■ミスリードさせる記事
○Dellが従業員のリモートワーク支持から一転「リモートワーカーの昇進は無し」と通達
近年ではさまざまな企業や職種でリモートワークが普及しています。しかし、「リモートワークは生産性が低下する」との指摘から、GoogleやZoom、Amazonなどの企業がリモートワークを順次廃止しています。コンピューターテクノロジー企業のDellが「2024年5月以降、完全にリモートワークをしている従業員は昇進の対象外になる」とのポリシーを発表しました。
https://gigazine.net/news/20240319-dell-remote-work/
あたかもリモートワークを否定するような記事であるが、リモートワークと生産性低下には直接の因果関係はない。生産性のコントロールはマネジメントの問題である。
■虚妄のテレワーク
総務省から発行されている「令和5年度 情報通信白書」の第11部「(2)テレワーク・オンライン会議」によれば
ア 我が国の企業のテレワークの導入状況
民間企業のテレワークは、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大後、急速に導入が進んだ。総務省実施の令和4年通信利用動向調査によると、テレワークを導入している企業は50%を超えている
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd24b220.html
とされている。
こうした普及はコロナが大きく影響したことは否めない。したがって、コロナの終焉とともに出社の回帰も、当然その流れが出てくることは予想される。
○コロナ5類 リモートワーク・在宅勤務から出社に回帰の動きも
2023年5月15日
IT企業で社員およそ1100人のGMOインターネットグループは感染が拡大した当初、リモートワークを推奨し、多い時には社員のおよそ8割が在宅勤務を行っていました。
しかし、社員間のコミュニケーションが不足することで業務のスピード感が下がったり、新入社員の教育が円滑に進まなかったりしたことなどからコロナの収束を見据えて、ことし2月から原則出社での勤務に戻しました。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230515c.html
当然、リモートワークに向く仕事、対面でなければ出きなことはあるので全てをリモートにする必要は無いにしても、これを持ってリモートワークの終焉とみるのは間違っている。
下記の様な判断は「リモートワーク」を正しく理解していない結果であり、リモートワークが原因ではなく、運用の失敗である。
○テレワークで7割が「業務効率低下」 兵庫県が実験、難しさ浮き彫り
2024年3月19日
県は昨年6月から今年2月にかけ、各部局ごとに在宅勤務を広げ、業務への影響などを調べていた。
各部局の出勤率は45・1%。在宅勤務についての職員へのアンケートでは、約7割が「業務効率が低下した」と回答した。理由として「(業務に必要な紙書類が多く)既存の電子データだけでは必要な情報が不足」「オンラインでは正確な意図の伝達や気軽な相談が困難」などが挙がった。
https://www.asahi.com/articles/ASS3M62G3S3MPIHB001.html
■働く場所を変えただけでは何も変わらない
当たり前の話ではあるが、単に会社で行なう作業を自宅で行なうことに変更したからと言って生産性も向上するわけでも社員のモチベーションが上がるわけでもない。もしそんな都合の良いことがあるならば、かつて話題になった「サテライトオフィス」がもっと浸透していたはずである。そんなことは幻想であることは今の状況を見れば明らかであろう。
○サテライトオフィスとは? 企業の課題とメリット・デメリット
2019年07月14日
サテライトオフィスのメリットには以下がある。
・人材確保
働きやすい労働・就業・職場環境を整えることで人材が集まります。離職率も減る可能性があります。育児や介護のために働きにくいなどのさまざま制約を抱える人材にもアプローチできます。
・生産性向上
通勤時間・移動時間の削減により業務の効率が上がります。
コスト削減
小規模サテライトオフィスなら支社や支店を置くより低コストでの開設・運営が可能。交通費も削減できます。
BCP対策
有事や災害の際のリスク回避に役立ちます。また、従業員にとっても、子育てや介護をしていても働けるような就業場所の選択肢が増え、通勤・移動のストレスが減り、仕事とプライベートを両立しやすくなるなどのメリットがあります。
逆にデメリットもあります。本社とのコミュニケーションロスが起きる可能性があること、セキュリティ面でリスクが増えることなどです。サテライトオフィスを設置する際は、想定されるデメリットを洗い出して対策を立てることが必須となるでしょう。
https://www.hitachi-solutions-create.co.jp/column/reform/satellite-office.html
テレワーク・リモートワークにしろサテライトオフィスにしろ、もし生産性向上を目標とするならば、いくつかの戦略とそれに伴う行動をしなければならない。
①生産性の計測と向上の戦略策定
現在業務のプロセスの分析を行なう。
現在行なわれている業務を人視点で整理する。誰がどんな仕事にどのぐらい時間をかけているのか。業務間の段取時間はどの程度か。それはその人がしなければならない仕事なのか。などである。場合に寄っては設備の改善や人員の再配置で解決できることもあるだろう。
その中で、生産性向上が見込める業務を列記する。
何を生産性向上のターゲットにするかを決めずに「生産性が上がらない」という議論は間違っている。
②出社してまでしなければならない仕事の理由を明らかにする
前提条件としてIT環境が自宅でも整備されていること、例えば
(1)リモート会議、チャットなどを介してコミュニケーションは自由にできる環境であること。
(2)開発資料、企画用の資料など文書類には可用性を持ってアクセスできること。
である。
その上で出社してまでしなくてはいけない仕事を明らかにし、それ以外の仕事に何があるのかを明確にする。
また、出社してまでしなければいけない仕事も、出社しなくても良いメカニズムにできないかを探ることが必要である。
もし、それがなければリモートワークにする必要は無い。
■人事部の仕事
どの仕事がリモートワークにできるかを明らかにしたらそれに適した人材をアテンドしなければならない。一つの仕事が終わると次何をしますかと、指示待ちでしか仕事ができない人間は除外される。なぜなら、リモートワークをこなすということは一定程度の自律的な仕事の仕方ができなければならない。時間給で働くのではなく仕事の総量で管理された仕事をこなす働き方でなければならない。さもないと、空き時間を無為にしてしまい生産性どころの話ではない。
管理職も、今のような見張っているという仕事ではなくなる。毎日の一人一人の目標管理をしなければならない。四六時中見張っていろというのではない。適切な仕事の管理をすると云うことである。
これを実現するためには労務管理のイノベーションを起こさなければならない。
誰がどんな仕事をしているのかをどのように管理するのかのシステムは、タイムカードを打刻するのとはわけがちがう。
食生活や睡眠時間、休憩の適切さも管理しなければ、体調不良を引き起こし業務が進まなくなる恐れもある。
ひと寂しくなったら「出社させ」気晴らしをさせることも必要かもしれない。定期的に経営層とのコミュニケーションを促すことも必要であろう。
事業環境は常に変わってゆく。新たなスキルを修得させるためのメカニズムも必要になるだろう。
従来の延長線上での人事管理では生産性向上は見込めない。
(2024/03/26)