戦略人事:機能しないジョブ型雇用の裏側(AI時代の戦略人事)
■経営者の責務
私は「経営者への呪い」という言葉を使うことがある。経営活動は経営資源の再生産と極大化であり、そのための業績を上げることは義務である。そして、その業績に対するすべての責任は社長であり、他の誰も肩代わりできない。従って、その責任を他者に押しつけることは卑怯であり、社員に業績ノルマを課すべきではないと思っている。経営者がすべきことは「環境を整えること」である。
と言うのが私の信念である。
また、経営資源は「ヒト・モノ・カネ」が基本だとしたら、最も重視すべきは「ヒト」に着目した最適化政策であろう。しかし、その中には、経営活動を調整するための調整弁にするような行動は行なうべきではない。これも私が信じている信念である。
きれい事かもしれないが、これができない経営者は失格であり退場すべきであると思っている。
■リストラの矛盾
昨年来から、早期退職というリストラが行なわれている。その対象は40歳代以上の中高年を狙い撃ちしている。しかし、これはおかしな政策だ。
私は
①すでにロボティクス、AIが進んでおり、若いからと言うことでのアドバンテージは今後無くなってゆく
②スキルや専門知識の賞味期限は短くなっている。
③従って、その人の持つ経験や知見が組織能力の行く末を左右する
と考えている。この論で言えば、むやみに中高年のリストラをすることは逆効果ではないのかと思う。
○スマートグラスでミス減らす コマツ金沢工場、仕分け効率化 部品保管場所を表示
2025/06/21
建機大手コマツは20日までに、金沢市の金沢工場で眼鏡型端末「スマートグラス」を使った部品仕分け作業の効率化に着手した。油圧ショベルやプレス機の組み立てに必要なボルトなどの保管場所が作業員の視界に表示される仕組みで、異なる部品を取り出すミス「ゼロ」を目指す。
https://nordot.app/1308885063924678804
こうした技術革新が常態化すれば、特別な技術者は出番が少なくなり、年齢によるハンディキャップはなくなる。必要なのは、変化を感じる感性、リスクに対応できる経験と知識であろう。
(経験の浅い)若者を残して(経験者である)中高年のリストラを推し進める理由が分からない。
■なんちゃって「ジョブ型雇用」
AIが驚異的な速度で普及する中では、業態を変えざるを得ない。
例えば、ローソンのサイト(https://www.lawson.co.jp/company/fc/innovation/)をみると「従業員の業務負荷軽減とお客様の便利の追求」として様々な取り組みをしていることが分かる。バックヤードで品出しをする、揚げ物を作る、レジを担当するなどはいずれ人が行なうことはなくなるだろう。
そうした環境では、お客様の困り事を見いだす人材、それを実現化する発想力が必要になる。それは、年齢に依拠することではない。
年齢ではなく能力を、職能はなく職務を、これらを重視するコンセプトとしてジョブ型雇用があったはずなのだが、多くの企業では、相変わらず「大卒一括採用」を中心とした採用ポリシーから脱していない。
なぜジョブ型雇用が浸透せずに中高年のリストラが行なわれるのか。
以下のような要因が考えられる。
● 年功的賃金体系
高年齢層=高コスト。仕事の中身に比して給与が割高になりやすい。
● 肩書き不足
昇進しきった社員が“役職に就かないまま高給”で留まる(いわゆる「ぶら下がり層」)。
● スキルのズレ
デジタル化や新事業へのシフトで、「今後必要な人材像」と合致しないケースも。
● 新陳代謝と組織再編
特定部門ごと削減・縮小する際、中高年が偏在していれば自動的にターゲットに。
おそらくは「(中高年に手厚い)年功型賃金」と「(能力とは関係のない)ポスト市場主義」をいう人事施策を変えられない企業経営者の怠慢がそこに見え隠れする。
ジョブ型の「導入目的」が本質とズレているコトも問題であろう。
本来は:人材の最適配置・職務ベース評価の実現が目的。
実際は:年功賃金圧縮とリストラ合理化の手段として使われがち。
となっていないかを問い直して欲しい。
その上で、まずは下記を行なうことを薦める。
●職務記述書の整備と明文化
「誰が・何を・どのように」の明確化が前提
●年功・ジョブ型のハイブリッド制度の暫定活用
制度断絶ではなく、移行モデルを段階的に
●中高年の役割再設計(リスキル+職務明示)
年齢でなく価値を再定義する機会を設ける
戦略人事に足を踏み出して欲しい。
■ 考える組織
経験と知識・技術を保有する人材の軽視は、業績だけを上げれば良いという組織文化を醸成しやすい。
○「人員は足りないぐらいで」遠い家族主義 黒字でも人員削減するパナソニックのリアリズム
2025/6/22
パナソニックホールディングス(HD)が黒字ながら1万人規模の人員削減を表明した。楠見雄規社長は労働生産性を徹底して上げることを社内の常識にする考えを示し「人員は少し足りないくらいがちょうどいい」と述べ、波紋も広がる。労働生産性を巡っては創業者、松下幸之助も頭を悩ませ、向上を目指し日本の大手企業で初めて週休2日制を導入した。「物をつくる前に人をつくる会社」を掲げた「経営の神様」と似て非なる手法の勝算は…。
https://www.sankei.com/article/20250622-P74PVRFUKZPCRC3IONM6CBBVYI/
しかし、すでに述べているように、組織は「オペレーション能力」だけでは成り立たなくなっており、「考える」要員の質と量で差別化される気がしている。
その中で思い出すのが「3Mの15%ルール」である。経営に関する書籍などを見れば必ず題材として取り上げられると思うのだが実践している企業は皆無である。(多分)
・短期業績重視
四半期・株主価値に縛られる企業では、長期創造投資は後回し
・制度と文化整合の欠如
「自由時間」が結果評価や報酬に結びつかないと実行されない
・文化的忌避感
余白を“怠け”とみなす風土が根強く、制度に対する抵抗感が高い
もし、組織に考える風土を根付かせ、イノベーションを競争力の源泉としたいというならば、経営者はこうした思考に囚われていないかを検証すべきである。
働く時間だけを評価し、考える時間を評価しない経営者に未来はない。
■ 無能な経営者への警鐘
経営者の責務は
・業績責任を現場に押しつけてはならない
・経営者は社員が働ける環境を整備することが仕事である
としてすでに述べた。
「稼いでこい」といって稼いでこれるなら「アイツ(社長)なんて要らない」
社員に「根性論」を押しつけるのは時代遅れである事を自覚すべきである。
○【ひどすぎる】入社3ヵ月で50%の新入社員が辞めた! 社長が命じた時代遅れな作業とは?
2025年6月10日
この不動産会社では、入社直後から3ヵ月間、毎日100軒のポスティングを新人に課していた。
社長曰く「ここで反響があったお客様にアプローチして、1年分の商談を確保する」というのが狙いだった。しかし、辞めた10人の新入社員からは、口々にこんな声が上がった。
「こんなことはアルバイトでもできる」
「なぜ大学を卒業して入社したのに、ポスティングをやらなければならないのか」
「これでは成長できない」彼らの不満はもっともだった。
入社3ヵ月という貴重な時期に、専門性を身につけるどころか、誰にでもできる単純作業に時間を費やす。これは新入社員の成長意欲を著しく削ぐことにつながった。
https://diamond.jp/articles/-/364761
真面目に考えてくれ。
2025/06/24