未来への手がかり:多様化するデジタル媒体と知的好奇心(本屋機能を分離する)


どんな本が話題なのかを知る場所と、本を保管し配送する倉庫・配送機能を分離する。
本屋に在庫を持つと言う常識を疑う。
本屋には定期的に本を循環させる。
欲しければ後で届ければ良い。こうした発想も無視しないで欲しい。

■新聞社の苦境と情報探索の多様化

新聞の購読数が減少していることはすでに数年前、もしかしたらもっと前から指摘されていたことである。その傾向は今も止らない。

○この1年で200万部以上も減少した…全紙合計で3084万部しかない「日本の新聞」が消滅する日
2023/01/16

新聞の発行部数の減少が目立ち始めたのは2008年ごろ。それまで1%未満の増減だったものが、2008年に1%を超える減少を記録した。それ以降、減少率は急速に拡大し、2014年には3.5%減、2018年には5.3%減、2020年には7.2%減となった。つまり、減少ピッチは収まっていないのだ。このままのペースで減りつづければ、20年以内に紙の新聞は消滅してしまう。

https://president.jp/articles/-/65446?page=1

これに対し、新聞各社はデジタル化(電子版)への普及を進めざるを得ず、デジタルの読者層への移行が生き残りへの趨勢を決めかねない。しかし、デジタルへの対応は一定の普及が見られ、これに関する報道も見られる。

○米NYタイムズ、デジタル読者が100万人超増加 22年
2023年2月9日

米新聞大手ニューヨーク・タイムズ(NYT)は8日、2022年の1年間で電子版を含むデジタル有料読者数が100万人超の純増となったと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大や米大統領選などを通じてニュース報道への関心が高まった20年以来の高水準という。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08CSA0Y3A200C2000000/

以前は、紙媒体の新聞のおまけの様な位置づけであったが、日経新聞や朝日新聞など電子版だけを独立して配信するサービスに移行している。

これにより、紙面の制約はなくなり、即時性も格段に良くなっている。
そうした中では,記事の品質が問題になり、これが競争力の源泉となる。
情報の収集はデジタル化社会の中では多様であり、差別化を図らない限り生き残れない。

■本屋の苦境

苦境に立つのは新聞社だけではない。出版業界も同じ状況である。
街の本屋は減少傾向があり、わずかに存在するコンビニでの本屋機能も縮小しており、それも加速している。

○日販がコンビニ配送終了へ 25年、トーハンに引き継ぎ
2023年10月26日

 出版取次大手の日本出版販売(日販)が、コンビニエンスストアに雑誌や書籍を配送する事業を25年2月をめどに終了することが26日、分かった。同社によると、全国のファミリーマートとローソン計約3万店に配送しており、撤退後は取次大手トーハンに事業を引き継ぐ方針。トーハンはセブン―イレブンに配送している。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/286174

こうした新聞社や出版社の苦境は「活字離れ」が原因だという。印象としては,確かに「最近の若者は本を読まない」という印象が強いが、マクロデータを見るとそんなことはない。

○「学校読書調査」の結果

 第68回調査の結果では、2023年5月1か月間の平均読書冊数は、小学生は12.6冊、中学生は5.5冊、高校生は1.9冊、不読者(5月1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒)の割合は、小学生は7.0%、中学生は13.1%、高校生は43.5%となっています。

https://www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html

これらの結果を見ると高校生での読書量はあまり変わらないものの、小学生、中学生の読書冊数は確実に上昇している。

○「子供の読書離れ」はウソである…90年代末に史上最悪だった平均読書冊数がV字回復しているワケ
進んでいるのは「雑誌離れ」
https://president.jp/articles/-/71000?page=1

たしかに 大人になると仕事や家事・育児などで時間がなかなかとれないといった事情があるにしても、ビジネスパーソンが読む本の冊数は一定程度の水準にある。

○【大人の読書習慣実態調査】
2023年10月27日
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000124486.html

■触れる機会の確立

活字や情報に対するニーズはなくなっていないばかりか、ビジネスマンにはますます知的能力が求められ、そのための書籍の重要性、新聞の重要性が高まってくる。

そうしたなかで、全国に展開されているコンビニエンスストアに「本屋」を併設しているローソンの取り組みは興味深い。

○書店数が激減するなか、ローソンが「マチの本屋さん」を続々オープンする理由
2023/05/18

立ち上げの意図についてローソンエンタテインメントカンパニーマーチャンダイザーの河本純季氏は「おもに2つの理由がある」と説明する。まず、1点目として地域に親しまれる、20~30坪程度の小~中規模の書店の減少が挙げられるという。

ローソンはそれを好機と捉え、自治体に書店のない地域など「書店空白地」への出店を進めることになった。「書店のみでは経営が成立しなくても、コンビニと併設であれば、チャンスがあるのではないかと考えた」(河本氏)

2点目の理由として河本氏は「書店を併設することで、本来設定していた商圏よりも広い地域からの来客が見込めるほか、コンビニ商品の合わせ買いも期待できる」と相乗効果による売上アップを見込んでいることを説明した。

書店数が激減するなか、ローソンが「マチの本屋さん」を続々オープンする理由

○コンビニから本がなくなる? 取次最大手「日販」が配送事業を終了 「LAWSONマチの本屋さん」はどうなる
2023.10.29

いよいよ、本格的な紙離れの影響が出てきたか、という印象である。コロナ禍の中で、電子書籍の売上は伸びた一方で、紙の書籍の売上は落ち込みつつあり、リアル書店の数も減少した。日版のコンビニからの撤退は、これまで堅調と思われていたコンビニですら、紙の雑誌・書籍の売上が落ち込んでいることを如実に表している。

出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、書店が一つもないいわゆる“書店ゼロ”の市区町村は約26.2%にのぼるという。今後、電子書籍の普及や長引いたコロナ騒動の影響もあって書店の閉店は加速するものと思われる。そんななか、書店はないが、コンビニはあるという自治体もありそうだし、地方では書店よりもコンビニの数が多いという自治体は決して珍しくない。

https://realsound.jp/book/2023/10/post-1474375.html

その時に配慮しなければならないのが、本の販売を行なうビジネスモデルの欠陥である。

○日本の書店がどんどん潰れていく本当の理由
決定的に「粗利」が低いのには原因がある
2018/12/09

取次とは、その効率がよい雑誌で日本全国の書店やコンビニエンスストアなどへの配送網を作り、そこに書籍を載せることで成り立ってきた仕組みなのである。欧米で出版取次と呼ばれる業態(ホールセラー、ディストリビューター)は書籍専業の流通業者であり、雑誌と書籍の流通を組み合わせた取次システムは、日本にしか存在しないと思われる。

https://toyokeizai.net/articles/-/253083

すでに雑誌のニーズは減り、新聞と同じデジタル化が進むであろう。純粋に知的好奇心を満たすような、あるいはエンターテイメントの領域の本を従来の流通に乗せることは効率的でない。新たな流通システムが必要である。

店頭に並べてみてもらう場所が不要とは言わない。しかし、本の在庫を持ち、倉庫に保管し、必要に応じて配送するというスタイルもあり得る。

本を紹介してゆく機能と、保管配送する機能を分離することで、本来の書籍の利益を確保できないであろうか。

(2023/12/28)