■無くなる職業という誤謬
一昨年あたりから、AIの発達により無くなる職業というテーマで多くの書籍が本屋に並ぶ姿を見ている。
無くなる職業としては、一般事務員、銀行員、警備員、建設作業員、スーパー・コンビニ店員、タクシー運転手、電車運転士、ライター、集金人、ホテル客室係・ホテルのフロントマン、工場勤務者、薬剤師などが挙げられ、逆になくならない職業としてITエンジニア、営業職、データサイエンティスト、介護職、カウンセラー、コンサルタント、教師などを挙げている。
単純作業での仕事がなくなり他者と接する(個別に対応する)ことが求められる仕事は生き残るような印象である。しかし、これは間違った認識である。
なぜなら、高度にロボット化(自動化)しAIと通信技術委が発達すれば、こどもの教育において知識・技能の学習のための教師は要らなくなり、怪しげなコンサルタントなども用なしになるだろう。
■職業と業務の差
その業務の存続は、その業務の技術的な環境に依存する。社会的な環境ではない。
(電話交換手)
現在、電話などの接続にかつてのヒトが接続させるような交換機は存在しない。花形であった電話交換手は不要になり、そうした職業だけでなく仕事も存在しない。
(車夫)
馬車から自動車へ、人力車から自動車へと移行したことで劇的に御者や車夫などはいなくなった。しかし、浅草などでの観光地では人力車は存在し、馬車を観光資源としているところでは御者も存在する。ボリューム損としての仕事の量が少なくなったと言うことと職業がなくなることとは異なる。
タクシー運転手が自動運転の普及などで専門職としては少なくなったとしても「専門のドライバー」という業務がなくなるわけではない。介護職も、ロボット支援などで少なくなる事が予想されないわけではない。仕事の存続と職業の存続を混同してはならない。
■技術が自動的に価値を生み出すわけではない
結局のところ、AIも含めて技術は技術でしかあり得ず、それを活用するのはあくまでもヒトであろう。企業目標を推進する破壊的な機会を新たに生み出すという視点で、
売り上げの拡大:
AIを活用することで、企業は新しいプロダクトの開発に要する時間を短縮できる。製薬/医療/製造 (消費財、飲食料品、化学製品、材料科学) 業界は、新薬、毒性の低い家庭用洗剤、新しい香料/芳香剤、新しい合金を開発し、医療診断の向上/時間短縮を図る際に、まずAIを利用するようになる顧客エンゲージメントの向上:
生成AIは、既存のバリューチェーンとビジネスモデルを破壊し、組織がコンテンツを作成して直接消費者に配信できるようにし、出版社や配信業者といった従来の媒介者を迂回することができる。最終的には、顧客エンゲージメントが向上する。コスト削減と生産性向上:
生成AIの機能を活用して、人間による作業 (コンテンツの要約/簡素化/分類など) の強化、ソフトウェア・コードの生成、チャットボットのパフォーマンスの最適化のいずれかを行うことで、プロセスを簡素化し、迅速に成果を挙げることができるようになる。生成AIでは、従来は利用されていなかった (そのため無駄になっていた) データの活用も可能となる。
(https://www.gartner.co.jp/ja/topics/ai-strategy-for-business より引用)
と言う論点が注目されたとしても、そのための活動を企業が行わなければ何も変わらない。
そうした活動の再編の中では、社員の業務は変わるだろうが、それは最初の「職業がなくなる」とは異なる。
職種の変遷と、職業の盛衰はそうした意味では類似している。
■技術の活用での職業が不要になるわけではない
先日マイクロソフトからPC+Copilotが発表された。
その紹介の中で
・Teamsで打ち合せ中に
・言語の異なるパートナー同士の会話が
・自動的に翻訳されるので
・効率的な打ち合せが出来る
と言うようなデモがあった。
こうした自動の翻訳の例として先日目にした記事がある。
○透明ディスプレーに自動翻訳文 新千歳空港のレンタカー受付
2024/04/26
透明ディスプレーをはさんで、お互いの言葉でやりとり―。自動車リースやレンタカーを運営するオリックス自動車は26日、北海道の新千歳空港店の受付に13種類の言語に対応した自動音声翻訳システムを導入した。増加するインバウンド(訪日客)にスムーズに対応するのが目的。
https://nordot.app/1156512064025985652
さて、こうした技術支援で「通訳」や「翻訳家」が不要になると考えるだろうか。
ここで明らかなことは、「専門家」でなくとも出来る作業があり、それを技術で代替できると言うこと以上のことではない。
精度が要求されないものであればAI翻訳で十分である。一方で、企業間取引のような厳密性が高く機微なものは、お互いの文化を含めた理解の上での意思の交換であるから、機械的な翻訳では出来ない。同じように、映画や書籍の翻訳も機微なところがあり、「Yes」を「はい」「わかった」「ウン」「分かりました」では情景が異なる。
誰でもが専門家に頼めない中での代替手段としての技術である以上、その専門性を求められる職業はなくならない。
■AI監視する新たな職業
一方で、AI技術は新たな職業も生み出す。
システム関連の人間であれば、「ガベージイン・ガベージアウト」と言う言葉を知っているだろう。すなわち「ゴミ箱からはゴミしか出てこない」と和訳されるように、アウトプットはインプットに左右されると言うことである。現在話題の生成AIも学習するデータが間違ったものであれば、そのアウトプットは間違ったもの(ウソ、あるいは偏見)になる恐れがある。
直接のAI技術ではないが、加工技術の危険性は下記でも把握できる。
○ディープフェイクの技術で“改変”された衛星写真が、あなたの世界観を狂わせる
2021.06.07
動画などを人工知能(AI)で加工するディープフェイクの技術が、衛星写真の改変にも転用できることが研究で明らかになった。衛星写真に写っている建物の削除や移動、都市構造の改ざんなどが可能になることで、デマが飛び交い、本物の視覚情報までが疑いの目で見られる事態を招きかねない。
https://wired.jp/2021/06/07/deepfake-maps-mess-sense-world/
コントロールできない技術は危険であり、何らかの規制は当然であろう。
○EU理事会、AI法案を採択、2026年中に全面適用開始へ(EU)
2024年05月27日
AI法案の規制内容は、政治合意(2023年12月13日記事参照)に基づくもので、AIのリスクに応じてAIシステムを規制する。容認できないリスクを伴う用途についてはAI利用を禁止し、高リスクのAIシステムについては厳格な要件を課す。一方で、リスクが限定的なAIシステムについては透明性要件のみを課し、最小リスクのAIシステムについては新たな義務は課さない。また、生成型AIについても原則、透明性要件のみとなる。
EUは、AI規制を進めるだけでなく、米国が先行し、世界的に競争が激化するAI開発についても積極的に支援する方針だ。AI法案には、隔離された環境下に限定することで革新的なAIシステムの開発やテストなどを可能にする規制緩和策「AI規制サンドボックス」に関する規定が盛り込まれている。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/05/4a706cd3034c4706.html
AIが適正に活用されるためには、これまでに無い職業が必要になってくる。
(1)インプットの整備・AIの教育
最初に述べたように「ガベージイン・ガベージアウト」である以上、AIシステムの学習環境の整備や、適切な質問を行えるように要員を訓練する必要がある。教師が必要である。
(2)プロセス評価・法令遵守
規制に従ってAIを活用することを担保しなければならない。それはAI活用のプロセスが正しい手順で行えているかの評価業務になる。専門性と幅広いコモンセンスが求められる。これには著作権なども関わる知財管理なども含まれる。
(3)アウトプット管理
生成したAIが、適切に管理されることが必要である。改竄などの結果で最悪犯罪などに広がらないようにする責任は生成した側にも求められるであろう。
こうした、新たなAI関連技術者は今後も必須になる。ビジネスチャンスとして
①育成ビジネス
②適正運用代行ビジネス
③知財管理ビジネス
④応用分野への発展支援ビジネス
など様々な事が考えられる。
どうだろう
2024/05/30