書棚をあさっていたら、しばらく前に手に入れた「科学的管理法」を見つけた。しっかり読んでいなかったと思い、読み返した。
○ マネジメントを管理と訳すべきではない
一般的に、テイラーの「科学的管理法」というと、土砂の性質に応じて最適な運搬作業量を算出して、シャベルの大きさを変えるといった、エキセントリックな話題が中心に紹介されている。
なるほど、確かにこのことが「科学的」という言葉に対応しているようであり、特定の作業のInputとOutputをコントロールすることから「管理」と訳してしまっているのかもしれない。
しかし、本書を通しで読むと、マネジメントに関する一般論が記載されていることがわかる。
本書の中で、マネジメントとの目的として
1.働き手を豊かにする
2.雇用主を反映させる
結果として、製品・サービスの値段が下がるので、利益享受の対象として消費者もいるとしている。
そのために、マネジメントの方法を、従来の「働き手が最大限の自主性を発揮して仕事に取組み、雇用主がその見返り特別なインセンティブを与える仕組み」から「課業管理を科学的に行う」ことを目指すとしている。
あくまでも科学的に課業を分析して作業の効率化を目指すのは手段にしか過ぎない。したがって、表題の「Scientific Management」は、「仕事を科学的に分析し最適な環境を構築することによって、経営管理を行うための考え方」とでもいうべき事柄を集約した言葉であり、単純に「科学的管理法」と訳すべきではない。
本書は奇抜で特別なことが記載されているわけではない。
それは、「科学的管理法は必ずしも、偉大な発明や道の驚くべき事実の発見を伴うわけではない(P162)」とあるように、現在では当たり前になっているIE的なアプローチを示しているに過ぎない。
それでも、本書が公開された時代背景を考えると画期的であったことは理解できる。結局は、革新というのは今を疑問に思って何かを変えてゆく活動の連続なのだろう。
○ システムとしての「科学的管理法」
P134に以下の記載がある。
有益な成果の数々は主に次のような点をよりどころにしていることがわかるだろう。
①働き手それぞれの判断に代えて科学を取り入れる。
②働き手が成り行きで仕事を選んで覚えようとするのではなく、会社の側で一人ひとりの人材を吟味、指導、育成した上で、つまり、ある意味で実験の対象とした上で科学的な視点から人選と能力開発を行う。
③各働き手に問題の解決を委ねるのではなく、マネージャー層が部下と密接に協力しながら、科学的な法則に沿って仕事を進める。
近年、マネジメントをシステムとして捉え、確実な成果を出すための仕組みを支えるモノというのは、概ねどの本でも同じ事が記載されている。
情報系での規範としてはCMMIがあるが、その中でプロセスを支えるモノは「知識・技術・ヒューマン」と捉えている。
最終的に生産活動に携わるモノが人である以上、人の性能ができばえを左右する。しかし前提として、それを実現できる技術が必要であり、その技術を適切にコントロールできる知識が必要になるという考え方だろう。
同じように、マネジメントシステムの要素として、「組織・機能」と「標準化された手順」、「仕事をする士気」がなければうまくゆかないと云われている。
○ 古典ではない
こうして改めて読み直してみると、今では存在しないような肉体労働を取り上げているが、マネジメントやIE等の原則を喝破しており、いまでも有効な考え方になる。
丁寧にデータを積み上げてゆくその姿勢は、KPIの開発姿勢にもつながる。
いまなお新鮮な気持ちで読める良書だと思う。
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