ISO9001と経営:「6.1 リスク及び機会への取組み」(トランプ関税がもたらす不確実性)


ISO9001と経営:「6.1 リスク及び機会への取組み」(トランプ関税がもたらす不確実性)

規格要求事項を一般論で語ってはいけない

■右往左往する人々

2025年にアメリカ大統領にトランプ氏が就任してから、後先を考えないような「関税政策」を打ち出している。実際に発行された関税についてはそれほど内にしても、自動車関税の発行やEUへの関税強化は、各々の国との確執を生み出しかねない状況になっている。

そのせいであろうか、2025/03/31での日経平均株価は大きく下がり景気への先行きや企業業績への懸念が表出している。

しかし、自動車部品を含めて自国ですべて賄うことができない以上、関税は国内産業にとっても得策ではないことは明らかであり、アメリカンビッグ3の業績への暗雲も株価下落という形で出てきている。

世界のサプライチェーンが相互に依存している中での高関税はメリットよりもデメリットの方が大きいことは自明であり、トランプ大統領の思惑がその通りに行かないだろうと言うことは、下記の記事の対を見れば明らかであろう。

○ トランプ氏、欧州ワインに関税200%の方針-EU報復措置に対抗 2025年3月13日

トランプ氏は「関税が直ちに撤回されないのであれば、米国は近く、フランス産および他のEU加盟国産の全てのワイン、シャンパン、アルコール製品に200%の関税を賦課する」と表明。「これは米国のワイン、シャンパン業界にとって素晴らしいことだ」と投稿した。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-03-13/ST29P3DWRGG000

「しかし、そうはならない」と下記の記事で解説されるが、おそらくはその通りであろう。

○ トランプの「EU産ワインに200%関税」で米ワイン産業は崩壊する  2025.03.27

そうはならない。生産者にとっても、飲食店にとっても、小売業者にとっても。もちろん、消費者にとってもだ。

なぜか? この関税が米国のワイン生産者に利益をもたらすという仮定から検証してみよう。表向きには、典型的な保護主義だ。欧州産ワインを手の届かない代物にしてしまえば、買い手は米国産ワインに切り替えるだろう。しかし、米ワイン業界は世界から隔絶した状態で活動しているわけではない。輸入業者、流通業者、レストランのワインディレクターは、持続可能なビジネスを行うために多様なボトルのポートフォリオを組んでいる。一夜にしてEU産ワインをすべて排除してしまったら、国内生産者のための余地が増えるどころか、安定性が失われるだけだ。

https://forbesjapan.com/articles/detail/78093

それでも混乱は免れないだろうと右往左往する人々も多い。

■「アメリカ大統領がトランプである」と言うリスク

こうした、未来を左右する不確定要素を「リスク」と呼ぶ。
直接的には「為替」に輸出入が左右されるというリスクであるが、「アメリカ大統領がトランプである」事もリスクとなる。

どういうことか。諸々の解説記事では以下のように指摘される。

●アメリカ合衆国憲法では、関税を含む通商に関する権限は本来連邦議会に属しています。​しかし、過去数十年にわたり、議会は特定の条件下で大統領に関税設定の権限を委譲してきました。​例えば、国家安全保障上の理由や国内産業の保護が必要と判断された場合、大統領は独自に関税を設定することが可能です。​このような措置に対し、議会は関税の影響を監視し、必要に応じて立法措置を講じることができますが、実際には大統領の決定を覆すことは難しいとされています。

すなわち、議会制民主主義というプロセスが機能せずに、時の権力者により重要な政策が議論もされずに施行されうると言うことになることを意味している。もちろん法的な手続きはあるものの、十分が議論がされないと言うことは、相手国からすれば法的安定性などは期待できずに「信頼」に基づいた二国間関係をつく例ないことになるので非常に危険なことであろう。

指摘されるのは、こうした議会制民主主義をないがしろにする政策を続けた場合
・「大統領が変わるごとに関税が変わる」のは、国際貿易の安定性を損なう要因になり得る。
・特に、EU・中国などの国々は、長期的な貿易関係を築きにくくなり、米国を信用しづらくなる。
・結果として、貿易摩擦がエスカレートし、経済的な不確実性が増すリスクがある。
と言うことでろう。

■ISO9001:2015という規格での「リスク」の言及

企業側も備えが必要であろう。ISO9001:2015という規格では明確には個別の事案を載せていないが汎用的にはこうしたリスクに注意を促している。

6.1 リスク及び機会への取組み

6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき,組織は,4.1 に規定する課題及び4.2 に規定する要求事項を考慮し,次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a) 品質マネジメントシステムが,その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b) 望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d) 改善を達成する。

6.1.2 組織は,次の事項を計画しなければならない。
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取組み
b) 次の事項を行う方法
1) その取組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4 参照)
2) その取組みの有効性の評価
リスク及び機会への取組みは,製品及びサービスの適合への潜在的な影響と見合ったものでなければならない。

規格要求事項は具体的な記載は何もなり。
しかし、漠然と考えていることは思索が手遅れになる恐れもある。
例えば、急激な関税の変更は注意が必要で下記なども指摘されている。

新たな関税が導入されると、輸入業者は追加のコストを負担することになります。​これにより、商品の販売価格が上昇し、消費者の購買意欲に影響を及ぼす可能性があります。​特に、輸入部品に依存する製造業者や小売業者は、コスト増加に直面し、利益率の低下や価格転嫁の必要性が生じることがあります。 ​また、関税の影響を受ける企業は、サプライチェーンの見直しや生産拠点の移転など、戦略的な対応を検討する必要があります。​しかし、これらの対策には時間とコストがかかるため、迅速な対応が求められます。​
関税の導入は、国内産業の保護を目的としていますが、同時に企業活動や消費者に多大な影響を及ぼすため、関係者はその動向を注視し、適切な対応を講じることが重要です。

規格要求事項を一般論で語ってはいけないという一つの事例である。

2025/03/31