世間に転がる意味不明:社員重視と事業計画の乖離(労働分配率に対する無関心)


■目標にしないのですか

しばらく前に、中小企業の経営者と経営戦略や戦略目標について議論をしていたことがある。勉強をしている方で、大企業での5カ年計画やIRなどの知見もあり、造詣の深い方であった。社員に対する情報開示を通してコミュニケーションもしっかり取っていた。もっとも、だからといって直ちに業績がよくなるわけではなく、いつも私案を巡らせていた。

ふと、「御社の労働分配率はどのぐらいですか?」と言ったら「知らない」という。労働分配率には関心が無かったようだ。

参考までに

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100
控除法:付加価値 = 売上高 – 外部購入価額
加算法:付加価値 = 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子 + 当期純利益

であり、産業別の労働分配率の目安は

2021年企業活動基本調査による2020年度の業種別の労働分配率
業種 労働分配率
製造業 51.0%
卸売業 49.7%
小売業 49.4%
飲食サービス業 74.9%
生活関連サービス業、娯楽業 72.9%
電気・ガス業 22.3%
https://www.saisoncard.co.jp/credictionary/bussinesscard/article318.html より

上記の経営者に、「では、今年度の目標に労働分配率○○%を目指す。そのために必要な売上高は○○百万円である。と宣言したらどうですか」と提案したら、一笑に付された。解せない。

■社員の処遇は二の次なのか

社員重視の経営、ES経営などという言葉が一時話題になったことがある。しかし、最近では聞くことが少なくなった。2024年春闘では賃金上昇の話題が取り上げられたが、それは社員重視というよりは人手不足という切実な問題への処方箋でしかなかった。

最低賃金の議論も、どうやったら出せるかではなく、どうやったら出さないで済むのかという視点を経営者側が持っていると感じられるような議論が多かった。「そんなに出していたら中小企業は潰れる」などと云うのは経営努力を放棄するような発言である。

こうした、まずは企業という組織を守ろうとしていると感じられるの情報としては労働分配率の低さという視点がある。そうした中で気になる記事二つを取り上げる。

○労働分配率、過去最低 大企業の賃上げ余力大きく
2024年6月3日

大企業を中心に「賃上げ余力」が大きくなっている。財務省が3日発表した法人企業統計をもとに企業の利益などが賃金に回る割合を示す労働分配率を算出したところ、2023年度は38.1%と過去最低だった。企業の利益水準は過去最高で人材の確保に向けて、どう賃金に配分するかが経営課題になる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA031CW0T00C24A6000000/

○大企業の労働分配率、昨年度は過去最低 内部留保は過去最高
2024年9月6日

国内企業の通期決算を集計した財務省の法人企業統計調査(2023年度)をもとに、記者が独自に分析した。企業が生み出した付加価値(役員と従業員の人件費、経常利益、賃借料、一部の税金や利払い費、減価償却費の合計)のうち人件費が占める割合を、労働分配率として算出した。

金融・保険業をのぞく全産業では、前年度より約1ポイント下がって52.5%となった。これは1973年度の52.0%以来の低さだ。

さらに企業の規模別に算出すると、資本金10億円以上の大企業の落ちこみが際立った。前年度より約2ポイント下がって34.7%となり、統計のある1960年度以降で最も低かった。資本金1億円未満の中小企業は、前年度とほぼ同じ66.2%だった。大企業に比べると高水準で、下がり方もゆるやかだ。

https://www.asahi.com/articles/ASS953H7JS95ULFA022M.html

労働分配率に着目した記事は少ないので注目しておきたい。

■ふたたび経営計画を考える

上場している企業のホームページを見るとIR情報として事業計画などが掲載されている。これらの資料に共通しているのは、目標として掲げるのは企業業績の拡大を主題といて、売上、利益、市場占有率、市場拡大が目につく。最近では非財務情報として人的資本開示、環境対応なども記載するが、その中に「社員の報酬をどうするか」という議論はまだ見たことがない。

労働分配率は結果であって目標ではないという姿勢が見え隠れする。
これでは、いつまでも労働者と経営者の歩み寄りはできないだろう。

2024/09/11