■評価できない活動
否定しているわけではない。どう評価して良いか分からないのだ。
○ 障害者雇用ビジネス 1583社が利用
2025年1月21日
厚生労働省はこのほど、いわゆる障害者雇用ビジネスの実態把握の取組みについて公表した。
2024年11月末時点で、39法人が農園などの就業場所で障害者の業務を提供。少なくとも利用企業数は1583社を数え、9355人以上の障害者の就業を確認している。うち333社の社名を特定しており、さらにこのうち64社に対して事業所訪問などを行っている。
本来の法律の趣旨から言えば、その企業が持つ企業活動の枠組みに障害者も参画させ、彼らの社会的な自律と尊厳を取り戻すと言うことがあると思っている。それはかわいそうだからと言う慈善事業にとどまることを否定し、共生社会の中でどのように企業価値を上げてゆくのかのリトマス試験紙なのだと思う。
しかし、こうした「丸投げ」は面倒事は「考えたくない」と言うことにつながる。
考えることを辞めることにならないのだろうか。
その背景を少し考えてみる。
■人手不足と企業の邪な思い
現在、2024年問題に代表されるように人手不足問題が話題となっている。これは、タクシー業界をはじめとした運送業界、飲食や宿泊などのサービス業にまで拡大している。当然、製造業でも例外ではなく、いずこも同じように人手が足りていないと聞く。
中小企業にとっては人手不足は仕事を受けられない(失注)につながり、業績(売上減少による)悪化を招き、倒産につながることになりその数も増えているようである。
大手の企業であっても無視できるはないではなく、買い負けないようにと初任給アップなどで対策を講じている。しかし、一方で大手は早期退職などで不要な人材を排除することを厭わない政策を展開している。
此処で誤解があるのが、人手不足と言っても、その人材には条件があることである。それは、企業原理とも関係する。
企業は利益の創出を優先するために、業務プロセスに能率(時間ないん仕事が終われること)と効率(同じリソースからより多くのアプトプットを出すこと)を求める。そのための人材は、きわめて優秀であるか、安くて言うことを聞く健康な人間であるかのいずれかである。
そんな都合の良い人間が転がっているわけもなく、当然人手不足はそこに由来する。
■独占欲の向こう側
なぜこうした都合の良い人材ばかり求めるのかと言えば、富を独り占めしなければ生き残れないという独占欲が経営者やそこに関わる人々に蔓延しているのではないかと考えている。
これは富を得るためには何をしても良いと言う発想になり、不正に関しての鈍感さにつながる。ここ数年起きている、企業不祥事の根幹であろう。また、粉飾決算や下請法違反、各種の法令違反などもその根幹はこうした強欲がもたらすものである。
企業が法人という枠組みで活動をするのであれば、当然道徳的な常識をその内に持たなければならない。社会の公器としての自覚が必要である。そのための最初の一歩は、ステークホルダーの理解である。
企業であれば、生産活動に関わる員や関係する協力会社、財務的には銀行や投資家、材料や設備であればサプライヤー、購買先としての顧客企業や市場、そしてその先にいる市民、市民生活を支える行政や自然などの社会、そして広くは世界を視野に入れなければならない。
そうした中で富の独占や自己中心的な言動をすればコンフリクトが生まれ、世界的な規模では地域紛争・戦争の火種が生じる。そうしたコンフリクトは容易に自身の活動に跳ね返ってくることになり、味方のいない世界で右往左往する。
■循環する世界
「健康で、若く、会社の言うことを聞く」人間を量産することに戦後邁進してきた。幼稚園から小学校、中学校と。「先生の言うことは聞きなさい」「親の言うことは聞きなさい」「答えが決まっているテストで100点を取りなさい」と教育されてきたことを忘れてはならない。
そうした中で、弱者は社会から除外される傾向がある。
本来、障害者雇用については、「障害者等の希望や能力を活かした就労支援を推進し、障害特性等に応じて活躍できることが普通の社会、障害者と共に働くことが当たり前の社会を目指していく必要がある。」とされている。これが有名無実化しかねない、安易な取り組みについては評価ができないというのが先頭の言である。
現在障害者雇用は、法的な義務、社会的な責任の履行、公共理念としての共生か社会(多様性を受け入れる社会)と言った枠組みで語られる、
しかしこれが有名無実化していることは企業にいる人々は分かっているはずである。したがって、良心に訴えるような発言だけでは無理があるのではないかと考えている。
企業が安定と成長を求めることは否定できない。合理的な経営であれば、優れたヒトモノカネという経営資源の渇望は理解できる。したがって、そこに焦点を当ててはならない。
最終消費者がいる市場に目を向けることで一つの指針で浮かんでくる。
1点目は市場の購買力の強化である。
障害者を含む弱者がまっとうな報酬を受け取れる枠組みを作れば当然、市場購買力は強化され、これがいつかは自社に戻ってくる。そうした循環を意識すべきであろう。
2点目は弱者向けの製品作りは当然「使いやすさ」が前提である。非力を補うパワースーツ、AIを用いた義手・義足は高齢者向け、あるいは女性向けのサポート機器の開発につながるかもしれない。スマートグラスや補聴器型翻訳機、あるいは自動運転の高度化などにも応用できるだろう。その時に、障害者をモニターとして雇うという選択肢も出てくるだろう。
彼らが社会に参加できるような循環型ビジネスモデルは容易に考えつく。
目先のにんじんだけに目を奪われないことを企業経営者に望む。
2025/02/09