戦略人事:バズワード化している“ジョブ型”と言う言葉(2_2)(企業と労働者の意識のずれ)


戦略人事:バズワード化している“ジョブ型”と言う言葉(2_2)(企業と労働者の意識のずれ)

■人事制度の確認

ジョブ型であろうと無かろうと人事制度の骨格は変わらない。
目的は人的資源の最適化である。そのためのメカニズムは下記の通りである。
・量的維持
 調達 ・・・ 主に採用であり、現在は新卒一括採用と中途・キャリア採用になる。
        本来は、どの機能でどの程度必要かの戦略的枠組みで決まる。
 排出 ・・・ 自然退職、自己都合退職、早期退職制度などが関連する。
        目標としての許容できる離職率などがKPIとなる。
・質的維持
 育成 ・・・ ジョブ型であろうと無かろうと、必須施策になる。
        キャリアプランと対になり、リスキルなどもホットな話題となる
 配置 ・・・ 適材適所政策とサクセッションプラン・計画的ローテーションがある。
        長期政策の中で考えるべきであり刹那的な対応は好ましくない。
この他リスク対応として
・適正な報酬体系の確立
・ハラスメント対応、労働争議の対応などの法的対応
・適性労務管理(例えば残業規制対応、健康管理の実施)
・労働環境(清潔さ、空調、照明、騒音)の改善・維持
などもある。
これらをすべて含んでこその戦略人事であろう。
こうした中で、ジョブ型とパートナーシップ型の違いは一般的には下記の通りである。
        ジョブ型雇用               メンバーシップ型雇用
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基本概念     職務に対して人材を充てる     人材に対して職務を充てる
職務内容     明確に定義されている       職務内容や勤務条件を限定しない
評価基準     職務記述書で規定した職務内容   定性・定量問わずさまざまな
        と成果を基に評価         評価基準を鑑みて評価
給与       職務給を採用           職能給を採用
教育システム   会社単位での教育は行わない    全体に向けた研修がメイン
採用基準     職務に対して既に適したスキル   ポテンシャル採用が基本
        を持っている人材を採用
調達、育成、報酬には焦点を当てており、その中核が職務記述書であろう。
おそらくは、この職務記述書を元に配置なども考えると思われる。
しかし、これは不思議な話である。なぜならば、社員にどのような仕事をして欲しいか、どのような成果を評価対象とするかなどは以前からあったものである。今までなかったわけではなく、これを詳細化したところでパートナーシップ型との差別化はできない。
配置転換は、労働組合などがあればルールがあるであろうし、一方的な配置転換の強制は労働争議の元である。ジョブ型にすればよいわけではなく、寧ろ労働契約上に齟齬が生じかねず組織の硬直化を招く。

■同床異夢

いまだ導入されていない、あるいは伝聞だけのジョブ型人事は誤った認識を流布させかねない。
○雇用者の6割超は「ジョブ型雇用」を希望、人事評価には「成果や業績」を重視
2024/08/23
仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない「ジョブ型」を希望する雇用者が6割超となっていることが、日本生産性本部が取りまとめた第15回「働く人の意識調査」で明らかとなった。
ただし、これは誤解を生じかねない調査結果である。
(引用続き)
希望する働き方について、メンバーシップ型を「同じ勤め先で長く働き、異動や転勤の命令があった場合は受け入れる」、ジョブ型を「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」働き方として聞いたところ、ジョブ型が2023年7月調査の67.4%から64.8%に微減、メンバーシップ型が32.6%から35.2%へと微増した。
「仕事の内容」、「勤務地」、「勤務時間」といった条件を限定できる働き方が可能な場合、どの条件の重要度が高いか、優先順位を質問した。調査結果から、重要度1位に挙がった条件は「仕事の内容」が最も多く、次いで「勤務時間」、「勤務地」の順となった。
(ここまで)
すなわち、現在の働く人の不満は「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」働き方を選択できない事であり、ジョブ型雇用とは関係ない。
企業は、自社に都合のよい人材が欲しいだけであり、彼らの働き方には興味は無く、「いかに働かせるか」が人事制度の焦点である。
上記の結果は企業とそこで働く人たちの意識ギャップが明らかになっただけである。

■処方箋

人事制度の中核に「職務定義書」の明確化を据え置いたとしても「同じ勤め先で長く働き、異動や転勤の命令があった場合は受け入れる」が組織文化であれば変わらないだろうし、「仕事内容や勤務条件を優先し、同じ勤め先にはこだわらない」組織文化がなければ何も変わらない。
こうした齟齬が起きる背景には、「個人個人に最適な人事施策の確立」が疎かになっているからである。そのために、現在のように「集団」を前提とした考え方を改める必要がある。
あらかじめどのような機体をするかを伝え、不足するのであれば個人の努力を促し組織がそれを支援する。毎年のようにお互いが確認し合う。ある意味ではプロ野球のシステムが参考になるだろう。
そうした中で、下記の様な記事は参考になる。
○高校野球の強豪校からプロで活躍できる選手がちっとも出なくなった“納得の理由”
2024.8.28
「もう高校や大学の名門校卒の選手はなるべく上位では指名しない。アマ時代から、プロ顔負けのトレーニング機器や野球理論で武装しているので、即戦力的な採用はありますが、高校からプロ並みのトレーニングをしているため、球速も肩の強さも体力もマックスまで出来ていて、プロに入ってから伸びない。それに、肩や身体を酷使していて故障が多い。大エースや四番打者になるような選手は少ないことがわかってきたからです」
経験的に、特に中規模経営の中で。ジャストフィットした経験者や有能感あふれる人材などは来やしない。重視することは、自社の理念なりに賛同してくれるか、それなりに健康な心身であるかなどである。
育成などは後からいくらでもできる。
不健康であったり、当社にいやいや来たりしても長続きしない。
賃金につられても「金の切れ目が縁の切れ目」である。
一人一人に向き合い、彼の人生の中に自分の会社を混ぜてもらうことである。
ジョブ型人事は解決策にならない。
(2024/09/19)