戦略人事:アジリティ戦略という選択肢(安易なリストラを回避する準備)


■安心できない世界の動き

先日、景気が回復していると匂わせる報道があった。

○設備投資、過去最高の31兆円 EVやAIなど好調
23年度修正計画 日経調査
2023年12月15日

上場企業と資本金1億円以上の有力企業874社を対象に、国内外で実施する設備投資の10月末時点の修正計画を集計した。前年度実績比の伸び率は00年度以降で最大だった。製造業が前年度に比べ21.0%、非製造業が11.5%それぞれ増えた。22年度に続き2年連続で最高を更新する。

自動車各社はEVや車載電池の生産体制を国内外で増強している。トヨタ自動車は1兆9700億円と、過去最高となった当初計画から5.9%積み増した。ホンダは円安を主因に10%上方修正した。「(EV投資などの)スピード感を緩めるつもりはない」(青山真二副社長)としている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC11B2G0R11C23A2000000/

しかし、これは安心材料にはならない。なぜならばEV鈍化の兆しがあり、世界ではリストラも進んでいる。

○GM、1300人を人員削減 EV生産の遅れが影響
2023.12.15

GMのレイオフはEV市場の不確実性が増す状況を反映している。EVの値引きが増え、ガソリン車よりも販売会社の在庫期間が長期化している現状は、近年有望市場と予想されてきたEVの需要減を示している。

他社も費用削減に動いている。フォードは10月、EV生産の従業員700人をレイオフすると発表していた。

https://www.cnn.co.jp/business/35212852.html

(参考)
○米GM、1300人強の時間給労働者を削減へ-ミシガン州の2工場で
2023年12月15日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-12-15/S5OMFOT0G1KW00

こうしたリストラの背景には景気後退の懸念や、突然の政策変更も関係していると思われる。

○EV需要鈍化で巨額投資にブレーキ、テスラ含めメーカーに再考迫る
2023年11月6日

メーカー各社は高級車志向の買い手のみならず、大衆車としてのEVを目指し、北米であわせて約1000億ドル(14兆9400億円)を投じる意向を示している。しかし、インフレと金利上昇で、一般消費者が自動車を購入することは困難になっており、EVメーカーを取り巻く環境が悪化していることをうかがわせる。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-11-05/S3NSRCDWX2PS01

○独EV補助金を停止、突然の発表に反発
2023年12月18日

ドイツ政府が17日から電気自動車(EV)購入時に支給される補助金を停止すると発表したことに反発が広がっている。突然の停止は、既に苦境に立たされている同国自動車産業にとってさらなる痛手となる。

https://www.afpbb.com/articles/-/3496638

(参考)
○ドイツのEV補助金、1年前倒しで停止 電動化に失速懸念
2023年12月17日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR164260W3A211C2000000/

■VUCAの時代への対応

VUCAの時代と云われて久しい。
「赤の女王仮説」の言葉のように
「その場にとどまるためには全力で走り続けなければいけない」
とは、全ての企業に当てはまる。

それは、優れた企業と評価されていた企業であっても例外ではない。

○ユニコーン、米国で破綻相次ぐ 10月以降3社事業停止へ
2023年12月15日

ここ数年で経営破綻した建設テックスタートアップはビーブが初めてではない。21年には、ソフトバンクグループ(SBG)などから計15億ドルを調達していた建設テックのユニコーン、米カテラ(Katerra)が経営破綻している。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC046870U3A201C2000000/

経営資源のヒトモノカネの調達が滞ればひとたまりのない企業は多い。
こうした、経営資源の滞りや市場の変化に対応するための戦略が必要になる。

■アジリティという戦略

アジリティという言葉は、

アジリティ(Agility)とは、機敏さ、素早さ、敏しょう性といった意味を持つ英単語です。スポーツ分野では早くから使われていた言葉ですが、近年ではビジネス用語としても広く活用されています。

ビジネスシーンでは、状況変化に応じて柔軟かつ迅速に対応できる機敏性を指します。たとえば、意思決定の速さやフレキシブルな働き方への対応などがアジリティにつながります。

と言う文脈で使われる。
そしてこれは、組織構造だけでなくビジネスプロセス、個別生産技術のじゅうなんせいあるいは汎用性も求めている。

それまでの特定目的であった産業用ロボットの世界に汎用性の高い「協働ロボット」が登場したことは意味があるであろうし、マツダが柔軟性の高い「多品種変量生産システム」を構築して、アジリティ化を進めたことも知られている。

単に、事業の環境が変わったからと言って、安易にリストラをすべきではない。リストラをせざるを得ないということは、経営資源の変動に対してアジリティがないということである。

■人事部門の役割

人事部門は従来人に係る施策の運用部隊となっていた。一時的に目標管理制度や社員の不公平感を解消するための資格制度の改定やキャリアプランなどの再考などを担うことがあっても、問題や課題は経営者から与えられるものであった。

しかし、いまや経営者が個人の裁量で時代に立ち向かうことなどできない時代となっている。そうしたおごりが安易なリストラに走ることになる。

人事部門は戦略的な経営資源管理の先人に立たねばならない。それは、人という経営資源であれば、市場の変化、ビジネスモデルの再構築、生産設備の組み替え、新たな技術への適用など多くのカテゴリーを視野に置かねばならない。

もちろん人事部門だけではできないこともある。しかし、経営資源で最も重要な「人」を扱うのであれば、それがアジリティな資源となるように戦略を練らねばならない。

それができないなら辞表を提出したほうが良い。

(2023/12/22)