戦略人事:禍福はあざなえる縄のごとし(リストラの副作用としての人材の流動化)
■魅力の無くなってきている企業への就職
たいしたことが無いとスルーするわけには行かない記事を見た。
○大卒3年内の離職率、34.9% 16年ぶり高水準―厚労省
2024年10月25日
厚生労働省は25日、2021年春に大学を卒業し、就職後3年以内に離職した人の割合は前年比2.6ポイント上昇の34.9%だったと発表した。上昇は3年連続で、05年春卒(35.9%)以来、16年ぶりの高い水準となった。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024102500719
マクロデータを眺めれば3年内離職率は、中卒・高卒・大卒で70%、50%、30%で753と言われており、大きく変わらない。企業によっては差が出るが代替この数字だ。これが、0.5%とはいえ上回る傾向が続いていることは人事部門は気にかける必要がある。
100人採用して35人が3年以内に離職するのである。採用コスト、育成コストが馬鹿にできない。
しかし、これはなぜなんだろう。
よく云われるのが、ミスマッチと言われる。
就職する側は、「こんなはずではなかった」ということなのだろうがそれは仕方ない。
会社側は面接する際に「職業観・仕事観・キャリア観」を重視すると言うが、20歳を少しすぎた程度では、それを確立している人はそんなに多くない。
○多くの20代若手社員は“職業観・仕事観・キャリア観”を持っていない? 「そもそもよくわからない」、「考える機会がない」との声も
2022/11/14
20代の若手社員は、自身が「どのように働くか(自分の働く目的・譲れないもの・価値観)」という“職業観”や“仕事観”、「どのように働き続けるか(中・長期的継続性を持った目的・譲れないもの・価値観)」という“キャリア観”など、自身の価値観を持っているのだろうか。はじめに、リ・カレントが「自分の仕事観を持っているか」を質問した。すると、「誰かに語れる明確な形で持っている」が11.2%、「語れるほどではないが持っている」が36%で、合計47.2%が仕事観を持っていることがわかった。他方で、「考えたことはあるが固まっていない」が28%、「持っていない」が24.9%となった。
https://www.hrpro.co.jp/trend_news.php?news_no=2042
思いのほか“職業観・仕事観・キャリア観”を持っている一が少なく、そうしたヒトがいったん離職することはあり得るだろう。彼らは新天地を見つけられるだろうか。本来は、企業側も関わって欲しいがそうはならない。
■リストラする不誠実
2024年秋。昨年来から、業績がよかろうが悪かろうがリストラのニュースが続いている。
○富士通、間接部門の幹部に早期退職募集…組織再編で余剰人員を削減
2024/10/31
富士通は31日、早期退職の募集を行ったと発表した。総務や人事といった間接部門の幹部社員が対象で、応募人数は非公表。応募した社員は原則、同日付で退職したという。
組織再編で重複する業務が生じ、余剰人員を削減した。人材の最適配置や生産性の向上を図り、成長事業と位置付けるデジタル関連サービスに経営資源を集中する。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20241031-OYT1T50166/
しかしリストラされた人々はどうなっているのだろう。これだけリストラのニュースが続いているなら何かしらの統計データに影響が出ているかと思えばそうでもない。
○失業率9月は2.4%、8カ月ぶり低水準 有効求人1.24倍に小幅上昇
2024年10月29日
政府が29日発表した9月の雇用関連指標は完全失業率が季節調整値で2.4%と、前月から0.1ポイント改善した。2カ月連続で低下し、今年1月以来8カ月ぶりの低水準となった。リストラや倒産などの「非自発的な離職」が減少した。有効求人倍率は1.24倍で前月から0.01ポイント上昇した。
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/EZBQNGWSFBKZ7A7R7VFGJV5AMU-2024-10-28/
だからといって気軽にリストラすることは密かなリスクを生み出してゆく。
○大企業で退職者増加が顕著に、「一番流出している人材」の年齢層は? 調査結果が明かされる
2024/10/22
今回の調査では、全体の58.8%の企業が、直近1年で退職者が増加していると回答。
この傾向は、企業の規模が大きくなるほど顕著で、従業員数3,000名以上の大企業では、73.3%が退職者増加を実感している。かつては一社で勤め上げることが一般的であった大企業において、転職による退職が増加していることが背景にあると同社は推測する。
大企業ほど「入社5~10年の新卒入社者」と「管理職・役職者」が多いという結果で、特に「入社5~10年の新卒入社者」は、他の規模の企業に比べて63.6%と高い割合を占めている。
ビズリーチ WorkTech研究所 所長 友部博教氏は「今回の調査により、雇用の流動化の影響が企業内でも顕著になりつつあることが明らかになりました。そのため、企業は『社員に選ばれ続ける』ための組織運営を一層強化する必要があります。もちろん職場環境や待遇などに明確な問題があり、それが退職要因となっている場合は見直すことが必要です。しかし今後は、個人のキャリア自律が進むにつれて、特に不満がない場合でも将来のキャリアを見据え、離職するケースが増加すると予想されます」とコメントする。
https://news.mynavi.jp/article/20241022-3049685/
リストラに際しては、再就職支援と言うが形ばかりであろう。
本当の意味で人材の流動化を考えるのであれば、業界全体での人材の在庫管理をする仕組みを作るべきである。A社で居場所がない人々がB社で活躍できるかどうかを探索するメカニズムがなければ単なる放出にしか過ぎない。
■見捨てられる企業
非正規社員への傾倒が進んでいるというが、実際はその比率は安定化してきているというデータもある。これは何を意味しているのか。
難しい問題ではあるが、自らの意思で非正規社員という立場にいる層が一定程度おり、ある程度の生活がまかなえるのであれば、彼らにキャスティングボードが渡ると言うことである。
それを予感させる記事もある。
○「仕方なく非正規で働く人」は確実に減っている…データが示す「低賃金でこき使う企業」が淘汰される未来
大学卒の初任給は19.1万円→21.1万円に上昇
2024/10/27
過去、社会を大きく揺るがした非正規雇用問題。1990年代後半から2000年代にかけて、自らの意思に反して非正規雇用という働き方を余儀なくされた労働者が多数発生した。
しかし、現代の状況は過去とは打って変わっている。非正規雇用という働き方は、もはや正規の職がないから選ぶ仕事ではなくなっているのである。
・非正規雇用者は過去からずっと右肩上がりで増加してきたが、近年ではやや減少傾向に転じている。
・現在の非正規雇用者の労働市場を概観すれば、不本意非正規が急速に減少しつつ、それと同時に女性や高齢者など自らの意思で短い労働時間で働きたい人が増えているという状況が近年の潮流である。
https://president.jp/articles/-/87441
これは2024年問題で人手不足問題に苦しむ企業に追い打ちを欠けるかもしれない。
目の前ににんじんをぶら下げても見向きもされないこともあり得る。
○西松建設、大卒初任給30万円 24年問題で10%超賃上げ
2024年10月24日
西松建設は2025年4月に入社する総合職の大卒初任給を3万5000円引き上げ、前年度比約13%高い30万円とする。増額は3年連続。4月から基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)と定期昇給(定昇)で平均10%超の賃上げを実施する会社方針も決めた。24年4月から設けられた残業時間の上限規制を受け、深刻化する人手不足の緩和を狙う。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0861I0Y4A001C2000000/
こうした短絡的な施策は自らの首を絞めかねない。
2024/11/04