「絶体絶命でも世界一愛される会社に変える! 2代目女性社長の号泣戦記 石坂産業株式会社 石坂典子」 2014年


「絶体絶命でも世界一愛される会社に変える! 2代目女性社長の号泣戦記 石坂産業株式会社 石坂典子」 2014年

本の「おわりに」の最後に「日本の廃棄物処理ビジネスは世界で通用する。」と宣言し、おそらくは今でもそこに突き進んでいるのだろうと思う。

日本経営品質賞という活動に興味を持ち、そこで「石坂産業」の見学ツアーがあり、いわゆる産廃業者とは一線を画す風景に驚いたことを思い出す。もっとも、いわゆる焼却場ではなく理作るの企業である。

当時でもすでに売上高40億円、経常利益率20%という好業績企業ではあるが、いったんは破滅の淵まで行っている。

●1999年2月1日、久米宏さんの報道番組「ニュースステーション」(テレビ朝日系、当時)で「汚染地の苦悩、農作物は安全か?」という特集が報道。

ダイオキシン自体が話題になっていたこともあり、廃棄物の焼却がやり玉にあがっていた時期であろう。もっとも、この報道はいい加減なものであり、ダイオキシンも農産物ではなく煎茶で、しかも問題になる基準ではなかった。報道番組の責任を感じるものの、結果誤られてもどうしようもなく、地元住民からは企業そのものの存在そのものを否定された状態になってしまった。

産廃業者としては「廃業」せざるを得なくなり、再生を模索するしかなくなった。
最初にすべきは、「まっとうな会社にすることだった」事がうかがえる。

●社長になった私は“脱・産廃屋”を掲げたわけですが、そもそも会社に「経営理念」が無いことに気がつきました。父(前社長)に経営理念をつくって欲しいと頼むと二日後に紙を渡されました。そこには「謙虚な心、前向きな姿勢、そして努力と奉仕」と書いてありました。

●誰でもできる当たり前のことを徹底
「就業時間内は仕事をする。勝手に遅刻や早退しない」
「挨拶(おはようございます。ありがとうございます。お疲れ様です)をする」

そして、自社に発注する側での「取引先工場チェック表」でのISO14001取得が必要と考え、会社のいろいろな仕組みを変えてゆくことを進めたというのが最初のトピックであろうか。

私自身はISO9001の審査員をしているので、なんとなく分かるのだが、一言で言えば「自分たちで作ったルールは守りなさい」「世間とかけ離れたルールは辞めなさい」「法律は守りなさい」といった、まっとうな会社運営を求めるのがISOである。たばこを吹かしながら過積載や信号無視などを平然としている輩には向かない。「 ヘルメットをコンクリートの床にたたきつけて辞めて行く社員」が40%にも達するのは理解できる。

日本経営品質賞にふさわしい経営を実践する経営者に比較的多いのが「逆境」からの再帰である事と、価値観の転換ではないかと思っている。その代表的なことは、「社員重視」の姿勢だろう。

●プラントや機械にいくら設備投資をしても、機械は勝手に動いてくれません。・・・要するに、点検する人と掃除をする人がいなかったら、同じ機械を買っても100%の性能を引き出せないし、労働環境が悪くなり、事故も多発します。だから「社員教育」が必要なんです。教育には、時間、労力、費用がかかりますから後回しにしてしまう企業も多いと聞きます。でも、勉強させてもらった社員は「期待されている」と感じます。・・・徐々に仕事を任されるようになれば仕事が楽しくなります。

●「仕事に社員を合わせず、社員に仕事を合わせる」・・・経営者の中には、やるべき仕事が先にあり、そこには社員を当てはめる方法をとる方も多いでしょう。でも私のやり方は反対です。「この人はこういう感性を持っているし、こういうことができるから、あの仕事を任せよう」と考えます。

簡単に言うが、これを実践できる経営者は少ない。
石坂典子氏の卓越性はその先見性にも見られる。

●実は新しいプラントにリニューアルするときに、世の中で一番困っている廃棄物(不燃系廃棄物 木くずやコンクリートなど)に目を付けたのです。・・・そこで私たちは、建設現場などから出る不燃系廃棄物の処理に力を入れようと、多額の投資をして、新技術を搭載した「全天候型プラント」にリニューアルしました。

業績は好調で、売上高41億円、経常利益率20%は結果であり、約束されていたものではない。その中での40億円の投資は経営者としての能力の高さを感じる。

印象的だったのは、「おわりに」に記載された以下の一文である。

●ラテンアメリカの多くの地域は、経済成長にともない、古いインフラを解体し、新しいインフラにつくり変えているところです。産業廃棄物の排出量が増えていますが、リサイクル技術は進んでいません。廃棄物のリサイクルが率が100%近い石坂産業の技術を学びました。祖国に広めたいです。」(コスマス・シファキ パナマ大使)

ビジネスの可能性を感じた一瞬だろう。

(中野のあとがき)
私自身は2000年頃から日本経営品質賞のセルフアセッサーとなり、しばらく前までは審査員としての活動をしていた。その過程で、日本経営品質賞の受賞組織や優れた企業の講演や企業見学なども行なっており、その縁で入手した本の一つである。
経営をどのように舵取りをしようかと迷っている経営者には一読して欲しい。
すべてをまねることはしなくとも良い。経営には独自の文化観や価値観がある。それを損なわない答えは経営者自身しか見つけられない。それでもヒントになりうる良い本だと思う。

2025/05/06