世間に転がる意味不明:虚妄の賃上げ狂想曲2024【3】(同じパイでのヒトの奪い合いは何も変えない)


■パニック

2024年春闘は賃上げのニュースで満杯である。それは、そうしなければ人材の確保どころか流失につながるという危機感であり大手企業はこぞって賃上げに向かっている。

○NTT7.3%賃上げ、過去最大 ベアは11年連続実施
2024/03/14

 NTTは14日、2024年春闘で、グループ主要5社の正社員の賃金を7.3%引き上げることで労働組合と妥結したと発表した。ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善や定期昇給などを合わせ月額平均3万9300円の賃上げとなる。引き上げ幅は過去最大。社員の士気を高める狙いで、ベア実施は11年連続。

https://nordot.app/1140944743311966899

○キリンHD 初の満額回答「7.5%賃上げ」 初任給は大卒で2万8000円引き上げ
024年3月13日

キリンホールディングスの坪井純子取締役常務執行役員は「消費財メーカーでもあるので、賃金が上がっていくことで消費が活性化し、日本のマクロ経済が活性化していくことはいいことだと考える。今回の賃上げが一助になれば」としている。

https://www.fnn.jp/articles/FujiTV/670744

こうした流れは実際の企業の業績と連動しているとは限らない上に、そうしなければ生き残れないという危機感の延長線上にある。

○中小企業でも広がる賃上げ、実態は「人材確保のためやむなく」 業績を反映せず
令和6年春闘
2024/3/13

令和6年春闘では中小企業でも賃上げ機運は高まっている。日本商工会議所が2月に公表した中小企業の賃上げ動向調査の結果によると、6年度に賃上げを予定する企業は61・3%と前年度より3・1ポイント上回った。だが賃上げ予定企業の60・3%は、業績が改善したわけではないが人手の確保につなげるための「防衛的賃上げ」としている。

https://www.sankei.com/article/20240313-6QEITWG7VVLBPH7ZJPNSQKYKOE/

■労働力人口

総務省の統計局や厚生労働省のデータなどを見ると多少の増減はあるものの「少子化」は改善されておらず,下記のような報告も上がっている。

(1)労働力人口は5万人の減少
労働力人口(15 歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2022 年平均で 6902 万人と、前年に比べ5万人の減少(2年ぶりの減少)となった。男女別にみると、男性は3805万人と22万人の減少、女性は3096万人と16万人の増加となった。 また、15~64歳の労働力人口は、2022年平均で5975万人と、前年に比べ6万人の減少となった。男女別にみると、男性は3256万人と22万人の減少、女性は2718万人と15万人の増加となった。

https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf

こうした状況で賃上げをしなければ、それが優秀な人材かどうかはともかく調達ができないという危機感がある。しかし、これは都合が良すぎる思惑であろう。

○トリドールHD、過去最大の10%賃上げ 労組要求上回る 賃上げ2024
2024年3月14日

トリドールホールディングス(HD)は14日、定期昇給(定昇)とベースアップ(ベア)を合わせ10%の賃上げを実施すると発表した。労働組合の要求を上回り、過去最大の賃上げ幅となる。ベアの実施は2年連続。6月から正社員を対象とする。人手不足が深刻になる中、優秀な人材の確保につなげる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC1451S0U4A310C2000000/

上記の中で「人手不足が深刻になる中、優秀な人材の確保につなげる」とあるが、そんな都合の良いことはない。なぜならば他社も賃上げするなら働くヒトにとってはどこも一緒なのだから。

全体のパイが変わらないことを自覚すべきである。

■競争力強化

全体の労働力人口が変わらない上に,賃上げは他社でも行なうのであればどうなるだろう。

これに対して「当社では優秀な人材を確保できる」という楽観的な発想を持っているとしたら相当おめでたい。

労務コストだけ上がるというのが2024年春闘の結果である。
いずれ企業の競争力をそぐことになる。

誤解しないで欲しい。賃上げを否定しているのではない。賃上げだけを成長戦略に組み込むことを否定しているのである。すべきことは
①どのような人材を確保するのかの指針を明確にすること
②そのための人事制度をどう整えるのか
③最終的に生産性向上の為の施策(プロセスのデジタル化など)とリンクさせること

こうした全体感のない賃上げは企業競争力を阻害するだけである。

(2024/03/17)