戦略人事:嵐の中の人事制度(生産性を無視する安易なリストラの行き着く先)


戦略人事:嵐の中の人事制度(生産性を無視する安易なリストラの行き着く先)

※引用記事が多いよ

■2024年の戦略人事に関わる話題

2024年の人材マネジメント関係のニュースで取り上げられるのは一点目は春闘で賃金アップが騒がれたが、数%では手取りの実感はわかないだろうに誇らしげに報道する姿勢だろう。

○今年の賃上げ率は平均4.1% 過去最高を更新 厚労省調査
2024年10月28日

厚生労働省が28日に公表した2024年の賃金調査で、1人あたりの平均賃金の引き上げ率は、前年より0.9ポイント増の4.1%となり、比較可能な1999年以降の最高を更新した。労働組合がない中小企業にも賃上げが広がっているが、大手との差はなお残る。

https://www.asahi.com/articles/ASSBX2JS6SBXULFA00JM.html

二点目は2024年問題に端を発した人手不足であろうか。上記の記事も元を正せばこの人手不足に端を発している。2024年問題とは簡単に言えば残業規制であり、今までと同じ生産性では必要な業務量をまかなえないので仕事のやり方を変えろという文脈なのだが、ほとんどの企業が手をこまねいている。元々は、猶予期間があったのだが何もしなかったために建設業や運送業・運輸業で深刻になっている。しかしその対応がお粗末なのは周知の通りである。

○建設業の2024年問題、「未対策」が7割超 社員100人以下の工事会社で
2024年10月09日

クラフトバンク総研は、社員数100人以下の建設工事会社を対象とした「建設業の2024年問題と人手不足に関する動向調査」の結果を発表し、時間外労働の上限規制に対して、7割以上が「未対策」の状況にあることが分かった。

https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2410/09/news175.html

三点目は大規模なリストラの進行であろう。
業績が悪くなれば簡単に早期退職制度という名のもとにベテラン社員を斬り捨ててゆく。

○第一生命HD、希望退職1000人募集 50歳以上が対象
2024年11月14日

第一生命ホールディングスは14日、第一生命保険で1000人の早期希望退職者を募ると発表した。50歳以上で勤務期間が15年以上の社員などが対象になる。2025年1月20日から31日まで募集する。受理されれば25年3月末付での退職になる。退職金に加えて基本給の最大48カ月分の支援金を支払う。再就職も支援する方針だ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB146DE0U4A111C2000000/

■歯止めが利かないリストラの動き

人員調整は、今までの計画では利益が出せないために経営資本(ヒト・モノ・カネ)にゆがみが生じるのでこれを調整する行為であり、これを人的資源に頂点が当てられているので理解はできる。しかし、それにしても安易である。

最近のニュースでは自動車業界が目につく。
特に日産は目を覆うばかりである。

○日産、北米従業員6%が希望退職 リストラ策の一環で
2024年11月21日

日産自動車は21日、北米法人で2024年4〜9月期に募集していた希望退職に対し、従業員の約6%が応募したことを明らかにした。詳細な削減人員は公表していないが、900人程度とみられる。日産は業績回復へ向けて全世界で9000人規模の人員削減を実施する方針で、今回の希望退職はその一環となる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC214VQ0R21C24A1000000/

もっとも、かつてのビッグスリーといえども例外ではなく、EUも安穏としていられないのだろう。

○GM、米などで約1000人削減 業務効率化で
2024年11月18日

届け出によると、削減にはミシガン州ウォーレンの技術センター従業員507人が含まれる。
8月には、ソフトウエア部門の合理化に伴い1000人超を削減。9月にもカンザス州の製造工場で約1700人を削減している。
2023年には正規従業員約5000人が早期退職を受け入れた。

https://jp.reuters.com/business/autos/BPW6KJ5V2RNNDNDTQVM7WBW5UM-2024-11-18/

○フォード、欧州で4000人削減 新型EVは減産
2024年11月22日

米フォード・モーターは20日、2027年末までにドイツと英国で4000人の人員削減を実施すると発表した。世界の従業員の約2%に相当する。ドイツの電気自動車(EV)補助金停止に伴う販売減や中国勢との価格競争が背景にある。欧州ではドイツなど現地勢だけでなく米国勢でも販売不振が深刻になっている。

https://www.nikkei.com/prime/mobility/article/DGXZQOUC2113F0R21C24A1000000

○独ボッシュ5500人削減 自動車業界でリストラ拡大
2024/11/23

ドイツの自動車部品大手ボッシュは22日、世界で中期的に約5500人の人員を削減する計画を発表した。自動運転の普及や電動化への移行が想定よりも遅れ、人員の余剰が生じたため、合理化を進める。大手自動車メーカーも工場閉鎖や人員削減を相次いで表明しており、業界でリストラが広がっている。

https://nordot.app/1232813330785747916

○VWが工場閉鎖撤回せずスト不可避 第3回労使交渉
2024年11月21日

自動車大手ドイツのフォルクスワーゲン(VW)の第3回労使交渉が21日、独北部で開かれる。組合側が賃上げ実施の先延ばしなどによるコスト削減で工場閉鎖や人員削減を回避する対案を提案したが、経営陣はリストラ計画の撤回に応じないとみられる。12月以降の大規模ストライキは避けられず、長期混迷が必至な状況だ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR215JT0R21C24A1000000/

■リストラのパターンと影響

リストラが経営資本(ヒト・モノ・カネ)のゆがみの調整の一環であると述べた。
その原因となるのは、業績不振に伴う余剰人員(再配置ができる余裕がない状況)の解雇、事業構造の変化に伴う部門再編に伴い能力不足の人員整理、事業ミッションの変化に伴う要員の能力要求の変化など様々である。

したがって、下記の様な理屈づけは分からないでもない。

○人事制度改革に乗り出した日本生命の「危機感」、運用に加え、海外・介護に事業領域が広がる中
2024-11-19

「労働マーケットが大きく変わっている。人口減少、人材の流動化が進み、働くことへの意識も変わっている。そこに敏感に対応していかなければ、従業員に選ばれる会社になっていかない」 ─こう危機感を見せるのは日本生命保険常務執行役員(人事部門担当)の中村吉隆氏。

日本生命は今、2026年度までの中期経営計画の中で、長期的に目指す姿として「安心の多面体」を掲げている。米国の生命保険会社への出資などを含む海外事業、ニチイホールディングス買収による介護事業、企業や保険者の健康増進を目指すヘルスケア事業など、事業領域がさらに広がっている。

そのため「幅広い領域での高度な専門人材を確保していかなくてはいけない。事業戦略に則した人事戦略にしていかなくてはいけない」(中村氏)と考えた。

https://www.zaikai.jp/articles/detail/4546

しかし、こうしたリストラでは「能力の再開発」(リスキル)が配慮されることはなく、ことばはわるいが「人材の使い捨て」が横行しているように見える。

しかし、再び業績が回復したときに旧の能力でもできる仕事が増えても熟練者がいなければ結局再教育・再訓練が必要になり、教育投資が必要であり一定程度の生産性の低下に甘んじなければならない。

また、新たな能力を持つ人材が必要になったとしても十分な数はそろえられないだろうから、社外からの調達になる。しかし、当然採用コストは会社への負担になるだろうし、仕事ろいうものは組織文化と密接に関わる。それになじむまでの熟成期間が必要であり、やはりその間の生産性低下は余儀なくさせられる。

経営資源でゆがみが生じるからと言って安易に整理解雇に踏み切ることは、長い目で見れば生産性低下を招き、結局のところ組織の力を低下させる。

雇用を守れは社員のためではない。組織自体の体力を維持するなら考えなければならないテーマである。安易にリストラに走る経営者に経営を語る資格はない。

■人事部門の責任

上記の記事で

「幅広い領域での高度な専門人材を確保していかなくてはいけない。事業戦略に則した人事戦略にしていかなくてはいけない」

とある。しかし、それはどのような人事戦略であろうか。そしてそれは人事部門が作ることができるのだろうか。これが問われる。

人事部門が「上から降ってくるのを待っている」だけのスタンスであれば、将来は、そんな人事部門はアウトソースすれば良くなる。自らが戦略的思考を身につけなければ生きる道はない。

激しく変わる経営環境の中で旧態依然とした人事制度では生き残れないのだから。

2024/11/25