戦略人事:AI・ロボティクスとリストラ(5.戦略としての経営資源の再定義)


戦略人事:AI・ロボティクスとリストラ(5.戦略としての経営資源の再定義)

※少し断片的な記事になるので思いついたまま記載。同じテーマで少し長い連作になる。

■ 戦略人事を取り巻く状況

(1)「質」の変化

デジタル技術の活用が組織の未来を左右することは多くの事例を見れば必然であろう。そうした中で、経営環境・地政学的リスクの変動・技術の高度化の速度などは、従来の3年策を見据えてというレベルでの経営戦略を無効化してしまう勢いである。

経営資源の、設備などはたちどころに陳腐化してしまい、それを保有することすら危険である。財務的な分配も、長期視点での分配は柔軟性の欠落を招き、小さく産み大きく育てると言った、常に配分の意思決定を変えて行かなくてはならなくなった。

いまや、量としての経営資源(ヒト・モノ・カネ)だけでの経営資源の獲得だけでは十分ではない。

(2)「量」の変化

一方で、量の多寡が趨勢を決めてしまうものもある。物流などは、同じ時間内で取り扱いできる量が競争力を決定する。依然、パワー(量)が重要な決め手になる。もっとも、「単に言われたことをする」仕事はAIとロボティクスになる以上、一定の「質」を担保した上での量の確保であろう。

■経営資源の再定義

そうした意味では、単に「ヒト・モノ・カネ」というくくりではなく、競争力を高めるための資源とは何かを再定義する必要がある。

① ヒト
単に「働くヒト」ではなく「共創する知性と感性」を保有する人として考える。すなわち「人数」や「労働時間」ではなく、創造性・協働性・内発性が資源として捉え、「考える力」「感じる力」「つながる力」を持つ人間を活かせるかが鍵となる。
組織外の知識も含めて活用する「オープン・ヒューマン・ネットワーク」も含まれる

② 情報
データや知識は過剰なほどある。本当に必要なのは、意味づけ・洞察・編集能力
「見えないものを見抜く力」としての情報活用力が競争力を生む。
「意味のある知」として組織に蓄えることができるかが鍵となる。

③ 時間
すべてに平等で配分されるのが時間である。しかし、その時間に「選択と集中のための余白」を生み出せるかどうかが競争力に差を生み出す。
成長ではなく変化への適応が求められる時代においては時間は最大の希少資源となる。
時間をどう使うかが「未来をつくる投資」になる。組織内の時間感覚(スピード、待てる力、持続する力)も重要であろう。

④ つながり
企業戦略にエコシステムを組み込むことが必須になる時代が来ると予想される。その中で、多くの登場人物のいける「信用・関係性・共鳴」をどう作るかが課題となる。
モノやカネよりも、誰とどのように信頼関係を築けているか、顧客との信頼、パートナーとの共創関係、社会との共感など、目に見えないが強力な資産を築けるか賀重要となる。
SNSやオンラインでの「共感力」も含まれるが、それだけではない。

⑤ 技術・仕組み(Platform / Process)
技術革新は企業が考えているより急速に変化する。
したがって「柔軟で再構成可能なインフラ」を整備することに重点が置かれる。
例えば
・所有よりアクセス、固定より流動へ
・サービス・サプライチェーン・自動化・AIなどの「仕組み力」は、新たな土台
・特定技術より、組み合わせ可能性(コンビナトリアル・イノベーション)
が鍵となる。経営資源としての「ヒト」や「モノ」はその関係性を見直す必要がある。

⑥ 理念・目的
そうした人々やパートナーをつなぎ止めて行く中核は「我々は何のために存在するか」といった企業理念の実践である。それは言葉だけではなく行動にも反映させなければならない。利益や成長は結果であり、「目的」が人と組織を動かす資源になる、パーパスは、組織の文化・意思決定・顧客との関係にまで波及する。特に若年層やグローバル市場では「目的の共有」が最重要の動機づけになるはずである。

これらは
・固定資産よりも可変性が重視される
・リソースの「質」×「関係性」×「時間軸」で価値が決まる
・ヒトと非ヒト(AI・ロボット)の協働を前提としたフレームが必要
・競争より共創、差異より意味を問う時代になった

と言う認識を、組織全体で共有することが必要になる事を示す。

■赤の女王仮説

「その場にとどまるためには全力で走り続けなければならない」とは、進化論を語る中で引用される赤の女王仮説である。

「昨日と同じ事を今日していては明日を迎えることはできない」という戒めにもにた言葉である。しかし、こうした予測できない事態が突然襲いかかる経営環境の不安定さは、柔軟で素早い意思決定が求められる。

そうした中でリストラが選択肢の一つになることは否定できないが、安易なパワーの放出は組織体力をそぎかねない。また、AIやロボティクスを素早く組織の中に取り込む人財確保も必須である。

戦略人事をお題目でなく実践できる企業だけが生き残れる。

2025/07/23