戦略人事:人材のシェアリング(採用難と逃げ出す人々)


業務を分解し、そこにいなければできない仕事だけを残す。
そして、フルタイムを前提としない業務プロセスを再構築して、人材のシェアリングはできないものだろうか。

■深刻になる人手不足

かつてバブル期の少し前、80年代後半は各企業とも成長過程にあり、学生もまだ多かったこともあり、就職のキャスティングボードは企業側が握っていた。「応募者が多いので履歴書を放り投げて遠い人から面接する」とうそぶいていたことが遠い昔の話である。

今では人手不足が深刻化しており、どこに就職するのかを選択するのは彼らであり、企業の人事部に主導権はない。それは数字にも顕著に出始めている。

○人手不足に対する企業の動向調査(2023年10月)
2023/11/14

人手不足が事業継続を揺るがす経営リスクとして顕在化しているなか、企業の人手不足の状況について調査を実施した。

1 正社員の人手不足企業の割合は52.1%となった。業種別ではインバウンド需要が好調な「旅館・ホテル」(75.6%)がトップとなり、エンジニア人材の不足が目立つ「情報サービス」も72.9%で続いた。また、2024年問題が懸念されている建設/物流業でも、それぞれ7割近くに達した

2 非正社員では30.9%が人手不足を感じており、業種別では「飲食店」が82.0%で最も高かった。また、正社員ではトップだった「旅館・ホテル」(73.5%)は、非正社員では2番目の高水準となった

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p231103.html

もっとも出生率の低下に伴う労働力人口の減少は20年以上も前から分かっていることである。突然人手不足になったわけではないし、少ない人材の取り合いも今にはじまった話ではない。

マクロの統計データを見ると有効求人倍率や失業率は劇的な変化を見せているわけでもないし、大学内定率も高いとはいえ100%ではない。企業が常に一定の採用意欲があるもののそれが満たされていない状況は今昔で変わりは無い。

○大卒内定率86%、23年12月時点 コロナ前届かずも回復
2024年1月26日

文部科学省と厚生労働省は26日、今春卒業予定の大学生の2023年12月1日時点での就職内定率が前年同期比1.6ポイント増の86.0%だったと発表した。新型コロナウイルス禍前の19年(87.1%)の水準には戻っていないものの、1996年の調査開始以来3番目の高さだった。企業の採用意欲は高まっている。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE255FS0V20C24A1000000/

こうした状況に置かれているにもかかわらず、相変わらずの採用戦術(採用媒体への掲載、就職紹介サイトの利用、学校訪問、ハローワークなど)を使用し得ているだけでは解決されない。

募集すれば山のように人が集まっていた時代ではない。

■現実問題としての賃金格差は買い負ける企業を創り出す。

人手不足ではあまり表面化しない問題として離職がある。マクロの数字では離職率の数字は大きく変動していないようだがミクロの話になるとそうは行かない。賃金の安さで転職を決めるという話を聞くこともある。また、離職に伴う社員の不足は事業そのものの継続性を既存して、倒産という現象を引き起こしていると感じている。

2024年春闘のメインテーマは「賃金上昇」であり、こうした物価高の中では人に対する訴求力があり、どこの企業も一歩足を踏み出しているようだ。それは、そうしなければ人材をつなぎ止めていられないからであろう。

○2024年春闘 大企業100社に聞く 賃上げは? デフレ脱却は

大山健太郎会長
「大企業だけでなく中小企業も人手不足という環境要因で賃金を上げざるを得ない。収益力がなくても賃金を上げない限り、人を雇用できない状況だ。自社でも人口構造が変化する中で若い社員をより多く採用したい」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240206/k10014348821000.html

それは中小企業においても同様であろう。下記の記事は表題とは異なり中小企業の置かれている苦境を示している。

○昨年よりも整った中小企業の賃上げ体制、日本経済好循環への試金石に
2024.2.12

 最大の焦点は、大企業の大幅な賃上げに中小企業がどの程度追随できるかだ。日本労働組合総連合会(連合)が集計した23年の賃上げ率は、千人以上の企業で3.7%だった一方、99人以下では2.9%にとどまっている。

日本商工会議所によれば、23年度に賃上げを実施した企業の約6割は、業績の改善が見られない中での「防衛的な賃上げ」だった。このような経緯から、中小企業が今年度も大幅な賃上げを続けることは難しいとの見方も多い。

https://diamond.jp/articles/-/338677

大手ならいざ知らず中小企業はいまだ賃金アップのハードルが高いことが分かる。

■人材のシェアリングという発想

現在、ISOの審査員をしているが、おそらくはどこの企業でも人手不足は深刻であると言う声を聞かないことはない。大手の企業であってもマクロとしては一定人数は確保できてリルが全ての部門が満足できるようには調達できていない。そしてさらに深刻なのは「離職」「転職」である。じわじわと一人二人と減っており、最も大変なのは1/3が退職した現場で事業そのものが立ちゆかなくなっていると言う話を聞いたときには愕然とした。

忙しい上に過剰な労働で、いずれ現有戦力も既存してゆく。モチベーションの3要素は「ふさわしい仕事」「ふさわしい環境」「ふさわしい報酬(賞賛などを含む)」であるが、そもそもの最低ラインの給与を支払わなければ企業を維持できない。

経営資源である「ヒト」を他社に対して買い負けているからだ。
であれば、常識を疑う必要がある。

全ての業務を一人で行なうような「フルタイム」「ワンオペ」はまともではない。
と言うところからスタートしてはどうだろうか。
現在、情報通信技術、AI技術が発達してきており、遠隔からのオペレーションは可能となっている。その人がしなくてはいけない仕事と第三者でもできる仕事を分離することで効率化を図っている企業もある。

業務プロセスを「ヒト中心」ではなく「タスク中心」で分離し、タスクにヒトを貼り付けるという発想を持てば、同じタスクをこなす人材を複数の企業でシェアリングすることが可能であろう。

中小企業どうして人材のシェアリングを検討してはどうだろう。
さもないと座して死を待つことになる。

(2024/02/14)