■貴賤という視点の危うさ
ブルシット・ジョブはくそどうでもよい仕事と訳され、最近話題になった言葉であるので知っている人も多いのではないか。
原題にある”Bullshit Jobs”のBullshitは、原義は「牛糞」だが比喩的な意味ではなく、辞書での定義は「馬鹿馬鹿しい」「無意味な」「誇大で嘘な」の俗語でその意味で、一般的によく使われる言葉である。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%96
しかし、自然という枠組みでは無意味なものは何一つない。「牛糞」はスカラベの食料になり、スカラベの排出物は大地の恵みとなる。意味のないものとしているのは、人間がそこに介入するからである。
都市の道路を石で覆い、昆虫が来れない環境をつくって、馬車が通ったとの残された馬糞・牛糞を処理しなければならないとしたら、本来はしなくてもよい仕事をするという意味では”Bullshit Jobs”であろう。
しかし、それでも「無目的」な仕事などはなく、必要であるからそこに仕事が存在する。それは利益を直接生み出すものとは限らない。今ではハラスメントになりかねない「女性の仕事」に、お茶くみ、電話応対、受付など、女性固有の柔らかさを期待した死語というモノは存在した。
企業の諸活動の中で「ブルシット・ジョブ」として例に挙げられるのは「1度作っても二度と顧みられることのない書類作り」、「メールで配信すればよいのに会議用にコピーを取り皆に配る作業」という仕事も、何らかの意味はあるのだろう。
注:リストラのための嫌がらせのような仕事は除外する。
気になるのは、「自分にとってしたくない仕事」を「くそどうでもよい仕事」と片付けてしまうことの危険性である。企業内であれば、自分のしたくない仕事を拒否したり他者に押しつけたり、文句を言うことはできるが、社会の仕事はそうは行かない。
・公衆トイレなどを掃除する人がいなければ汚れがひどくなり使えなくなる
・工事現場で車を誘導するヒトいなければ渋滞・事故が起きかねない
・配達員がいなければモノが届かない
いわゆるエッセンシャルワーカーがする仕事は「ブルシット・ジョブ」ではない。
しかし、「ブルシット・ジョブ」という言葉は、仕事に対して「貴賤」を誘引する恐れがある。それが、ワーキングプアを生み出す要因にもなりかねないので心配である。
あなたにとって「くそどうでもよい仕事」はあなただけの事情である。
■仕事の進め方の問題
それでもと思う
現在ISO9001:2015という規格での審査員をしているが、とても納得できないことがある。認証を維持するための書類作りに奔走するが、それが経営の何の役にも立っていないことである。
また、IT技術者の生産性が挙がらない理由の一つに、IT技術者が会社と契約していること以外に煩わされることが多いと聞く。営業からは自分で調べることもせずに聞いてくる輩に悩まされ、出張旅費の精算は自分でやらなければならず、出張の宿や飛行機の手配なども自分でしなければならない。
「ブルシット・ジョブ」という書籍で何を指摘されているかは知らないが、「それは役に立つ仕事なのか?」と言わざるを得ないワークが多い。
しかし、これらは仕事そのもの進め方の問題でありジョブの問題ではない
どうでもよい仕事では無いと思っていることでも見方を変えればそうでないこともありうる。
かつて、駅には改札をする人が並びパンチを切符にいれている人々がいた。いつの間にか、そんな人はいなくなり、券売機も自動化した。いまでは、切符という概念も無くなりつつある。駅ネットで切符の手配をすれば、紙の媒体はどこにも発生しない。
バスなどはかつては女性の車掌さんがおり、切符の販売管理をしていた。現在は、車掌さんなどはいず、切符も乗車した地点だけの管理をし降車時に支払う。これも「無駄」な仕事であろう。
自動運転のバスになり、運転補助の人がいたとしても彼らに現金を扱わせるのはリスクであるだけでなく複雑なオペレーションを担わせることになる。これも「ブルシット・ジョブ」と考えると以下の記事の意味もまた別の視点で見ることができる。
○「キャッシュレス決済」限定のバス、11月にも運行へ…現金管理など運転手の負担軽減図る
2024/08/30
運賃の支払いをキャッシュレス決済に限定したバスの運行が11月にも全国で始まる。国土交通省が30日、バス運送の基本ルールを示す同省の標準運送約款を改正する方針だ。現金の管理には手間やコストがかかっており、人口減少で厳しさが増すバス会社の経営改善につなげる狙いがある。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240829-OYT1T50257/
■人材不足への対応の取り組み
人手がいないのであればなんとかしなくてはいけないという現実がある。
それは、今やっている仕事は「大変な」仕事という意味以上に無い場合もある。
それは、人が集まることはなく人手不足が解消されるわけではない。
自動化の取り組みは、今の過剰な仕事を「ブルシット・ジョブ」に替えてゆく潮流なのかもしれない。
○ドコモが取り組む「林業向け自動運転草刈機」、その仕組みとは
2024年8月30日
植林のコストの約半分は下刈りのコストとも言われているし、春に入社した新人スタッフは、夏の過酷な下刈り作業で林業から離れていくとも言われている。
この負担が大きい下刈り作業を効率化し、林業をサポートしようというのが今回の実証実験の目的となっている。
ドコモが参加する実証実験だが、高品質な5Gネットワークを活用するとかではなく、もともと半自動運転なので、遅延OKな構成となっている。ただし現状では、通信圏外では停止するような運用としている。停止後は、近くにいる作業者が従来型のリモコンを使って通信圏内まで操縦する必要がある。
https://k-tai.watch.impress.co.jp/docs/news/1619804.html
「ブルシット・ジョブ」などと云って、バズワードに一喜一憂すべきではない。
人がしなくてもすむのであればそうすべきであり、社会インフラを変えるべきである。
そして、どうしても必要なら、その仕事に従事する人々に尊敬とふさわしい報酬を用意すべきである。
仕事に貴賤を儲ける考え方を改めよう。
2024/09/03