世間に転がる意味不明:タクシー会社の苦境とライドシェア(問題を混ぜてはならない)


部分最適の積み上げは全体最適にはならない。
焦点が異なれば政策評価も変わる。

ライドシェアを進めたからといって、運転手の賃金の低さの問題に起因するダライバー不足の解消やタクシー会社の苦境が解消されるとは思えない。

ライドシェアはタクシー業界の救いの手ではない。

■タクシー会社の苦境の濃淡

地方でタクシー会社が利用者の減少や運転手不足で立ち行かなくなるニュースは見るが、大都市圏の周辺でも同様なのかと思うと驚く。

○名古屋のタクシー会社が自己破産へ、負債26億円 人員不足など響く
2024年2月4日

名古屋市を中心に「毎日タクシー」を展開する毎日タクシーグループ(名古屋市北区)は1月30日付で自己破産を申請し、名古屋地裁が破産手続き開始決定をした。

22年4月に複数の企業を合併してグループの再編を行ったが、コロナ禍でタクシー需要が落ち込んだ影響などから業績は厳しく、赤字計上が続いていた。また運転手の高齢化や人員不足などから、コロナ収束後も業況の戻りは鈍く、借入金が年商規模を大きく上回ったこともあって資金繰りがひっぱくしたという。

https://www.asahi.com/articles/ASS236QW8S10OIPE00V.html

タクシーの事業モデルにはそもそもの欠陥がある。
①乗客がいなければ利益を生み出さない。空車のママ走らせても空気を乗せていおるならガソリン代だけかかる。
②運転手を正社員として雇っている限り一定程度の賃金を払う必要があり、歩合制にしてしまうと収入の格差が生じる。

これでは安定した事業収入や個人の収入が担保できない。
お客様がうなるほどいれば良いが不況になった途端、立ちゆかなくなる。
お客様が限られてしまうと奪い合いになりますます不安定さが増す。
そうした本音が下記の様なところに見え隠れする。

○仙台市のタクシーは供給過剰 ライドシェアに懸念の声
2/2 (金)

 運転手「今はちょっと台数が少なくなっているから。やっぱり台数が多い時は競争みたいな感じでお客さんを乗せるのが大変でした」「前は客待ちの列に入れなかった。最近はすっと入れる時が多くなりました。毎日ではないですけど」

https://www.khb-tv.co.jp/news/15144950

短い距離の乗客は好まれないと言うことは風聞で聞く。そうした意味では長距離はうまみのある所なので「素人」に取られたくないというドライブが働くのかもしれない。

○批判殺到!ライドシェア「1乗車20キロ以内」案 タクシー団体が検討か
2024年2月2日

日経新聞によると、東京ハイヤー・タクシー協会(川鍋一朗会長)は一般ドライバーによる1回あたりの旅客輸送を最長20キロ程度に制限する案を検討中という。長距離輸送は「プロ」限定とする案だ。

日本版ライドシェア実現に向け国が示した案は、タクシー事業者に配慮し過ぎた「骨抜き案」とする意見が多く聞こえるが、一般ドライバーへの制限を強め過ぎれば人は集まらず、望むような効果を得ることはできなくなる。

批判殺到!ライドシェア「1乗車20キロ以内」案 タクシー団体が検討か

タクシー業界は、自社の売上げが増えて欲しいと思うかもしれない。インバウンドは追い風かもしれないが、そのパイを奪い合うのであれば戦力不足を解決しなければ優位性は保てない。ドライバーにしてみれば、なるべく多くの乗客を長い距離で運びたい。乗客が多いのであればライバルは少ない方が良い。

タクシー会社の課題としては、運転手不足があるがそれはライドシェアで解決すべきことではなく労働環境の改善によって行なわれる。それを疎かにして、タクシーの不足する時間帯に曜日にだけライドシェアを導入するとしても、それは何を解決させるのだろう。

■呉越同舟と新しいビジネスモデル

自治体がライドシェアを検討する事例が増えている。

○「神奈川版ライドシェア」 三浦市内で5月までに実証実験 一般ドライバー20人募集へ
2024年2月2日

利用者はスマートフォンの専用アプリを使って車を呼び、目的地に応じて料金を事前に電子決済する。料金はタクシーと同額で、アプリは配車アプリ「GO」を軸に検討されている。発着地については当初、三浦市内限定で調整されていたが、目的地だけは市外も設定できるようになる方向だ。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/306833

しかし、彼らの関心事は「交通問題」であり、タクシードライバーの給与問題やタクシー会社の存続ではない。原因の一つとして人手不足があり、それが解決されるならば手段は何でもよい。

もっとも火中の栗を誰が拾うのかの問題はあやふやにする。

○人手不足の解消と増えるインバウンドの移動需要に対応 石垣市でも導入へ「ライドシェア」
2024年2月5日

国が導入を目指している一般ドライバーが有料で客を運ぶ「ライドシェア」について沖縄県石垣市でも独自の仕組みをつくって急増するインバウンドなどに対応する方針です。

「石垣版ライドシェア」はタクシー事業者が運行を管理して、運転手不足で動かせていない車両を二種免許を持たない一般のドライバーが運転して有料で客を運べるようにするというものです。原則、一般ドライバーの自家用車は使わないことになっています。

人手不足の解消と増えるインバウンドの移動需要に対応 石垣市でも導入へ「ライドシェア」

二つの記事に共通しているのは、管理をタクシー会社の責任を負わせることと、リソースをタクシー会社に負担させることである。管理面での負担になり、仮にコストを負担してもらったとしても収益の劇的な改善には向かわない。

だとすれば、タクシー会社はビジネスモデルを変えざるを得ない。

○Uberとライドシェアで提携したロイヤルリムジングループとは
2024.02.06

東京を拠点にタクシー業を展開するロイヤルリムジングループは、Uber Japanと提携して、自家用車とそのドライバーを活用した運送サービス、いわゆる「タクシー会社によるライドシェア」の導入支援を4月から開始すると発表した。

https://forbesjapan.com/articles/detail/68900

情報技術を活用して配車効率などを上げる取り組みは生産性向上につながるだろう。
配車アプリを提供するサイドも、今はおとなしくしたがっているが不本意であれば新たなビジネスモデルを模索するだろう。

○タクシー会社限定ライドシェア、UberとDiDi「裏方役」で苦渋の参入
海外のようにメインサービスを展開できず・・・
2024年2月2日

2024年4月からライドシェアがタクシー会社に限定して解禁される。タクシー会社以外はサービスを展開できない形で、ライドシェアの世界的大手企業であるUberやDiDiを実質的に締め出すような解禁と言える。

タクシー会社限定ライドシェア、UberとDiDi「裏方役」で苦渋の参入

甘く見ない方が良い。
想像してもらいたい、自社で自動車を保有しないタクシー会社がいずれ出てくるかもしれない。日本でバスなどの公共交通機関が衰退した一番の理由は「マイカーの保有」である。確かに高齢化により交通弱者は出ている。

一方で、一人で運転して移動している自動車のなんと多いことか。課題がないとは云わないが、タクシーを数多く保有しているビジネスモデルは限界に来ていると感じる。

新たなビジネスモデルを許すべきである。タクシー会社が存続しなければいけない理由はない。

(2024/02/06)

(その他の参考記事)

○ドライバー「朝行ったら倒産…」毎日タクシーグループが自己破産 コロナ禍や人員不足等から資金繰りひっ迫
2024/01/31
https://www.tokai-tv.com/tokainews/article_20240131_32534

○TSR速報 毎日タクシーグループ(株)
2024/01/31

「毎日タクシー」の名称で展開していた中堅タクシー業者。地元での知名度は高く、一定の存在感を示していた。しかし、コロナ禍によるタクシー需要の減少、ドライバーの高齢化、同業他社との競合等もあり、2021年3月期は売上高2億5004万円に対して5389万円の赤字を計上し、債務超過が続いていた。

https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/detail/1198334_1521.html

○神奈川・三浦でライドシェア実証実験、市外で降車可能に 早ければ4月開始、運転手20人
2024/2/1

県の案では、市が実証実験の主体となり、運転手は市内に住んでいるか勤務している約20人を想定している。地元のタクシー会社が運行管理、車両整備、運転手の教育などを担い、保険は既存の民間の保険を活用するとしている。配車や料金の支払いに使うアプリの開発は、タクシー配車アプリ大手のGO(東京都港区)などと調整しているとした。

https://www.sankei.com/article/20240201-V7IOYPB2EZLHJIVE3BA3UGI4WE/