戦略人事:人材が定着しない前提での制度設計の必要性(七五三の崩壊)

戦略人事:人材が定着しない前提での制度設計の必要性(七五三の崩壊)
ChatGTPと色々やりとりしてみました。

■ステレオタイプ的な分析

人手不足に関しては2025年には改めて際立っていることが感じられる記事が多くなっている。少し特異なのが、新入社員が入社したその日に退職するという記事だろうか。以前より簡単に勤めだしてから辞めると言うことがクローズアップされる。
◇ 新卒3ヵ月以内の離職率50%超え。「早期離職」のリアル
2025/04/20
同社によると、2024年度に退職代行サービス「モームリ」を利用した新卒社員は1,814名。これは、2024年4月1日から2025年2月28日までの期間に同サービスを利用した全利用者2万1,104名の8.6%に相当する。
同調査の月別利用者数を見ると、5月が298名と最多。次いで入社前後の4月が256名、6月が251名という結果になった。入社4ヵ月以内の離職が目立ち、ゴールデンウィークやお盆、年末年始といった長期休暇後にも離職希望者が増加する傾向があるという。「入社直後と大型連休後には、特にフォロー体制の構築が重要」と、同社は指摘する。
こうした記事を見ると、ある言葉が思いつく。三年内離職率の「七五三」という言葉だ。マクロなデータを見る限り、この数字は2000年以降も変っているわけではない。しかし、三年という期間ではなくもっと早い時期の退職率が高まっているというように見える。
こうした事は若者の就労観が変ってきているのではないかという仮説とセットになって語られるが私は少し懐疑的だ。この懐疑的なことについてChatGTPに聞いてみたところ以下のように補足された。
1. 「就労観の変化」は確かにあるが、万能な説明ではない
 自分らしさ/快適さの重視、企業へのロイヤルティの希薄化、SNSなどによる他者比較の加速、といった変化は確かに若年層に見られる。ただし、これは「離職した理由」というよりは、「辞めるという選択が可能になった環境的後押し」と見る方が妥当である。
2. 企業の側に問題がある可能性も大きい
①採用ブランディングと実態の乖離:
 説明会では「風通しの良さ」や「挑戦できる環境」を謳いながら、配属後は旧態依然の業務に置かれるケースがある。
②配属リスクの大きさ:
 新卒一括採用で、入社してから希望と異なる部署に配属される構造は、特に「意味」や「成長」を重視する層には強い違和感を与える。
③受け入れ側の“教育余力”の低下:
 現場に余裕がない、マネジメント層が“ゆとり世代”の価値観を理解できていない、などのギャップの発生。
3. 離職しやすい社会環境
・退職代行サービスの一般化:心理的ハードルの低下。
・第二新卒市場の成熟:3ヵ月で辞めても「やり直せる」ことが前提化している。
・親世代の理解の変化:失敗が早期なら回復もしやすいと見る傾向。
4. 離職理由の“表面”と“構造”を分けて考えるべき
 多くの企業は「メンタル不調」「人間関係」「成長実感がない」などの“理由”に注目するが、それらは症状であって原因ではない。根本的な構造要因としては以下が考えられる。
・配属前研修やOJTが形骸化している
・「どう働くか」の自律性が与えられていない
・初期に小さな成功体験を得にくい業務設計になっている
 三年離職率「七五三」の時代変化として、旧来の三年離職率は制度・職務の不一致や成長機会の不足といった“蓄積されたミスマッチ”による離職が主だったが、現在の早期離職は「そもそも入口が間違っていた」か「現場が想像以上に荒れていた」といった“即断型の見切り”に近いのが特徴である。

■本当か?

前項の記載は、ChatGTPとのやりとりで「なるほど」と思ったことを受け入れて引用している。しかし本当だろうか。若者の考え方(就労観)が変っているとは思えない。
私自身が50年近く前に就職したころから感じていたことはは、
①彼らは「就職」ではなく「就社」と言う視点で行動する。
②自分のやりたいことをたかだか10年前後の思考経験で見つかるはずもない
③入社した会社が自分のやりたいことと合致するのはかなりの幸運が必要である
ということだ。
④会社の分化などは大企業であればあるほど変っていないと思っている。
従って、会社の構造も若者の就労観も関係なく、流動を後押しする社会システムが整備されただけではないかと思っている。これをChatGTPにぶつけてみたところ下記が返ってきた。
①「就社」志向は依然として残っている
「自分に合った会社に入りたい」「人で選びたい」
 → これは一見「会社」ではなく「仕事」志向に見えますが、実態はやはり「総合職的な安定の幻想」や「入社=キャリアの完成」といった“就社”メンタリティが根底にあります。そのため、配属の自由度が低い日本型雇用では、ミスマッチが起きる確率が高く、かつそれを「個人の意思で変えにくい」構造に直面するというズレが離職動機を誘発しやすいのです。
②「やりたいこと」は若年期には“幻想”に近い
「10年程度の思考経験では、本当にやりたいことなど見つかるはずがない」
→ これはキャリア選択が“自己決定”だという幻想への鋭い批判です。実際、多くの若者が語る「やりたいこと」は、教育環境やSNSでの外的刷り込み、「成長した感覚」を得られることへの欲求、“安定の反対”を志向することで逆説的に自己肯定を得たい欲求、といった外的期待の内面化であり、必ずしも内発的ではありません。この不確かな「欲望の地図」と、企業の“配属ガチャ”が噛み合うのは、もはや偶然に近い。
③「会社と自分の一致」は幸運による要素が大きい
「やりたいことが入社先にあるのは運」
→ そのとおりであり、「やりたいこと」と「できること」「必要とされること」が重なるには、以下の3つが偶然にも整う必要があります。
・本人の資質・特性と業務の要求水準
・組織文化や人間関係とのフィット
・業務内容が“やりがい”と一致する時期的な偶然性
つまり、この一致は構造的にはレアケースであり、合わないことの方が自然です。
その“外れ”を許容する社会の度量こそが重要になっているのです。
概ね私が感じたことを補強する内容である。
このように見ると、今起きている「早期離職の増加」は、若者が軟弱になった、企業がブラックすぎるといった“属性”の問題ではなく、「合わない」を可視化・選択できる社会システムが成立したという構造変化にほかならず、そこには:
・退職代行の普及
・第二新卒マーケットの拡大
・(転職=失格者という)社会的烙印の希薄化
・SNS等による他社事例へのアクセスのしやすさ
といった「選択可能性の解放インフラ」の存在が背景にある。これは、価値観の変化というより、制度と情報の変化が「選べる自由」を支えているというのが本質的構図と考えられる。

■ではどうするのか

もちろん正解があるわけではないが、「合わないと感じた社員は容易に辞めて行く」という前提での人事エイドの設計はどうなのかということを問い掛けて得た結果はなるほどと思う事が強いのでここに引用しておく。
1. 初期定着支援策(Onboardingの再構築)
“自分の現在地”と“会社の期待値”とのギャップを見える化し、すり合わせの場を確保すること。
◎ 有効なアプローチ
施策      内容      目的
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オンボーディング・コーチ制度
        新人に1on1形式で話せる“育成専任者”を配置
               安心感と自己認識の深化
配属前インターン型職場体験
        配属前に複数部署を1~2週間体験
               配属の選択肢を当事者に持たせる
リフレクション・ジャーナル導入
        自分の学びや感情を定期的に記録・共有
               メタ認知力とレジリエンスの醸成
リ・マッチング面談制度
        一定期間で配属先の再検討ができる制度
               “最初の外れ”にリカバリーを与える
2. 配属設計の見直し
◎ 「適材適所」から「暫定試用・再検証」へ
現在の変化する若者像においては、「適材適所」の“見極め”そのものが難しくなっている。そのため、より現実的なのは:「試しに接続して、違えば直す」ことを制度設計で許容する方向。
◎ 具体施策
見直し施策           説明
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バッファ付き配属制度(例:2ヵ月トライアル)
               最初は“仮配属”とし、業務経験後に本配属を決定する
複数部署ローテーション(ジョブホッピング型)
               1~2年のあいだに複数部署で経験を積み、定着先を“選ばせる”
本人希望申告制度の強化
               単なる参考ではなく、希望を“構造的に反映する”プロセスに変更
「納得感のある不一致」の設計
               「合わなかったが、納得できた」という経験設計(例:フィードバック付き不採用)
3.価値観の転換
こうした施策は単なる“人事の工夫”ではなく、以下のような前提の価値転換を必要とする:
従来の価値観           新しい価値観
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「選ばれた会社で働き続ける」  「合う場所に移れることが健全」
「配属は不可避の運命」     「配属は仮説であり、検証できる」
「辞めない人が優秀」      「合わないと判断できる人も優秀」
「本人の我慢」         「制度で試行錯誤を支援する」

■あとがき

ここでの記載事項の多くはChatGTPとのプロンプトとその回答の繰り返しの中で得られた知見が多く含まれている。内容については検証されていないものも多い。ただし、何を受け入れるかは中野が判断している。
とはいえ、記事を見て。安易に「若者は」というステレオタイプ的な発想に陥ることは目の前にある落とし穴に陥りかねない。記事に対する懐疑を明らかにし、それを検証し、対策を立てることが戦略人事に求められる。
こうした戦略の構築は従前は専門家・コンサルタントの知見が必要だった。
いまやAIでこれを補完することが可能になりつつある。
是非活用して欲しい。
2025/05/04