ISO9001と経営:気候変動に関する追補版(気候変動と多様性)

ISO9001と経営:気候変動に関する追補版(気候変動と多様性)

政治ネタも多く含みます。事実確認はしていないので注意してください。


■先義後利

企業は単に利益を出すだけで良いという考え方には賛同できない。
企業は、その存在意義を起業理念に宿し、その前提は「社会に貢献すること」「社会の規範となること」があると考えている。

ISO91001での議論として「法令遵守は当然のこととして」という言葉をさらに拡大して考えると「社会が求めることを守ることは当然のこととして」という文脈も重視される。

■ISO9001にかかわる動向

ISO9001に関わる関係者にとってはすでに知られていることだが、2024年2月に気候変動に関する追補版が発行された。

4.1 組織は、気候変動が関連する課題であるかどうかを決定しなめればならない。
4.2 注記:関連する利害関係者は、気候変動に関する要求事項を持つ可能性がある。

要求事項全体に関する追加の要求事項ではなく、従来の「内部および外部の課題」に対する明確化と位置づけられている。

とはいえ、環境マネジメントシステムは「法令遵守と汚染防止」を、品質マネジメントシステムは「法令遵守は当然とした上での顧客要求事項の実現」である以上、法律上の要請以上のことを企業に求めると言うことは個別企業の事情に依拠することになるために一律の要請にはなり得ない。

にもかかわらず、こうした「気候変動」という、一企業では簡単に扱えない地球規模の話を持ち出すという何を意味しているのだろうか。

■相反する利害関係

近年の経済活動は国境を越え、ますますその規模を拡大している。規模の拡大はその影響範囲を広げ。地球温暖化はその典型であろう。経済活動は、様々なゆがみを生じさせ、それを憂う人々はこれへの警鐘を鳴らしている。これに応える一つの活動がSDGsになるだろう。

環境問題への対応は、それ自体が企業価値を生み出すという価値観を浮遊している人々もおり、投資家なども敏感に対応している。化石燃料を配慮しない企業に対し投資を行なう銀行へも非難の矛先を向け、投資の引き上げなどで圧力をかける動きなども報道されたことがある。

こうしたSDGsには単に気候変動だけでなく、社会の構造自体に目を向ける項目がある。その一つは多様性である。

参考:Google Search Labs | AI
SDGs(持続可能な開発目標)においては、多様性(ダイバーシティ)は「誰一人取り残さない」という基本理念を支える重要な概念です。SDGsを達成するためには、多様性の実現が不可欠とされています。
多様性とは、ある集団において性質の異なる群がともに存在することを指します。表層的な多様性としては、年齢や性別、人種、国籍などが挙げられます。また、深層的な多様性としては、能力や経験、知識、宗教、パーソナリティなどが挙げられます。
多様性を受け入れる社会の実現には、多様な人材がお互いに認め合い、受け入れ合う機会と風土を作り出すことが重要です。企業においては、全社員による意識改革や誰もが安心して働ける環境の整備、多様な人材の積極採用などに取り組むことで、定着率の向上や企業のイメージアップ、イノベーションの創出といったメリットを享受できます。
SDGsには「多様性」というゴールはありませんが、「2030アジェンダ」には、生物多様性や遺伝的多様性、自然や文化の多様性、民間セクターの多様性、産業の多様化といった表現が繰り返し登場しています

一方で企業側は対称的な行動をする。
一つは、企業の利益(あるいはリソース)を損なうので無視すると言う立場と、それが企業価値(あるいは企業競争力を有無)という立場であろう。

■自分第一主義の向かう先

利益を創出する一番簡単な方法は法律を守らないことである。法律を守ることは狡をして他社を出し抜くことはできなくなるから、ほとんどの企業はこれを虎視眈々と狙っているのではないかと思うような事件が多発している。金型の無償保管などはその一つであろう。

地球温暖化などへの対応も堅調な例であり、不動産業者のトランプ大統領は「温暖化などは幻想」だと言わんばかりにその影響力をばらまいている。

○ 米、多様性の取り組みが曲がり角 政策転換で企業のDEI後退
2025/01/20

米国のトランプ新大統領は、バイデン政権が進めた多様性・公平性・包括性(DEI)を重視する政策を転換する。保守派はDEIへの配慮が実力主義に反すると主張。政治の動きに敏感な企業はトランプ氏の当選後、DEIを相次ぎ後退させており、取り組みが曲がり角に差しかかっている。

https://nordot.app/1253959166033150049

企業側も、そうした活動は直接に利益を生むわけではないので、これ幸いと尻馬に乗っかるのだろう。目について記事を下記に示す。

まずは銀行系であろうか。

○米大手銀行、温暖化の国際枠組みから撤退 邦銀は動揺
2025年1月8日

脱炭素をめざす国際的な枠組みから米国の大手金融機関が相次ぎ脱退している。7日には米大手6行のなかで唯一残っていたJPモルガン・チェースも離脱を表明した。気候変動対応に後ろ向きなトランプ次期米大統領の就任を20日に控え、政治的な配慮を優先した格好だ。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB080Q70Y5A100C2000000/

続いて投資会社だろうか。

○ブラックロック、気候変動対策グループ脱退-米大手行に続く動き
2025.01.10

米資産運用大手ブラックロックは9日、気候変動対策を目的とした世界最大の投資家グループ「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAM)」から脱退すると明らかにした。同社は地球温暖化に関する取り組みを巡り共和党から批判されていた。

ブラックロックは、保守派が「ウォーク(社会正義に目覚めた)」と呼ぶ方針をとっているとして、共和党議員から攻撃されてきた。最近では、石炭生産を抑制する戦略を採用しているとされ、反トラスト法(独占禁止法)でテキサス州などから提訴された運用会社に名を連ねた。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/1659569?display=1

こうした企業群は、行動原理は「利潤」であり、一般消費者は顧客ではない。
従って、何らかの法規制がなくなればたがが外れるであろう。

■長期戦略の視点

こうした。利潤市場主義は「自国第一主義」と相性が良く、短期的には出て行くお金が減るだろうが、長期的視点に立てば機会損失につながることもあり得る。そうした視点を持つ起業もある。

○JPモルガンとゴールドマンのCEO、「DEI」排除の動きに反発
2025.01.23

インタビューは世界経済フォーラム(WEF)年次総会が開かれているスイスのダボスで行われた。

ダイモン氏は「われわれは黒人やヒスパニック、LGBTら性的少数者、退役軍人のコミュニティーに今後も手を差し伸べ続ける」と語った。

一方、ゴールドマンのデービッド・ソロモンCEOはCNBCとの別のインタビューで、具体的な株主提案は見ていないが、同行は顧客が何を求めているかに配慮しており、「顧客との対話といつも通りの業務遂行を引き続き重視している」と話した。

20日のトランプ大統領就任式に先立ち、ウォルマートやメタ・プラットフォームズなど米国を代表する大手企業が自社のDEIプログラムを縮小する計画を相次ぎ発表。反DEIアクティビストのロビー・スターバック氏からの圧力に直面したウォルマートは、「全ての従業員と顧客、サプライヤーに帰属意識を育み、チャンスへの扉を開く」ための変更だと説明していた。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/1684207?display=1

○米アップル取締役会、多様性プログラム廃止案への反対を株主に呼びかけ
2025年1月14日

アップルには、米保守系団体の「全国公共政策研究センター(NCPPR) 」が、DEIに関する方針を廃止するよう求めている。「訴訟、風評、財務上のリスク」につながるというのが理由。

NCPPRの提案は、来月25日に開かれるアップルの年次株主総会で、投票にかけられる予定となっている。

アップルの取締役会は、同社には適切な抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)があるとし、NCPPRの提案は不要だとしている。

https://www.bbc.com/japanese/articles/cdjd38y0dr7o

○米アップル取締役会、多様性プログラム堅持を株主に推奨 DEI離れに追随せず
2025年1月13日

米IT大手アップルの取締役会は株主に対し、来月末に開かれる株主総会で「多様性・公平性・包括性(DEI)」プログラムを打ち切る提案に反対票を投じるよう推奨した。米国ではマクドナルド、フォード、ウォルマート、メタなど大手企業の間でDEIプログラム離れの動きが相次いでいるが、アップル取締役会はそうした流れに追随しない姿勢を打ち出した形だ。

https://www.afpbb.com/articles/-/3557812

■短期戦略のデメリット(信頼の喪失)

先に、目先の利潤というメリットをあげたが、幅広い市場を相手にしている企業は信頼と言うことも配慮すべきであろう。

下記の記事を参照して欲しい。

○マクドナルド「多様性目標」を縮小へ…最高裁判決の影響広がる
2025年1月8日

マクドナルドは月曜日、米国最高裁判所が大学入試におけるアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)を違法とする判決を下した後の法的および文化的環境の変化を受け、一部の多様性・公平性・包括性(DEI)施策を縮小すると発表した。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2025/01/531687.php

これが通常の経営判断なら良いが、一政治家の発言で左右されるとしたら、顧客から信頼されるだろうか。

○マクドナルド、多様性・公平性の目標廃止 トランプ氏の姿勢も背景に
2025年1月8日

米国の外食大手マクドナルドは6日、多様性や公平性の確保に向けた目標を廃止すると発表した。米企業の間では、DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みが縮小していて、保守系の活動家らの圧力や、トランプ次期政権がDEIを否定する姿勢を見せていることが背景にある。

マクドナルドはこれまで、2025年までに世界で管理職に占める女性比率を45%、人種的・性的少数者の比率を30%に引き上げることなどを掲げていたが、数値目標を取りやめる。外部機関によるこうした取り組みの調査への参加もやめるという。

https://www.asahi.com/articles/AST182S5XT18SFVU0PYM.html

こうした動きは日本の大企業でも見られるのかは注視したい。

○企業の多様性活動、米で見直し相次ぐ トヨタ・日産も
2025年1月8日

米国で企業の社会的責任とみられていた「DEI(多様性、公平性、包摂性)」推進の活動方針を取り下げる動きが相次いでいる。6日には米マクドナルドが多様性確保の目標を廃止すると発表した。同国では保守層からDEIに対し強い反発が起きている。トヨタ自動車や日産自動車も多様性を重視する姿勢は変わらないとしつつ、米国での活動方針の一部を見直した。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC23DD90T21C24A2000000/

■長期戦略のメリット(AIに聞いてみた)

長期戦略は「投資」という概念や「成長」という概念とは無関係に存在し得ない。
企業の成長という視点では、経営資源の再生産や極大化がテーマとなる。そうした経営リソースの中には、単にヒト・モノ・カネだけでなく、ナレッジやブランドなどもある。

バランスドスコアカードの中に「学習」がある事は、現在の組織能力だけでは視聴できないことも示唆している。

こうした対処の鍵となるものが多様性だと信じている。

ChatGPTに「「多様性(ダイバーシティ)の推進」が有効であると判断される理由は何か。」と問いかけてみた。そこそこ納得できる回答である。

ChatGPT:
「多様性(ダイバーシティ)の推進」が創発やイノベーションに有効であると判断される理由はいくつかあります。以下、理論的・実証的な根拠を挙げながら説明します。

1. 異なる視点・経験が新しいアイデアを生む
 多様なバックグラウンドを持つ人々が集まると、問題解決や意思決定の際に異なる視点や発想が交わるため、革新的なアイデアが生まれやすくなります。

 社会心理学では「認知的多様性(Cognitive Diversity)」が問題解決力を向上させるとされており、多様な考え方の混在が創造性を高めることが実験的に示されています(Hong & Page, 2004)。

2. 集団思考(Groupthink)の回避
 同質的な集団では、メンバー間の意見が似通いすぎてしまい、批判的な視点が欠如する「集団思考」に陥るリスクがあります。これにより、誤った判断が修正されずに意思決定がなされることがあります。

 多様なメンバーがいることで、異なる視点からの意見が出され、意思決定の質が向上することが示されています(Nemeth, 1986)。

3. 実証研究に基づく成果
 **マッキンゼーの調査(2020)**によると、性別・人種・文化的な多様性の高い企業ほど財務的なパフォーマンスが高いというデータが示されています。
**ボストン・コンサルティング・グループ(BCG, 2018)**の研究では、経営陣の多様性が高い企業ほどイノベーションの収益が高いことが確認されています。

4. 予測不能な結合(Unexpected Connections)による創発
 **アクター・ネットワーク理論(ANT)**の視点からも、多様なアクター(人間だけでなく技術や文化など)との関係が、新たな知識の形成や技術の発展に寄与することが指摘されています。
 ダイバーシティがある環境では、異なる専門性や視点の「異種交配(cross-pollination)」が起こり、既存の知識や技術の新たな組み合わせが生まれる可能性が高くなります。

5. ダイバーシティと心理的安全性の関係
 **エイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)**の研究では、ダイバーシティのある環境で「心理的安全性(Psychological Safety)」が確保されると、従業員が自由に意見を言いやすくなり、結果としてイノベーションの機会が増加することが指摘されています。
つまり、多様なメンバーがいるだけでは不十分で、オープンな対話や意見交換の文化が伴うことで、効果が最大化されると考えられます。

結論
 ダイバーシティの推進が有効であると判断されるのは、異なる視点の融合による創造性の向上、集団思考の回避、実証研究での成果、異種交配による知識の結合、心理的安全性の向上といった要素があるためです。
 ただし、多様性が単に存在するだけでは効果は限定的であり、組織として「異なる意見を尊重する文化」「心理的安全性の確保」が伴わなければならない点には注意が必要です。

(ここまで)

どうだろう。

■ISO9001の向かう先

ISO9001:2015という規格には下記の要求事項がある。

4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
 次の事項は,顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供する組織の能力に影響又は潜在的影響を与えるため,組織は,これらを明確にしなければならない。
a) 品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者 ご使用者 中野 康範 ((有)b) 品質マネジメントシステムに密接に関連するそれらの利害関係者の要求事項
 組織は,これらの利害関係者及びその関連する要求事項に関する情報を監視し,レビューしなければな
らない。

現時点では、こうした利害関係者の範囲は、地理的にも狭く時間軸的にも短期である。しかし、今回の気候変動の話は、広く世界を捉え未来も見据えた対応を求めると考えるのは行き過ぎであろうか。

2025/03/08