない」技術である事が多い。なぜなら、自社独自の技術ノウハウは流出させないための囲い込みをしているからだ。会社の良いなりに名手いることを選択したのは彼ら自身である。会社が責任などは負わない。切り捨てるだけである。
◆若者を優先しない弊害
年功序列という制度は、職人を育てることのできる世界で唯一の雇用形態だ。長く働いてもらうことで、蓄積されたノウハウを学ばせ、さらにそれを継承してゆける。
年功序列制度の限界を「若者を組織から締め出すこと」だけで回避しようとすれば、企業は確実に老いる。
※バブル崩壊から2000年頃の不況時に、年功序列制度を維持するために、若者の採用をせずに、無駄に多い中高年を維持したことは、10年後の年齢構成をみればそのゆがみは明らかである。ここ数年で言われる技術伝承の停滞が発生しているのは、年功序列を維持するために若者を除外した弊害である。年功序列制度が、高賃金の高齢者層を賄うためだけに新卒採用を抑制すると言うことは、若者を育てると言うことの放棄であると非難される所以である。
◆年齢という壁が存在する転職市場
「人材紹介会社に人材スペックを出し、該当者を紹介してもらう方法で、年に20人程度中途採用しています。年齢は一番基本的な要件ですね。基本的に、年齢範囲がマッチングした人材の中から紹介してもらうようにしています。」
※リストラと称して管理職クラスを解雇したことはバブル崩壊後に盛んに行なわれたリストラ策である。「追い出し部屋」などは今でもあるだろう。リストラされた中高年の再就職のルートは無いに等しい。なぜかと云えば、ここでも「年功型賃金」が前提となる報酬体系を維持している企業が多いからだ。
◆静かなる退職の予言
「正社員として職があるだけで幸せだ」という考え方があるのも事実だ。そもそも仕事を通じて自己実現する必要なんてないし、誰もがお金と地位を目的に生きているわけではない。・・・もし従業員全員がただ現状維持を目標とするだけなら、その組織の将来は少々不味いことになる。
※「静かなる退職」は現在(2025年)に使われる言葉の一つである。勤めている人間は馬鹿ではない。さっさと会社に見切りを付けて、適度な仕事をこなしながら「スキル獲得」、「キャリア形成」を計画していると考えるべきである。なぜ「静かなる退職」が発生するのか。簡単なことである。年功型賃金にしがみついている企業に未来を見いだせないからだ。
◆年功序列制度の本質
年功序列制度の本質とは何だろう。
ちょっと言葉は悪いが、それは一言でいうなら“ネズミ講”だ。
・・・
一つ言えるのは、踏み台になる人間に対し、ウソをつくのは良くないと言うことだ。
「大丈夫、今はきついけど、将来は楽になるから」とだましてこき使い、人生の折り返し地点を過ぎた当たりで「ああ、自分はだまされのか」と思い知らせるようなシステムは、1度ぶち壊してしまった方がマシであろう。
※過激な発言ではあるが、偽らない言葉であろう。「3年は我慢しろ」という言葉も、「3年待てばいろいろな事が見えるようになって旨く行く」という根も葉もない信心のようなものである。「年功賃金」自体を否定はしない。しかし。若者を踏み台にすることを隠したままで働かせてはならない。「3000円の価値の仕事を若者に押しつけ、1000の価値しかない中高年に3000円を払っているという事実を知らしめるべきである。
■ 3年で辞めた若者はどこへ行ったのか
この本は、前書の最後の下記を受けての本になる。
◆リバイアサンと昭和的価値観
個人が安定を手に入れるために、皆で力を合わせて作ったシステム(国家)がリバイアサンである。実は全く同じものが、この日本にも存在している。
それは、自分に適した人材を育成するための教育システムを作り上げてきた。小学校から始まるレールの中で、試験によってのみ選抜されるうち、人はレールの上を走ることだけをすり込まれ、いつしか自分の足で歩くことを忘れ果てる。最後は果物のように選別され、ランク毎に企業という列車に乗り込み、後は定年まで走り続ける。
この書籍も前書と同じように「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」に応える本ではない。この本では、年功型賃金に疑問を持った人々のインタビュー通して「年功型賃金」にしがみつく「昭和的価値観」への非難をまとめた本と言えるだろう。
◆はじめに
若い世代に対し、昭和の価値観に従わず生きる人たちの仕事や人生観を紹介することで、若者が平成的価値観を育む手助けをしたい。
※すでに時代は令和になっている。しかし、相変わらず「昭和的価値観」で運用されている会社も多い。簡単には社会は変らないのかとも思う。
◆ 昭和的価値観5「就職先は会社の名前で決めること」
できるだけ安定した企業に新卒で就職し、定年まで勤め上げること。これこそ昭和的価値観の王道だった。そして大学という存在は、専門知識を学ぶ場と言うよりも、このシステムをより確実に進むためのパスポートを発行する機関だった。
※これは非常によく分かる。私は国立大学を運用入学したが、就職先はIT企業であった。当時は「情報処理会社」などは2級クラスであり、建築土木を専攻していた私に両親はゼネコンへの入社を希望していた。そうならないと分かったときに「なんでそんな会社を選んだの?」と親に泣かれたことを覚えている。50年前はそんな時代だったのだ。
◆ 昭和的価値観「女性は家庭に入ること」
「なぜ女性の採用数はこんなに少ないの?」
「ずっと働き続けてる人や、たくさん残業する人の方が出世するのは当然だよ」
・・・
年功序列制度には、(就職氷河期なども含めた)フリーターを使い捨て、中高年求職者を門算払いにしながら、今日まで生き延びてきたという負の側面がある。だがm抑圧されてきた最大の間乗りティは女性だろう。事実、大企業の葬儀う蝕採用者に奥得る女性比率は12%にすぎない。
※おそらくは、こうした価値観は私もまだ持っているのだと思う。なるべき修正しようとしている。とはいえ、女性が働きやすい環境を作ろうとしている企業は皆無であろう。自分たちの仕事のやり方を変えることなく、それにマッチングさせることを女性に強要する。今の仕組みに疑問を持たないというのは、おそらくは古代からであろう。
◆ 昭和的価値観「新卒以外は採らないこと」
知り合いの人事担当者に、就職氷河期時代のフリーターから採用するよう進めたときの話だ。「え?そんなのとれるわけないじゃない」
・・・
考えてみれば
従来の新卒→企業という流れは、一種のシステム化されたパイプラインのようなものだ。よどみなく流れているうちは、企業は均質な人材を安定確保し、誰もが定年まで安定した生活を送ることができる。
だが、このシステムには致命的欠陥がある。需要と供給の調整が不可能な点だ。平成不況において、少ない需要は就職氷河期を生み、大量の非正規雇用を生み出した。一方で現在の旺盛な需要をまかなえるだけの供給はなく、壮絶な売り手市場を生み出している。
道は一つしかない。年齢方能力に、職能給から職務給への転換だ。
※今の仕組みに疑問を持たないから、先人が推し進めてきた「新卒一括採用」から頭が離れない。それはそうだろう、採用された自分がそうなのだから。
◆ 昭和的価値観「最近の若者は元気がないということ」
(外国人の採用に関しての記述から引用)
「私は経営にタッチしたい。いつになったらそういうポジションにつくことができますか」
「年俸10万ドルはいただきたい。どうすれば到達できますか」
優秀な外国人留学生は、決まってこういう質問を投げかける。そして、日本企業の採用担当者は頭を抱えることになる。人事部はもちろん、経営陣でさえ明確なルールは分からないのだから。
・・・
「最近の若者は元気がない」
「その程度の学生にしか相手にされない」
※内定どころか、採用してもすぐに退職をする。社会人にも「5月病」があると言うことであたかも若者の弱さを取り上げている記事が多いが、とんでもない。かつては、学歴と適性試験ぐらいで採用していたものが、ジョブ型雇用という名目もあるのだろう、学生に「ビジョン」を聴くことになる。しかし、そのビジョンを実現するためのルートを会社は提示できない。そんな会社での自分の行く末など、ビジョンを言語化できる能力があれば、すぐに想像がつく。「最近の若者は元気がない」ではない。「元気な若者はあんたの会社を見限っているだけだ」に気がつくべきであろう。
■ あとがき
私は、時代小説などが好きだ、明治以前の時代を部隊にして描く藤沢周平、平岩弓枝、近代を扱ったものでは司馬遼太郎さんの本も好きだ。
手元に、未公開の講演録がある。
◆時代を超えた龍馬の魅力 1985年8月8日 高知県立 県民文化ホール
会社勤めをしていますと、だいたい課長さんは部長さんより若く、係長さんのほうは課長さんより若いですね。皆さん、年齢の秩序の中に入って暮らしています。
ところが、小説を書いていると、そういう秩序の世界は忘れてしまうものですね。
こうした当たり前と思われる文化は、祖父母がおり、父母がおり、しして自分がいるという環境の中で、お互いがお互いを尊重する/頼ると言うことで成り立っていた社会が前提だ。それが壊れれば、年齢など関係ない。大志をいだき何かに挑戦するのであれば年齢という枠組みは意味は無い。
すでに、核家族化で両親にしか接しておらず、会社にしても上司の無能差を感じ、会社が意味のない、年功序列にしがみついているなら、そこに居場所はないと感じるのは自然なことだろう。
この書籍で書かれていることがすべて正しいというわけでもなく、また「年功型」という社会の価値観もなくなっていない。それでも、もう一度振り返って見るのは悪くない。
発行からだいぶ立つがもう一度手に取ってみる価値はある。
「窮すれば通ず」という言葉がある。
今の枠組みが壊れ始めていることを期待する。
○ 売り手市場なのに大卒求人倍率低下 中小企業、求人意欲減のわけ
2025.5.29
この記事の3つのポイント
1.26年卒の大卒求人倍率は1.66倍と0.09ポイント低下
2.中小企業の求人意欲減が原因。背景に採用難・負担増
3.第二新卒や既卒に軸足を移すなど採用方針の変更も必要
https://business.nikkei.com/atcl/plus/00056/052100025/
閑話休題
2025/06/12