世間に転がる意味不明:地政学的リスクを生み出す新たな要素(ポスト・トゥルースの向かう先)


■憶測を流布する人々

2025年早々に大統領という職に就任したトランプとこれを支える人々の言動には危うさを感じる。それは「客観的事実に基づかない」言動である。これを置くメモなく行なっている人々がいる。イーロン・マスク氏もその内の一人なのだろう。

○MAGA、カリフォルニアの山火事をDEIのせいにする
2025.01.14

イーロン・マスクやドナルド・トランプ次期大統領をはじめとする人々は、ロサンゼルスの山火事が、無降水や気候変動ではなく、民主党が推進する「woke」な政策のために悪化したのだと主張した。

トランプの信頼者で兆億万長者のX所有者イーロン・マスクも、山火事の原因について偽情報を拡散するために自身が所有するプラットフォームを利用し、陰謀論を展開した。

マスクはさらに過激な理論も支持した。超陰謀論者のアレックス・ジョーンズが、火災は「米国の脱工業化計画の一環として仕組まれた、経済戦争を仕掛けるグローバリストの陰謀」の一部だと主張する投稿をした際、「その通り」と応じた。この投稿は現在削除されている。

https://wired.jp/article/maga-blaming-dei-california-wildfires-conspiracy/

彼らの主張には、裏付けとなるデータを想像することはできず示されてもいない。結果だけをありきとして、しかもそれも「感情的」であり「合理性」もない。こうした言動は、下記の様に使われるものであり、当然肯定的には捉えることができない。

1.デマ(Disinformation / Misinformation)
 ・Disinformation(偽情報):意図的に誤った情報を拡散すること。
 ・Misinformation(誤情報):誤った情報を意図せず拡散すること。
2.プロパガンダ(Propaganda)
 ・政治的・イデオロギー的な目的を持ち、特定の主張を強調したり、事実を歪めたりする情報発信。
3.ポスト・トゥルース(Post-truth)
 ・客観的事実よりも感情や個人的な信念が世論に影響を与える傾向を指す。
4.レトリック(Rhetoric)
 ・特定の目的を持って印象操作的な言葉を使う手法。特に、扇動的な場合は デマゴギー(Demagoguery) と呼ばれる。
5.陰謀論(Conspiracy Theory)
 ・証拠のない疑惑をもとに、世界の出来事を特定の集団や勢力の陰謀として説明する考え方。
6.スケープゴーティング(Scapegoating)
 ・本来の原因とは異なる対象(この場合、DEI政策)を「戦犯」として責め立てる行為。

■ポスト・トゥルース(Post-truth)

ポスト・トゥルースは聞き慣れない言葉なのでGoogleで検索すると以下のような説明に出くわす。

 「ポスト・トゥルース(Post-truth)」は、2016年にオックスフォード辞典の「Word of the Year(今年の単語)」にも選ばれた言葉で、特に政治の文脈でよく使われる。
これは、「客観的な事実が軽視され、感情や個人的な信念が世論を形成する上でより影響力を持つ状態」を指す。例えば、事実に基づくデータよりも「◯◯だから私たちは危機に瀕している!」といった感情的な訴えが支持を集めやすくなる状況が該当する。
ポスト・トゥルースの時代には、人々が「自分にとって心地よい真実」だけを信じ、異なる意見を「フェイクニュース」と片付けてしまう傾向が強まると言われている。この傾向が強まると、議論や対話が成立しにくくなる。
(ここまで)

2016年はトランプが大統領に就任した年であり、かれが事実に無関係に人々を中傷したことは記憶に新しい。かれはその手法を今でも使っている。

•トランプ陣営は「フェイクニュース」という言葉を広め、従来のメディアを敵視しながら支持層を結束させました。(蒸気の検索結果の付帯情報)

こうしたことの帰結は、事実を前提とした議論をないがしろにしてしまうことになる。
感情に基づく意思決定は、理性的な判断を後ろに追いやり短略的な政策決定や最悪は戦争にもつながりかねない。

厄介なのは、そうした政策の結果が出てくるのがすでに手遅れになっていることが多いと言うことだ、

例えば、下記の評価がある。

•ブレグジット推進派は「EUを離脱すれば国民保険(NHS)に週3億5000万ポンドを投資できる」といった根拠の薄い主張を展開し、結果的に事実ではないと判明しました。

こうしたセンセーショナルな物言いは考えない人々にとっては心地よく、無責任な拡散を行なう。起きたことの責任をとることもない。

■経営への影響

経営環境は常に変動し、また市場を構成する消費者の行動を予測することも難しい。そうした中での意思決定に必要な情報がすべてそろうわけではない。しかし、情報の質を問うべきである。ポスト・トゥルースに基づく情報は、それとは分からずに提示されることもある。ブレグジットなどはその典型であろう。情報は常に不完全で欠落している。

地政学的リスクも厄介な問題になりつつある。関税の問題や政権交代における国策の変更などはある程度予想ができる上に一定程度の猶予がある。紛争にしても、ある意味小競り合いなどから進行するので対応する時間がある。しかし、ポスト・トゥルースに基づく政策決定は合理性に乏しく、またその結果が予測しにくい。

従って意思決定には常にリスクが伴う事はこれ以上に配慮すべき事項になる。
プランBを持ち、いつでも撤退できる準備も必要である。それができない施策はできれば辞めた方が良い。「ここまできて辞められるか」に付き合わされたらたまったものではない。

■参考:客観的事実に基づく意思決定

私はISO9001の審査員をしている。規範としてはこれを準拠するようにしているので関連する事項を下記に示。

「客観的事実に基づく意思決定」は品質マネジメントの原則の一つで下記の説明がされる。

2.3.6.1 説明
データ及び情報の分析及び評価に基づく意思決定によって,望む結果が得られる可能性が高まる。
2.3.6.2 根拠
意思決定は,複雑なプロセスとなる可能性があり,常に何らかの不確かさを伴う。意思決定は,主観的かもしれない,複数の種類の,複数の源泉からのインプット,及びそれらに対する解釈を含むことが多い。
因果関係,及び起こり得る意図しない帰結を理解することが重要である。客観的事実,根拠及びデータ分析は,意思決定の客観性及び信頼性を高める
(ISO9000:2015より)

もちろん、未来の予測が難しい経営判断においてはどこかで「勘と経験と度胸」という色彩があっても仕方がないかもしれないが、それは説明力がなく得られた結果も蓋然性のない説明となり同じ事態に陥ったときに何をすべきかの指針にもならない。

信頼の置けないリーダーに組織を率いる資格はなく、危険でさえある。

2025/02/26