■ はじめに
2024年問題は突然現われたわけではなく、かねてから続いている少子高齢化(労働力人口の減少)の延長線(上にある。人手不足は、賃金上昇でしか人員の確保ができない政策の偏重をもたらし、その体力にない中小企業を苦しめることだろう。
○ 中小企業の賃上げ、4% 大企業との格差広がる 日本商工会議所調査
2025年6月4日
前年調査(3.62%)を0.41ポイント上回ったものの、経団連が5月発表した大企業の今春闘の賃上げ率(5.38%)とは開きがあり、企業規模による賃上げの格差が埋まっていない状況が明らかになった。
回答企業からは「販売価格にコストを転嫁できず、賃上げは利益を圧迫する」(九州の小売業)、「安心して賃上げができる環境整備を期待したい。社会保険料の負担軽減を求めたい」(四国の卸売業)などの声が寄せられたという。
https://www.asahi.com/articles/AST643JSRT64ULFA003M.html
一方で、業績の変動を恐れる大企業は、業績の善し悪しにかかわらずリストラを繰り返している。否が応でも、人材の流動化は進まざるを得ない。
しかしこれは「異常」なことなのだろうか。
■ 会社員という存在
そもそも会社員とはどのような存在なのだろうか。
私の父母は。いずれもいわゆる職人であり組織には所属していなかった。もちろん、何らかの形で社会に接点を持つが、そこに所属するわけではない。昭和30年代はそれが普通だった。
昭和25件からのいわゆる会社という組織の数、労働力人口をを調べるとおおよそ下記の数字が上がる。(ChatGPTなどで調べた。)いずれも概数。
年度(昭和西暦) 株式会社数(概数) 労働力人口(万人)
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昭和25年(1950年) 50,000社 3,100万人
昭和30年(1955年) 80,000社 3,600万人
昭和35年(1960年) 120,000社 4,369万人
昭和40年(1965年) 180,000社 4,500万人
昭和45年(1970年) 250,000社 5,000万人
昭和50年(1975年) 350,000社 5,500万人
昭和55年(1980年) 450,000社 6,556万人
昭和60年(1985年) 600,000社 5,800〜6,000万人
昭和65年(1990年) 750,000社 5,800〜6,000万人
これらの数字をみると不思議な気がする。昭和30年代には、今のように労働力を企業内に取り込める余裕はなく、いわゆる個人事業主(一人親方や職人など)が相当数いた気がする。彼らを吸収する形で、企業の拡大が続いたとしたら、もともとの個人でも活躍できた人が企業内に吸収されたと言うことなのか。それともそうした職種は必要なくなったと言うことなのか。
おそらくはこれは部分的にはYesだろうが、そもそもの産業構造の変化が考えられる。すなわち、「個人でも活躍できた人々」が企業に吸収されたという側面と、産業構造の変化により「旧来的な職種が不要になっていった」側面の“両方”がある。
① 個人で活躍できた人が企業に吸収
特に都市に出た若者や技術者が企業で活躍するようになった。
② 個人職種が必要なくなった
機械化・大量生産・流通の変化によって、旧来的な仕事の需要が減少。
しかし、これは一方で、個人の専門性や独立性を奪うことになる。
①「企業内汎用社員」は特定の専門スキルよりも協調性・報連相・社内ルールの理解・業務調整力といった暗黙知に強く依存。
②一方、職人や自営業者は顧客開拓・品質担保・価格交渉・継続性の確保など、専門技術と事業運営能力のハイブリッドが必要。
③企業内に長くいると、市場との直接接点が失われるため、「自立」への必要能力が未経験のままになる。
高度成長期の工業化の推進、大量生産・大量消費の時代的な背景の中では必然の動きであっただろう。
しかし一方で、「専門技術者 → 企業内汎用社員」へのシフトは、制度的・文化的に不可逆的な側面が強く、再び自立した“職人”として戻るのは非常に困難になっている。
いったん会社員になると、それ以外の選択肢が難しくなるのが現実である。
しかし、近年、このこと自体が問題視されている。
それは、従前の会社と会社員という関係性が維持できなくなっていることだ。
二次産業から三次産業(サービス業)へのシフトで、単純労働から知的労働へのシフト、及び自動化・ロボット化による単純労働の価値低下などがあり、働く人の需要と供給のバランスがゆがんだ。これにより、正規社員の非正規化、中高年の早期のリストラなどを生み出している。すでに企業は十分な社員を抱えており、優秀な人材は必要であろうが、一般の社員は、これ以上は不要だと認識している節はある。
■自らのキャリア形成の必要性
したがって、「専門技術者 → 企業内汎用社員」と言うシフトの逆方向の「企業内汎用社員 → 専門技術者」をみずから手に入れなければ、言い方は悪いが社会からのドロップアウトが余儀なくさせられる。
政府・企業もこうした事の対策はあり、能力開発や経済支援を行なっている。
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▶ 政府の取り組み(能力開発・経済支援)
支援施策:リスキリング支援事業(経産省)
内容:失業者・転職希望者を対象に、IT・介護・建設などの成長分野の職業訓練を提供
評価:若年層中心、中高年の定着率は低め
支援施策:雇用保険による教育訓練給付金
内容:対象講座を受講すると受講料の最大70%支給(条件付き)
評価:中高年利用も増加傾向。ただし、対象講座が限定的
支援施策:求職者支援制度(厚労省)
内容:雇用保険に入っていない人に、訓練+月額10万円の生活支援金
評価:フリーランス等も対象だが、条件が厳しく利用が限定的
支援施策:人への投資支援パッケージ(岸田政権)
内容:労働移動支援とセットでリスキリング強化を表明(2022年)
評価:戦略はあるが、現場実行の遅れが指摘される(具体性がない)
▶ 企業側の取り組み(セカンドキャリア支援)
支援施策:再就職支援サービス(アウトプレースメント)
内容:リクルート、パソナなどが提供。面談、職務経歴書作成、求人紹介など
傾向:実施企業は増加傾向だが、「形だけ」の例も
支援施策:社内公募・社外留職制度
内容:トヨタ・富士通などが、社内外での新たなキャリア開発機会を提供
傾向:先進的企業に限定、中堅中小では困難
支援施策:企業内リスキル型研修
内容:NEC、日立などが、社内デジタル人材へのリスキル投資を実施
傾向:50代以降は対象から除外されやすい傾向
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しかし、こうした政府の「自己責任的モデル」と企業の「建前的支援」の狭間で、多くの中高年は「路頭に迷わないが、自立も難しい」状態に置かれていると思われる。
結局のところ、「キャリア」という言葉には、誰かが与えてくれる何かというニュアンスが含まれてしまう恐れがある。各人が自ら、その方向性を考える必要がある。それは、誰かに雇われると言うことではなく、自らビジネスを立ち上げるという覚悟である。
そのために必要なことは
① 価値提供の設計力(何を誰にどう提供するか)
「自分が提供できる価値は何か?」
「誰がその価値を必要としているのか?」
「どのような形(商品/サービス)で提供するのが現実的か?」
② 小規模経営知識(ミニマル経営)
会計・税務・資金繰りの基礎
顧客管理、価格設定、SNSなどの集客基礎
業務委託や協業契約に関する法知識
③ 自己管理と自己ブランディング
自分を信じる「レジリエンス」
自分を売り込む言語化能力(プロフィール、営業資料など)
情報発信や信用構築(例:note、X、YouTube)
などであろうか。こうした事に答えはないが自ら拓くしかない。
■ フリーランスへの支援
とはいえ、「自助論」だけを前面に出すことは正しくない。セーフティネットも必要である。
好むと好まざるに係わらず、フリーランスという働き方をしている人々に対するセーフティネットは整備されなければならない。さもないと、安定した安定したアウトソースの確保ができなくなるからだ。こうした点を無視して、搾取する対象としてしかフリーランをみていない人々に対する牽制球は必要である。いわゆる「フリーランス新法」は、万能ではないが、「契約の正常化」という意味合いでは評価して良いだろう。
○全国462万人のフリーランスに安心を!11月から始まる新法で働きやすい環境へ
2024年9月5日
自分のペースで自由に働けるフリーランスが増加する中、取引トラブルが深刻な問題となっています。11月に施行される「フリーランス・事業者間取引適正化等法」は、そんなフリーランスの不安を解消するための重要な法律です。この新法が、具体的にどのようにフリーランスの働き方を守り、取引の適正化を進めていくのか、詳しく解説します。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/nbc/1408681?display=1
こうした法律の整備に伴い、実際、フリーランスが置かれている状況は〃なのだろうかという調査は行なわれている。
○フリーランスの大規模アンケート実施へ 新法施行に伴い、公取委など
2024/9/11
フリーランス(個人事業主)の保護を目的とするフリーランス新法の11月施行に伴い、公正取引委員会などは、企業とのトラブルや人権侵害などの実態把握に向けた大規模調査を実施する方針を固めた。施行後の2024年度中に、フリーランスとして働く個人や業界団体に対し、万単位の書面アンケートを配布する。
https://mainichi.jp/articles/20240911/k00/00m/020/285000c
残念ながら、2024年度中(2025年3月末)に調査は終わっているものの報告書は出ていない。とはいえ、このような調査は令和3年から行なわれており、彼らフリーランスが置かれた状況をモニタリングするには有益であろう。
参考のために、令和5年度の調査結果も見ておこう。
○ フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査 / 令和5年度フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450713&tstat=000001210820&cycle=0&stat_infid=000040111220&tclass1val=0
では
ア)フリーランスが従事する業務の類型
イ)フリーランスが従事する業務の契約期間(具体的な期間)
ウ)フリーランスが受けた納得できない行為(経験の有無)
エ)フリーランスにとって取引が継続される期間の傾向(具体的な期間)
オ)取引先からの発注の際に記載する事項として、業務遂行上望ましい事項(具体的な事項)
カ)取引先からの発注の際に記載する事項として、発注控えにつながる事項(具体的な事項)
キ)取引先から支払われる報酬の形態(具体的な形態)
ク)フリーランスが業務の募集情報を閲覧する際、応募先の選定に当たって考慮する事項と実際に応募した際に募集情報と異なる内容が示された事項(具体的な事項)
ケ)フリーランスが契約を途中で解除された理由(具体的な理由)
コ)フリーランスが育児介護等の事由が生じた際に発注者に求める配慮の内容と配慮の申出をしづらい事由(具体的な配慮の内容、配慮の申出をしづらい具体的な事由)*
サ)フリーランスが受けたハラスメント行為の行為主体と行為内容(行為主体と具体的な行為内容)
について調査がおこなわれている。
年齢区分では、30歳以上が年齢に関わりなくまんべんに分布していること。男性が65.7%と2/3を占めていること。具体的な仕事が、思いのほか多岐にわたっていること。ソフトウエアのバグチェックなんてのもあるのは驚くし、「製造・組み立て・生産工程」という回答もある。突出して多いものはない。
途中での解除なども30%程度ある。また、下記の様なハラスメントを受けているのは1割ぐらいあり、やはり目を光らせておく必要性を感じる。
・セクハラ(取引先の従業員等からの性的な言動に対するあなたの反応を理由として仕事上で不利益を受けるなどしたもの)
・セクハラ(取引先の従業員等の性的な言動によって就業環境が不快なものとなり、あなたの業務の遂行に悪影響が生じるなどしたもの
・パワハラ(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、個の侵害)
・マタハラ(妊娠・出産に関する言動によってあなたの就業環境が害されるもの)
・その他の嫌がらせ行為があった
こうした、会社という組織と彼らフリーランスの正しい関係性を維持するための社会システムの整備は前提になる。
■フリーランスの向かう先
組織から離れた人々、あるいは最初から組織に所属することではない道を選択した人々の向かう先は、専門性の高度化しかない。
しかし、現実には、単純労働の作業員として扱われ、不要となればすぐに捨てられてしまうと言う印象が強い。
○「ボロ雑巾でも捨てるかのよう」合理的根拠ない事業所閉鎖により“解雇”通知 非正規労働者らが「抗議のストライキ」決行
2025年05月29日
5月29日、東京新宿区の(株)スリーエスコーポレーション東京支社前に、同社の非正規雇用労働者の労働組合(日本労働評議会スリーエス分会)員約30人が集結。同社が宇都宮営業所を合理的理由なく閉鎖し、非正規雇用労働者を不当に解雇したとして、ストライキで抗議行動を実施した。
「今回の会社の対応は労働者を、とりわけ非正規雇用をまるでボロ雑巾でも捨てるかのように会社の都合だけで簡単に捨て去るものであり、企業として労働者の雇用を守るという重要な社会的責任を放棄した、きわめて自分勝手な暴挙であると認識しています。」
https://www.ben54.jp/news/2314
片方の言い分だけで判断はできない。しかし、会社側が。自己都合で働く人の都合を軽視していることは確かなように見える。力関係のアンバランスは正しい関係性を作ることはできない。
フリーランスの人がすべきことは、能力の「汎用化」(すなわち応用力の高いカテゴリー定義)と「多能工化」(様々な職種への対応)である。そのためには、ワーク・ラーニング・バランスを意識した働き方をしなければならない。
・スキルの半減期(およそ5年)と言われる現代では、現状維持=緩やかな後退
・AIや自動化による仕事の再定義の波の中、学びを怠ることは将来の失職に直結。
・ワークライフバランスだけでは不十分で、学びの意図的な設計と時間配分が必要。
こうした事も念頭に置き、自分自身を変えてゆかなければならない。
■ 中小企業の「パートナー戦略」
中小企業が、人材確保の為にリクルーティングしても応募が来ないと言うことはここ何年も聴いている。その前提は、会社に所属する社員がいることが当たり前という発想にあるからだ。発想を変えるべきである。
自社の「製品・サービス」を提供するプロセスを細かく、それこそ作業単位・時間単位で分割して分析をすることだ。その中で、外部に頼むことが可能な仕事を細分化して発注するシステムを作り上げることだ。
すでに一部の業種では。フリーランスとのマッチングを支援するサービスも確立されている。(参照:クラウドソーシング)
単純労働ならば、隙間バイトなどという考え方もある。顧客対応も時間帯別に体制のシフトをしても良いだろう。
今までと同じ発想で戦略を考えるべきではない。
なければ作れば良い。
今の仕組みのママでなんとかなると思っている中小企業に明日はない。
2025/06/14