世間に転がる意味不明:下請け法改正は福音になりえるか(中小企業の賃上げの苦境)


世間に転がる意味不明:下請け法改正は福音になりえるか(中小企業の賃上げの苦境)

■賃金格差

2025年の春闘も賃上げが主たる話題になりそうである。
人材獲得も急務であり大企業では積極的に賃上げに動いているようである。

自動車部品メーカーの大手であるデンソーの賃上げなどもいち早くニュースとなった。

○ デンソー、賃上げ・一時金で早期満額回答 過去最高 2025年2月17日

デンソーは17日、2025年春季労使交渉で、賃上げと一時金について労働組合の要求に満額回答した。労組側は賃金を一律に引き上げる「ベースアップ」と定期昇給に当たる分を含めた平均賃上げ額で月2万3500円、一時金で6.3カ月分(255万円に相当)といずれも過去最高の要求をしていた。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFD174ZM0X10C25A2000000/

おそらくは大企業と呼ばれる多くの企業は積極的な賃上げに動くであろう事は予測できる。一方で、原資の確保が難しい企業は二の足を踏み、生産の低い企業や安い労働力でしか運営できない中小企業は淘汰されてゆくだろう。

中小企業のすべてが自助努力がないとは云わないが、それでも多くの企業が苦境に立たされていることは下記の記事でもうかがい知れる。

○ 中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定 2025/02/20

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチ(TSR)が「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。ただ、全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。
日本労働組合総連合会(連合)は、2025年の春闘方針で賃上げ率を、全体「5%以上」、中小企業「6%以上」と掲げているが、中小企業が6%を達成するにはかなりハードルが高いようだ。

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200988_1527.html

■外的要因の解決が必要

上記の東京商工リサーチの記事の中で下記の記載がある。

Q4.来年度(2025年度)賃上げを「実施しない」と回答した方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)
◇「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰している」が49.5%でトップ
 2025年度賃上げを「実施しない」と回答した企業へ理由を聞いた。706社から回答を得た。
 構成比の最高は、「原材料価格・電気代・燃料費などが高騰している」の49.5%(350社)だった。10産業のうち、建設業、卸売業、小売業、金融・保険業、運輸業の5産業で構成比が最高となった。
 僅差で「コスト増加分を十分に価格転嫁できていない」が48.4%(342社)で続き、コスト高騰と価格転嫁の難しさを賃上げが実施できない理由に挙げる企業が多かった。
(ここまで)

原材料費の高騰は寺社の努力だけでは吸収し得ない要因であり、最終的には消費価格に転嫁せざるを得ない。こうした循環が正しい形でまわらなければ、どこかにしわ寄せが生じる。

これまでの慣行では、いわゆる下請けに無理をさせることが常態化していたのだろう。自動車メーカーなどが金型の保管を無償でさせていた事件などを見ると、彼らの善意に頼ることには限界がある。

そうした意味では、下記の取り組みは期待したい。

○ 価格協議を義務化 下請法改正案を閣議決定 2025年3月11日

政府は11日、下請法改正案を閣議決定した。発注事業者が一方的にコストを無視した取引価格を決めることを禁止し、下請け事業者との価格協議を義務付ける。サプライチェーン(供給網)全体で適切な商取引を促し、中小企業の賃上げにつなげる。

政府は下請中小企業振興法の改正案も同日、閣議決定した。価格転嫁や取引適正化についての取り組みが不十分な事業者に対し、指導や助言をしても改善が見られない場合には、より具体的な措置を求めるようにする。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1106N0R10C25A3000000/

当然、自助努力もしないブラックな企業は淘汰されるべきかもしれないが、外的要因で苦境に陥っている企業は支援が必要である。
「淘汰」と「支援」は対立する概念ではなく、より強い中小企業群を形成するために両方必要な施策である。まずは正しい状態に戻す事であろう。

2025/03/13