世間に転がる意味不明:資産価値とは何か(ビッグモーターと伊藤忠商事)


■企業の価値

企業の価値をどう見たら良いのだろうか。
単に貨幣交換可能なものとしてみれば、財務的な金融資産、設備、不動産などのようなものがあるだろう。無形資産としては知財とブランドがある。ブランドはその会社の名前があるからこそのものであれば、信用なども含まれるだろう。

プロセスに強みがあるのであれば、企業文化や人材などもそこに含まれるかもしれない。
規模の経済を狙うのであれば、同業他社のM&Aもあり得る。

どの視点で見るかにより判断は異なる。
ビッグモーターという会社の価値は何だろう。

■なにげなニュース

○伊藤忠、ビッグモーター支援検討 創業家関与せず、独占交渉で合意
2023/11/17

 伊藤忠商事は17日、同社など3社が経営再建中の中古車販売大手ビッグモーター(BM、東京)への支援を検討すると発表した。BMも同日、3社に支援に向けた独占交渉権を与えることで基本合意したと発表した。3社はBMの創業家が経営に関与しないことを条件に交渉を進めるほか、BMの経営状況を分析して支援するかどうかを来春までに最終決定する。

https://nordot.app/1098106232153932763

この記事の中で
①BMの資産査定を行い、再生可能な事業だけを会社分割し、出資したい考え
②伊藤忠はニッポンレンタカーサービスを傘下に持つ東京センチュリーの筆頭株主で、高級輸入車販売のヤナセ(東京)も連結子会社に抱える。BMの事業を取り込むことで、相乗効果が見込めると判断した

とあり、自動車販売事業の一環としてBMに出資する方向のようだ。
そもそも、資産ということではなく「ビッグモーター」という企業価値は存在するのか。

○ビッグモーター再建、課題山積 伊藤忠支援、創業家の動向焦点
2023年11月18日

企業価値は損なわれ始めている。BMに対し、国土交通省は10月、一部整備工場の民間車検場としての指定を取り消した。金融庁も今月30日に保険代理店登録を取り消す方針を固めている。業務の範囲は狭まっており、企業価値の算定は難航しそうだ。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023111701181&g=eco

よく分からない

■資産価値

ビッグモーターの株主は旧経営陣が支配するビッグアセットにあるはずである。ビッグモーター単体で経営を語ることはできず、お金市場主義の兼重宏行元社長がこれ幸いと高値で行ってくるだろうことは想像に難くない。

現在のビッグモーターが放置すれば事業が立ちゆかなくなることは明らかである以上、資産評価は対象が限られてくる。

(事業継続性と資産)
すでに、自動車整備事業や保健代理業務は停止している。

○ビッグモーターの損害保険代理店登録、11月末に取り消しへ…聴聞欠席し「異論なし」
2023/11/24

 中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題で、鈴木金融相は24日の閣議後の記者会見で、同社の損害保険代理店としての登録を11月末に取り消す行政処分を同日中に出す予定を明らかにした。

ビッグモーターに対しては、国土交通省が10月、道路運送車両法に基づいて一部の整備工場に事業停止などの行政処分を下している。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231124-OYT1T50055/

中古車自体も、現金化が急がれれば市場に流失しビッグモーター自体の資産としては減少してゆくだろう。結局残るのは純粋に、店舗と設備だけが資産価値になるかもしれない。
店舗も、賃貸物件であればその保有企業(この場合はビッグアセット)にあるなら、泥棒に追銭になりかねない。

(ブランドと人材)
これだけ事件性のある出来事の当事者である。ビッグモーターという名前で事業を継続するというのは狂気の沙汰である。企業名の継続自体は資産の計算上マイナスに計上すべきである。

仮に支援するとして、現在の社長が旧来の「売上市場主義」を引きずっているのだとしたらこれもマイナス要因になる。

従業員は善悪の区別がつかない人材であり云われれば何でもしてしまう。これも継続の雇用は二の足を踏む。マイナス要因になる。

結局、会社名も人材も引き継がないという選択肢でなければ伊藤忠のガバナンス基準に合わない気がする。

■市場の未来

伊藤忠商事は中古車市場に魅力を感じているかもしれない。
しかし、中古車販売事業者への信頼が毀損され始めていることを考えると単純な参入はリスクが大きい。

特にコンプライアンスへの信頼は伊藤忠の持つコンプライアンス基準と合致するのだろうか。

○ビッグモーター支援、ガリバーのIDOMが検討中止…コンプライアンス欠如が障害
2023/11/09

保険金の不正請求問題で業績が悪化している中古車販売大手ビッグモーターの支援先探しが難航している。同業大手のガリバーを運営するIDOM(イドム)は、8日までに支援しない考えを伝えていたことがわかった。企業体質が改善していない点が障害だとみられる。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20231108-OYT1T50191/

○「ガリバー」、保険金を不適切請求 再調査で発覚
2023年11月1日

中古車販売店「ガリバー」を運営するIDOMは1日、保険金の不適切請求が3件あったと発表した。同社は8月下旬に不正請求はなかったと発表したが、東京海上日動火災保険から調査の依頼があった。IDOMが改めて調べたところ、740円から4万1535円の誤請求が発覚した。

中古車業界ではビッグモーター(東京都多摩市)をはじめ、ネクステージやグッドスピードでも不適切な事案が明らかになっている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC014XX0R01C23A1000000/

■伊藤忠商事の企業行動

伊藤忠商事の起業理念は下記の通り。

伊藤忠グループは、創業者・伊藤忠兵衛の言葉から生まれた「三方よし」の精神を新しい企業理念に掲げます。これは、1858年の創業以来、伊藤忠の創業の精神として現在まで受け継がれ、そして未来においても受け継いでいく心です。

「売り手よし」
「買い手よし」
「世間よし」

自社の利益だけでなく、取引先、株主、社員をはじめ周囲の様々なステークホルダーの期待と信頼に応え、その結果、社会課題の解決に貢献したいという願い。
「三方よし」は、世の中に善き循環を生み出し、
持続可能な社会に貢献する伊藤忠の目指す商いの心です。

https://www.itochu.co.jp/ja/about/mission/index.html

これに基づき行動されるのであれば、ビッグモーターの企業風土を継続するような状態で支援はしないと信じたい。

一方、短期経営計画を見ると既存事業の磨きとして「主要子会社であるヤナセ・保健の窓口の資本再編を通じた連携強化」とあり、何らかの損害保険業務への足がかりを探しているようにも見える。
https://www.itochu.co.jp/ja/about/plan/short_term.html

こうしてみると、伊藤忠商事が、自動車の流通を中核として事業を展開することを目指していることが想定される。もしそうであれば、事業を進めるためのノウハウがあることは想定でき、欲しいものとして資産を評価するのであれば、「もの」すなわち「店舗」と「設備」だけが対象となるのではないだろうか。中古車自体はすでに市場にあるものや今後の来客に期待すれば良い。ビッグモーターのブランドは不要であろう。

さてどうなるのか。

(2023/11/24)

(その他の参考記事)

○伊藤忠がビッグモーター買収!?火中の栗拾う理由
「創業家の切り離し条件」24年春までに買収判断
2023/11/17
https://toyokeizai.net/articles/-/716001?page=3