「コミュ力(りょく) 松村清 2011年」


■書評めいた話

どのようなタイミングで購入したか明らかではないが、10年以上前であろう。当時は、日本経営品質賞やISO9001の審査員という立場での仕事をする事が多くなっていた時期だと思う。システム開発が個人で完結するのに対し他者との意見交換や、そのとりまとめが必要になり、それまで余り真剣にコミュニケーションというモノを考えてこなかったので目をひいた図書と言うことだろう。

書籍はコミュニケーションの大切さや、コミュニケーションスタイル毎の処方箋、コミュネーションの自己診断なども含まれており、そのまま読み進んでいっても「研修」を受けているのかと錯覚するほどの内容である。なるほど著者の経歴を見ると納得できる。

しかし、表紙で書かれている「あなたの評価を高める」、「外国人と心が通じる」などという言葉には疑問符もつく。それは、ここで書かれていることをそのまま実行できると言うはずもなく、またコミュニケーションは個性を反映するものであるからだ。否定しているのではない。人に対して例を持って接するのは当たり前であるし、私自身もそう心がけている。それで十分であろうと言うことを言っているだけである。

人には個性があり、こちらの話が自分の価値観に合わせて解釈するために「キャッチボール」が旨く進まないこともあるし、最近は外国人労働者も増え、彼らが日本語になれるまでには意思疎通も時間をかけて行なう必要がある。また、いわゆる「どもり」の人もいるので、彼らに対しては、そうしたことを気にしているというそぶりを見せずにゆっくり待つと言うことも必要である。

これもまた当たり前と言うことだ。

この書籍で述べられているのは「一対一」でのコミュニケーションが中心である。しかし、不特定多数に伝えるというコミュニケーションもあるし、多くの人からの情報伝達を裁くというコミュニケーションもある。それをカバーしているかと言えばそこまでは言えない。

それを前庭に読むことを薦める。

■コミュニケーションに関する話題(AIの介入)

コミュニケーションに関しては、やはり中々解決されない課題も多いのだろう。こうした書籍は今後もニーズはあるかと思う。その一方で、それならそれでと言うことでAIに頼るという方向性があるのかもしれない。

先日、就活に関しての面接で、AIによるアバターが面接するという記事を見た。背景には、面接官自身のコミュニケーションの問題もあり、切実なところでは「セクハラ」問題もありそうだ。

○ 就活セクハラ、3人に1人被害 法改正で企業に防止義務
2025年2月14日

就活セクハラの防止対策が、2026年にも男女雇用機会均等法上の正式義務になる見込みだ。就職活動中の学生など求職者の3分の1が被害を経験している。就活生と企業の間に雇用関係がないことからこれまでは労働法の保護対象から外れていたが、企業は面談のルール作りや相談窓口の設置が必要となる。怠ってセクハラを放置すれば法的責任を問われかねない。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOTG16BYP0W5A110C2000000/

昭和の時代と違って、業務に直接関係のない話(思想、親の職業、戸籍(これは部落問題で特に微妙)など)は聞くこと自体がアブナイ。養子や性別、病歴なども身長に聞かなければならない。当然ルールなどはあるだろうが、人間が行なうコミュニケーションは予測できないところがある。上記の本に従って訓練したからと言っても「注意一秒けが一生」は冗談では済まされない。

こうした解決にAIを活用することは時代の流れかもしれない。

○ 「AI面接官」が就活生を評価、広がっているけど…メリットの裏にあるリスクも無視できない
2024年8月27日

 「自己PRの内容をご説明いただけますか」。パソコンの画面に表示されたイラストの面接官が人工音声で問いかけると、学生は「塾講師のアルバイトで生徒と積極的にコミュニケーションを取り志望校に合格させました」とアピール。AI面接官は「その経験は素晴らしいですね」とほめ、「問題に取り組む視点をどう変化させましたか」と追加で質問を投げかけた。
「AI面接官」による面接のイメージ。就活生は、パソコンに表示されているAI面接官の質問に応じて回答していく=VARIETAS提供

これは、東京の新興企業「VARIETAS(バリエタス)」が5月に始めた企業向けサービス「AI面接官」のデモ体験の様子だ。AIは、相手の回答に感想を述べ、考えを深掘りする質問をする。20~60分ほどの時間で対話を重ね「やり遂げる力」「入社熱意」「戦略的思考力」など30項目で評価。全体を200点満点で採点し、顧客企業に報告する。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/349899

もっとも、こうしたメカニカルな世界は間違えばSPIなどの形骸化した入社試験の二の舞になりかねない。注意が必要だ。

■「伝えた」と「伝わった」は違う

面白いと思っているのは、ISO9001:2015という規格にも「コミュニケーション」に関する要求事項があり、下記の通りである。

7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。
a) コミュニケーションの内容
b) コミュニケーションの実施時期
c) コミュニケーションの対象者
d) コミュニケーションの方法
e) コミュニケーションを行う人

ただし、「コミュニケーション」とは何かは定義されていない。
以前、ネイティブの人に確認したのだが、「ここで言うコミュニケーションは、それをしなければならない人々に適切に情報を伝えること」ではないかと云われた。

それは、口頭での話というよりは文書として提示することの方が多く、例えば人事異動の掲示物、「立入禁止」の看板、道路標識、飲食店での表にあるメニューサンプルなどもこれに含まれるようだ。

したがって、原則は「一対多」であり、十分伝わルための条件を備えて入れば「伝わったかどうか」は問わないのだろう。そこには「情報の正確性・妥当性」が要件となる。

最初の書籍とは方向性が異なる。

■まとめ

結局誠実にという事なのだろう。身も蓋もない云い方ではあるが。